わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……

月白ヤトヒコ

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フハハハハハハハっ!! その娘は、我が教会一の阿婆擦れよ!

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「新たなる教皇よ。王太子であるわたし、ゲスナーとシスター・カスリンとの婚約を認めて頂きたい。そして、真の聖女であるカスリンを虐げ、聖女を騙るその女の処刑を求める!」

 王太子が、真の聖女であるところのシスター・カスリンを抱き寄せ、偽聖女だとしてシスター・ソフィアを指差した。

 豊満な肢体のシスター・カスリンが密着したときに、王太子の顔がニヤけるのが見て取れた。

 そして、わしは・・・

「フハハハハハハハっ!! その娘は、我が教会一の阿婆擦れよ! その阿婆擦れを娶る覚悟があるなれば、其方らの婚姻を承諾しようではないかっ!?」

 シスター・カスリンと王太子ゲスナーの二人を指差して、高笑いを上げた。

「っ!! ……ひ、酷いです教皇様!」

 顔を真っ赤にして、一瞬だけ強い怒りの表情を浮かべたシスター・カスリンがその怒りの表情をぐっと押し隠し、即座に浮かべた涙を王太子へと見せ付けるように悲しげな表情で見上げた。

 う~む。芸が細かいのう。けど、わしにはその表情の動きが全~部見えとるんじゃがの?

「っ!? 教皇! 幾ら教皇だとて、我が国の未来の王妃への侮辱は許されることではないぞっ!! 教会に強く抗議させて頂く! 元からの候補でもなく、支持者もいないぽっと出の分際で、このまま教皇の座に就いていられるとは思わぬことだなっ!?」

 と、わしを憎々しげに見据える、他国の王太子であるゲスナー。

 う~む。わし、やっちっまった・・・?

✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧

 おっす、わしロマ爺。八十九歳。ぽっと出教皇や漁夫の利教皇と呼ばれておる、ぴっちぴちの新米じじい教皇。

 健康であることと穏健派というだけが取り柄で、「日和見主義の毒に薬にもならん教皇になるだろう」と侮られておるそうじゃ。まぁ、大方その通りじゃと自分でも思うておるがの。

 こんなわしが教皇に就任させられたそもそものきっかけは・・・

 数週間前のことじゃった。

 わしは、老いぼれ司祭としてのんびり過ごしておった。

 いつものように教会の敷地内を散歩し、口の悪い連中に徘徊老人と揶揄からかわれ、それを笑い飛ばしたり愛想笑いでスルーしたり、怒っておる振りをしたり、持っている菓子を見習いシスターや見習い修道士、教会で保護しておる孤児達のちびっ子達に配り、同士たる茶飲み友達のばばあシスターとお茶をして――――

 と、のんびりまったり過ごした昼下がり。

 憂鬱な気分で講堂へ向かった。

 三年前にご逝去なさった、前教皇猊下の後釜を決めるための教皇選定の儀が迫っておったのじゃ。

 前の教皇猊下は亡くなる前は大層お元気な方で、あと十年は務めるであろうと言われておった。じゃったのに、ある日突然ぽっくり逝きおったのじゃ。

 それまでがとてもお元気であったので、後任の指名などされておらなんだ。故に、次期教皇候補が自薦他薦込みで複数人おった。大揉めに揉めて、新しい教皇が全く決まらなんだ。

 お偉いさんが後継を決めずにぽっくりというのは、大混乱の元じゃのぅ。しみじみ、実感したわい。

 そして、二年程喪に服し、次いで新教皇選定の儀……という名の、実質的な選挙が始まったのじゃ。

 一年程、自薦他薦込みで教皇候補達が選挙活動を行い、教会をどのように導いて行くかというアピールをし、根回しやら草の根運動やらがあって――――

 本日、選挙の最終演説が講堂で行われる。

 この演説が終わると、どの候補が新教皇に相応しいかの投票が開始される。

 候補は数名とは言え、有力な候補者は二人。他の候補者は賑やかしや、際物。そして、有力な候補者を教皇へ就けるための仕込みの候補と言ったところじゃの。

 そして、この有力な候補二人というのも・・・

 ぶっちゃけ、めっちゃヤバい二人なんじゃよな~。

 一人は金や権力大好き、慾塗れの俗物司祭。そして、もう一人は敬虔で、神の教えを厳格に守り続ける司祭。

 この二人なら敬虔な奴のが、教皇に相応しいと思うじゃろ? ところがどっこい! 敬虔……というのは表向き。むしろ、敬虔を通り越してもはや狂信に近いというのが実情。

 有力な教皇候補がこの二人。他は際物。その他は、俗物か狂信者のシンパ。

 うむ・・・うちの教会ヤバくね?

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