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料理人ヒースの場合。
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「・・・ヒース。お祖父様とお母様のことは残念でした。ご冥福をお祈り致します。けれど、わたしはあなたのその気持ちを、とても尊いことだと思います。あなたが、それでも料理人になりたいというのであれば、わたしも応援します」
そしてオリーが、
「・・・どう思われますか? 道化様は」
ドアへ向かって問い掛ける。と、
「・・・ボクだって、ヒースが本当に料理人になりたいなら、応援するよ?」
少し元気のない可愛らしい声と共に、フードを被った頭がひょっこりと部屋を覗く。
「! アルルちゃんっ!?」
「道化様がしおらしいと、違和感が凄いですね」
「あのね、オリーちゃん。ボクだって、偶にはへこむことくらいあるんだよ」
ぷい、とそっぽを向く道化。
「そうですか」
「そうだよ。もうっ、…ホントオリーちゃんは、姫に似て来たよね…それで? ヒースは、料理人になるって決めたのかい?」
「ああ。最初は父さん母さん、じいちゃんに美味しい物食べさせたいと思ってたけど・・・俺はやっぱり、誰かの美味しそうに食べる姿が好きなんだ」
「そっか・・・わかったよ。それなら、このボクがヒースを最強の料理人に育ててみせようじゃないかっ☆」
「道化様、料理をなさるのですか? 料理は賢者様がお得意だと思っておりましたが」
「ふっふっふっ、ボクはね、オリーちゃん。混ぜるな危険で遊ぶのが大好きなのさ♪」
元気を取り戻し、ニヤニヤと笑みを含んだ可愛らしい声が宣言する。
「存知ていますが?」
「というワケで、ヒース!」
「なんだ? アルルちゃん」
「ボクは心を鬼にして、君をグラジオラス辺境伯領私設軍へ放り込むから覚悟したまえっ☆」
「へ?」
そして翌日。ヒースは本当に、グラジオラス私設軍の訓練へと放り込まれた。
更には、訓練が終わった後に、道化のスペシャルな授業を受けさせられるという。
ちなみに、軍の訓練にはヒースよりも小さいアイザックが交じっていた。しかも、アイザックの訓練は、なぜかヒースの訓練よりもハードで、ヒースには気付いていないようだった。
「なんで、軍の訓練なんかっ……」
へばりながら文句を言うと、
「うん? ボクは言ったじゃないか? ヒース。君を、最強の料理人してみせようっ☆ ってさ?」
ふふんと胸を張る道化。
「いや、それなんか最強の意味が違くね?」
「全くもうっ、なにを言うんだいヒースは! 生きてさえいれば、料理が作り放題だろうっ☆例え冤罪や濡れ衣を掛けられとしても、そこから逃げ出せばいいのさ♪軍の訓練は、生き抜く為のものだからねっ☆」
「まぁ、そういうことです。一般教養の護身術程度では、軍に追われてしまうと抵抗するのは少々厳しいでしょうし」
「・・・ところで、なんでオリー様がここに?」
「ふっふっふっ、オリーちゃんはボクの生徒なのさっ☆ヒースの先輩だねっ☆」
「オリー様が、先輩?」
「ようこそ♪ボクの毒物学★講座へ!」
「毒物学、講座?」
「ええ。毒物を知ることは、高位貴族としての嗜みの一つですので」
「怖っ! なんかすっげー怖いんだけどっ!?」
「宮廷料理人や毒味役の嗜みでもありますよ」
「そういうこと、か・・・アルルちゃん」
「そういうことだねっ☆万が一、毒物が混入しても、毒物の味や効果、解毒方法を知っていれば、対処が可能になるだろう? 対処法を知っていれば、即座に殺される可能性は低くなる」
こうしてヒースは、軍での訓練に揉まれ、道化の毒物学講座を受け、身体を鍛え、知識を蓄えた。
更には、アイザックの後を追うようにして、メルク商会の極限地域のキャラバンへと放り込まれた。
そして、様々な地域で生き延びる術を学んだ。巡った場所でその地域独特の料理、食材、調理法、調味料と出逢い、更には食材の調達法、狩猟方法を嬉々として学んだ。
ヒースはどの地域に行っても貪欲に美味しい物を求め、作り方を学び、料理を振る舞い、それを食べる人々の美味しそうな笑顔を、慶んだ。
こうして、道化の目論みで一流の冒険家並みに動ける最強の料理人が出来上がった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「さて、どうすっかなぁ」
「どう、とは?」
「次はどこへ行くかと思ってな」
「……あまり辺鄙過ぎる場所に呼ばれるのも困るのですがね? ヒースさん」
と、ディルは放浪癖のある料理人を見やる。
「ハハハ、悪ぃ悪ぃ」
全く悪いと思っていなさそうな顔でカラカラと笑うヒース。
「・・・まぁいいですけど、本格的に追われる前に、さっさとこの地域を抜けましょう。『砦落とし』が出たと、騒ぎになると面倒です」
ディルは溜息を吐き、ヒースを促す。
「そうだな」
と、『砦落とし』と称されて各所方面の軍事関係者から恐れられる、最強の料理人が立ち上がった。
そしてオリーが、
「・・・どう思われますか? 道化様は」
ドアへ向かって問い掛ける。と、
「・・・ボクだって、ヒースが本当に料理人になりたいなら、応援するよ?」
少し元気のない可愛らしい声と共に、フードを被った頭がひょっこりと部屋を覗く。
「! アルルちゃんっ!?」
「道化様がしおらしいと、違和感が凄いですね」
「あのね、オリーちゃん。ボクだって、偶にはへこむことくらいあるんだよ」
ぷい、とそっぽを向く道化。
「そうですか」
「そうだよ。もうっ、…ホントオリーちゃんは、姫に似て来たよね…それで? ヒースは、料理人になるって決めたのかい?」
「ああ。最初は父さん母さん、じいちゃんに美味しい物食べさせたいと思ってたけど・・・俺はやっぱり、誰かの美味しそうに食べる姿が好きなんだ」
「そっか・・・わかったよ。それなら、このボクがヒースを最強の料理人に育ててみせようじゃないかっ☆」
「道化様、料理をなさるのですか? 料理は賢者様がお得意だと思っておりましたが」
「ふっふっふっ、ボクはね、オリーちゃん。混ぜるな危険で遊ぶのが大好きなのさ♪」
元気を取り戻し、ニヤニヤと笑みを含んだ可愛らしい声が宣言する。
「存知ていますが?」
「というワケで、ヒース!」
「なんだ? アルルちゃん」
「ボクは心を鬼にして、君をグラジオラス辺境伯領私設軍へ放り込むから覚悟したまえっ☆」
「へ?」
そして翌日。ヒースは本当に、グラジオラス私設軍の訓練へと放り込まれた。
更には、訓練が終わった後に、道化のスペシャルな授業を受けさせられるという。
ちなみに、軍の訓練にはヒースよりも小さいアイザックが交じっていた。しかも、アイザックの訓練は、なぜかヒースの訓練よりもハードで、ヒースには気付いていないようだった。
「なんで、軍の訓練なんかっ……」
へばりながら文句を言うと、
「うん? ボクは言ったじゃないか? ヒース。君を、最強の料理人してみせようっ☆ ってさ?」
ふふんと胸を張る道化。
「いや、それなんか最強の意味が違くね?」
「全くもうっ、なにを言うんだいヒースは! 生きてさえいれば、料理が作り放題だろうっ☆例え冤罪や濡れ衣を掛けられとしても、そこから逃げ出せばいいのさ♪軍の訓練は、生き抜く為のものだからねっ☆」
「まぁ、そういうことです。一般教養の護身術程度では、軍に追われてしまうと抵抗するのは少々厳しいでしょうし」
「・・・ところで、なんでオリー様がここに?」
「ふっふっふっ、オリーちゃんはボクの生徒なのさっ☆ヒースの先輩だねっ☆」
「オリー様が、先輩?」
「ようこそ♪ボクの毒物学★講座へ!」
「毒物学、講座?」
「ええ。毒物を知ることは、高位貴族としての嗜みの一つですので」
「怖っ! なんかすっげー怖いんだけどっ!?」
「宮廷料理人や毒味役の嗜みでもありますよ」
「そういうこと、か・・・アルルちゃん」
「そういうことだねっ☆万が一、毒物が混入しても、毒物の味や効果、解毒方法を知っていれば、対処が可能になるだろう? 対処法を知っていれば、即座に殺される可能性は低くなる」
こうしてヒースは、軍での訓練に揉まれ、道化の毒物学講座を受け、身体を鍛え、知識を蓄えた。
更には、アイザックの後を追うようにして、メルク商会の極限地域のキャラバンへと放り込まれた。
そして、様々な地域で生き延びる術を学んだ。巡った場所でその地域独特の料理、食材、調理法、調味料と出逢い、更には食材の調達法、狩猟方法を嬉々として学んだ。
ヒースはどの地域に行っても貪欲に美味しい物を求め、作り方を学び、料理を振る舞い、それを食べる人々の美味しそうな笑顔を、慶んだ。
こうして、道化の目論みで一流の冒険家並みに動ける最強の料理人が出来上がった。
※※※※※※※※※※※※※※※
「さて、どうすっかなぁ」
「どう、とは?」
「次はどこへ行くかと思ってな」
「……あまり辺鄙過ぎる場所に呼ばれるのも困るのですがね? ヒースさん」
と、ディルは放浪癖のある料理人を見やる。
「ハハハ、悪ぃ悪ぃ」
全く悪いと思っていなさそうな顔でカラカラと笑うヒース。
「・・・まぁいいですけど、本格的に追われる前に、さっさとこの地域を抜けましょう。『砦落とし』が出たと、騒ぎになると面倒です」
ディルは溜息を吐き、ヒースを促す。
「そうだな」
と、『砦落とし』と称されて各所方面の軍事関係者から恐れられる、最強の料理人が立ち上がった。
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