上 下
153 / 161
料理人ヒースの場合。

14

しおりを挟む
「・・・ヒース。お祖父様とお母様のことは残念でした。ご冥福をお祈り致します。けれど、わたしはあなたのその気持ちを、とても尊いことだと思います。あなたが、それでも・・・・料理人になりたいというのであれば、わたしも応援します」

 そしてオリーが、

「・・・どう思われますか? 道化様は」

 ドアへ向かって問い掛ける。と、

「・・・ボクだって、ヒースが本当に料理人になりたいなら、応援するよ?」

 少し元気のない可愛らしい声と共に、フードを被った頭がひょっこりと部屋を覗く。

「! アルルちゃんっ!?」
「道化様がしおらしいと、違和感が凄いですね」
「あのね、オリーちゃん。ボクだって、偶にはへこむことくらいあるんだよ」

 ぷい、とそっぽを向く道化アルルちゃん

「そうですか」
「そうだよ。もうっ、…ホントオリーちゃんは、姫に似て来たよね…それで? ヒースは、料理人になるって決めたのかい?」
「ああ。最初は父さん母さん、じいちゃんに美味しい物食べさせたいと思ってたけど・・・俺はやっぱり、誰かの美味しそうに食べる姿が好きなんだ」
「そっか・・・わかったよ。それなら、このボクがヒースを最強の料理人に育ててみせようじゃないかっ☆」
「道化様、料理をなさるのですか? 料理は賢者様がお得意だと思っておりましたが」
「ふっふっふっ、ボクはね、オリーちゃん。混ぜるな危険で遊ぶのじっけんが大好きなのさ♪」

 元気を取り戻し、ニヤニヤと笑みを含んだ可愛らしい声が宣言する。

「存知ていますが?」
「というワケで、ヒース!」
「なんだ? アルルちゃん」
「ボクは心を鬼にして、君をグラジオラス辺境伯領私設軍へ放り込むから覚悟したまえっ☆」
「へ?」

 そして翌日。ヒースは本当に、グラジオラス私設軍の訓練へと放り込まれた。

 更には、訓練が終わった後に、道化のスペシャルな授業を受けさせられるという。
 ちなみに、軍の訓練にはヒースよりも小さいアイザックが交じっていた。しかも、アイザックの訓練は、なぜかヒースの訓練よりもハードで、ヒースには気付いていないようだった。

「なんで、軍の訓練なんかっ……」

 へばりながら文句を言うと、

「うん? ボクは言ったじゃないか? ヒース。君を、最強の料理人してみせようっ☆ ってさ?」

 ふふんと胸を張る道化。

「いや、それなんか最強の意味が違くね?」
「全くもうっ、なにを言うんだいヒースは! 生きてさえいれば、料理が作り放題だろうっ☆例え冤罪や濡れ衣を掛けられとしても、そこから逃げ出せばいいのさ♪軍の訓練は、生き抜く為のものだからねっ☆」
「まぁ、そういうことです。一般教養・・・・の護身術程度では、軍に追われてしまうと抵抗するのは少々厳しいでしょうし」
「・・・ところで、なんでオリー様がここに?」
「ふっふっふっ、オリーちゃんはボクの生徒なのさっ☆ヒースの先輩だねっ☆」
「オリー様が、先輩?」
「ようこそ♪ボクの毒物学★講座へ!」
「毒物学、講座?」
「ええ。毒物を知ることは、高位貴族としての嗜みの一つですので」
「怖っ! なんかすっげー怖いんだけどっ!?」
「宮廷料理人や毒味役の嗜みでもありますよ」
「そういうこと、か・・・アルルちゃん」
「そういうことだねっ☆万が一、毒物が混入しても、毒物の味や効果、解毒方法を知っていれば、対処が可能になるだろう? 対処法を知っていれば、即座に殺される可能性は低くなる」

 こうしてヒースは、軍での訓練に揉まれ、道化の毒物学講座を受け、身体を鍛え、知識を蓄えた。

 更には、アイザックの後を追うようにして、メルク商会の極限地域のキャラバンへと放り込まれた。

 そして、様々な地域で生き延びる術を学んだ。巡った場所でその地域独特の料理、食材、調理法、調味料と出逢い、更には食材の調達法、狩猟方法を嬉々として学んだ。

 ヒースはどの地域に行っても貪欲に美味しい物を求め、作り方を学び、料理を振る舞い、それを食べる人々の美味しそうな笑顔を、よろこんだ。

 こうして、道化の目論みで一流の冒険家並みに動ける最強の料理人が出来上がった。

※※※※※※※※※※※※※※※

「さて、どうすっかなぁ」
「どう、とは?」
「次はどこへ行くかと思ってな」
「……あまり辺鄙へんぴ過ぎる場所に呼ばれるのも困るのですがね? ヒースさん」

 と、ディルは放浪癖のある料理人を見やる。

「ハハハ、悪ぃ悪ぃ」

 全く悪いと思っていなさそうな顔でカラカラと笑うヒース。

「・・・まぁいいですけど、本格的に追われる前に、さっさとこの地域を抜けましょう。『砦落とし』が出たと、騒ぎになると面倒です」

 ディルは溜息を吐き、ヒースを促す。

「そうだな」

 と、『砦落とし』と称されて各所方面の軍事関係者から恐れられる、最強の料理人が立ち上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「まずは……手前ぇよりも上位の存在に犯されて来い。話はそれからだ」

月白ヤトヒコ
ファンタジー
よその部署のヘルプという一仕事を終えて帰ろうとしたら、突然魔法陣が現れてどこぞの城へと『女神の化身』として召喚されたわたし。 すると、いきなり「お前が女神の化身か。まあまあの顔だな。お前をわたしの妻にしてやる。子を産ませてやることを光栄に思うがいい。今夜は初夜だ。この娘を磨き上げろ」とか傲慢な国王(顔は美形)に言われたので、城に火を付けて逃亡……したけど捕まった。 なにが不満だと聞かれたので、「まずは……手前ぇよりも上位の存在に犯されて来い。話はそれからだ」と言ってやりました。 誘拐召喚に怒ってないワケねぇだろっ!? さあ、手前ぇが体験してみろ! ※タイトルがアレでBLタグは一応付けていますが、ギャグみたいなものです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】淘汰案件。~薬屋さんは、冤罪だけど真っ黒です~

月白ヤトヒコ
ファンタジー
とある酒場で、酒を飲んでいた冒険者のうち、約十名が体調不良を訴えた。そのうち、数名が意識不明の重体。そして、二人が死亡。 調査の結果、冒険者の体調不良や死因は、工業用アルコールの混ぜ物がされた酒と、粗悪なポーションが原因であると判明。 工業用アルコールが人体に有害なのは勿論だが。その上、粗悪なポーションは酒との飲み合わせが悪く、体外へ排出される前にアルコールを摂取すると、肝臓や腎臓へとダメージを与えるという代物。 酒屋の主人は、混ぜ物アルコールの提供を否定。また、他の客からの証言もあり、冒険者のうちの誰かが持ち込んだ物とされている。 そして、粗悪なポーションの製作者として、とある薬屋が犯人として浮上した。 その薬屋は、過去に幾度も似たような死亡事故への関与が疑われているが、証拠不十分として釈放されているということを繰り返している、曰く付きの怪しい薬屋だった。 今回もまた、容疑者として浮上した薬屋へと、任意で事情聴取をすることになったのだが―――― 薬屋は、ひひひひっと嬉しげに笑いながら・・・自らを冤罪だと主張した。 密やかで、けれど致命的な報復。 ざまぁと言えばざまぁですが、あんまりすっきりはしない類のざまぁだと思います。

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

閉じ込められた幼き聖女様《完結》

アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」 ある若き当主がそう訴えた。 彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい 「今度はあの方が救われる番です」 涙の訴えは聞き入れられた。 全6話 他社でも公開

処理中です...