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料理人ヒースの場合。
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前日の砦の昼食時。
「腹減ったー、死ぬー」
「げっ、ピクルス」
「お前、好き嫌いすンなよ」
「野菜なんかより肉をもっと入れてくれ!!」
「特盛りで頼む!!」
「飯が美味くねーとやってらんねー」
「訓練キッツいもんなー」
「酒場のリンダちゃんが可愛くてさー」
「あのやたら化粧濃い女か?」
「おまっ、俺の天使になんてこと言うんだ!」
「いや、騙されてんぞお前」
「お、うめぇ!」
「ああっ、俺の肉っ!?」
「フハハハハッ、早い者勝ちだ!」
「この鬼畜めっ!」
「お前さ、いい加減金返せよ」
「必ず返すからっ、もう少し待ってくれ!」
「今度飲み比べしようぜ」
「お、いいな」
「俺も交ぜろよ」
「あそこの店のミートパイが絶品でな?」
「あ~、アップルパイが食いてぇ」
「ここの飯は母ちゃんの飯より断然美味い!」
「お前の母ちゃん、料理下手だもんな……」
ざわざわと、砦に詰める兵士達が無責任でくだらない話や噂を面白おかしく話しながら昼食を取る。
「なぁ、知ってるか? あの話」
「あの、ってどの話だよ?」
「あれだって、あれ」
「だから、あれじゃわかんねぇって」
「ほら、あの亡くなった公爵様ンとこの……」
「あぁ……アレ、か。あの、隣の国の、な」
「そうそう。アレ、な。…………だってよ」
「ハッ……そりゃ、道中あんだけ遊んでりゃなぁ」
「しかも、面白いなぁ、それだけじゃなくてよ?」
「あん?」
「あのバカサマがやらかした後、あの国結構ゴタゴタしてンだとよ。あのすぐ後に、ほら、うちの国でも割と有名な、あの医者の女侯爵サマが……」
「あ~、そりゃアレに決まってンだろ。自分より優秀で頭が良い上、他国まで名前響かせてる凄腕の女医者なんて、誰が欲しがるかよ? ま、どうせ頭でっかちなお堅い女だろ。顔もどうだか?」
「バっカお前、どんなドブスでも侯爵様ってンなら、金とか絶対ぇあるだろ!」
「バカはお前ぇだろ。どうせ入婿に自由にさせる金なんか有るワケねぇって!」
「そりゃそうか! ハハハハハハッ!」
「……つか、よ。ぶっちゃけ、どう思うよ?」
「まぁ、狙い目っちゃ狙い目じゃね?」
「あの国、今大分ゴタついてっからなぁ」
「おう。夜逃げ貴族共が周辺国に流出してンだってよ。なにしたンだか?」
「亡命望んでンのもいるらしいが、どうせ不正だか、借金持ちだって話だろ?」
「ホンっト、馬鹿だよなぁ? 裏切り者を重用するわきゃ無ぇってのにな」
「今攻めこんだら、あの国落とせンじゃね?」
「ガタガタの国は脆いからなー……」
「おー、イケるイケる」
ガヤガヤと騒がしい食堂から洩れ聴こえて来る雑多な話に紛れ、不穏な話が厨房へと流れて来た。
「・・・潮時、か・・・」
小さく呟かれた低い声は、忙しい厨房の喧騒に紛れて消えた。
そして――――
「なあ、料理長。明日のランチメニュー、俺に決めさせてくれないか?」
「ん? なんだエリック、新しい料理か?」
「ああ。サグっていう南方の料理なんだが」
「サグ? 知らないな。どんな料理だ?」
「スパイスをたっぷり使った料理で、材料は……」
と、料理長へ掛け合うのは四十代程の男。
「それだと足りない材料があるな」
「ああ、大丈夫だ。足りない材料やスパイスは注文すればいい。馴染みの商会がいてな。外国産の物でも割合安く卸してくれんだよ」
「それなら任せるが・・・注文するのは今日だろ? 明日に間に合うのか?」
「ああ。連中は仕事が早いからな」
男は、ニヤリと笑って言った。
「明日までに準備は整える」
__________
『女騎士アイラの場合。』のポンコツ王子がいた国の、どこかの砦です。
「腹減ったー、死ぬー」
「げっ、ピクルス」
「お前、好き嫌いすンなよ」
「野菜なんかより肉をもっと入れてくれ!!」
「特盛りで頼む!!」
「飯が美味くねーとやってらんねー」
「訓練キッツいもんなー」
「酒場のリンダちゃんが可愛くてさー」
「あのやたら化粧濃い女か?」
「おまっ、俺の天使になんてこと言うんだ!」
「いや、騙されてんぞお前」
「お、うめぇ!」
「ああっ、俺の肉っ!?」
「フハハハハッ、早い者勝ちだ!」
「この鬼畜めっ!」
「お前さ、いい加減金返せよ」
「必ず返すからっ、もう少し待ってくれ!」
「今度飲み比べしようぜ」
「お、いいな」
「俺も交ぜろよ」
「あそこの店のミートパイが絶品でな?」
「あ~、アップルパイが食いてぇ」
「ここの飯は母ちゃんの飯より断然美味い!」
「お前の母ちゃん、料理下手だもんな……」
ざわざわと、砦に詰める兵士達が無責任でくだらない話や噂を面白おかしく話しながら昼食を取る。
「なぁ、知ってるか? あの話」
「あの、ってどの話だよ?」
「あれだって、あれ」
「だから、あれじゃわかんねぇって」
「ほら、あの亡くなった公爵様ンとこの……」
「あぁ……アレ、か。あの、隣の国の、な」
「そうそう。アレ、な。…………だってよ」
「ハッ……そりゃ、道中あんだけ遊んでりゃなぁ」
「しかも、面白いなぁ、それだけじゃなくてよ?」
「あん?」
「あのバカサマがやらかした後、あの国結構ゴタゴタしてンだとよ。あのすぐ後に、ほら、うちの国でも割と有名な、あの医者の女侯爵サマが……」
「あ~、そりゃアレに決まってンだろ。自分より優秀で頭が良い上、他国まで名前響かせてる凄腕の女医者なんて、誰が欲しがるかよ? ま、どうせ頭でっかちなお堅い女だろ。顔もどうだか?」
「バっカお前、どんなドブスでも侯爵様ってンなら、金とか絶対ぇあるだろ!」
「バカはお前ぇだろ。どうせ入婿に自由にさせる金なんか有るワケねぇって!」
「そりゃそうか! ハハハハハハッ!」
「……つか、よ。ぶっちゃけ、どう思うよ?」
「まぁ、狙い目っちゃ狙い目じゃね?」
「あの国、今大分ゴタついてっからなぁ」
「おう。夜逃げ貴族共が周辺国に流出してンだってよ。なにしたンだか?」
「亡命望んでンのもいるらしいが、どうせ不正だか、借金持ちだって話だろ?」
「ホンっト、馬鹿だよなぁ? 裏切り者を重用するわきゃ無ぇってのにな」
「今攻めこんだら、あの国落とせンじゃね?」
「ガタガタの国は脆いからなー……」
「おー、イケるイケる」
ガヤガヤと騒がしい食堂から洩れ聴こえて来る雑多な話に紛れ、不穏な話が厨房へと流れて来た。
「・・・潮時、か・・・」
小さく呟かれた低い声は、忙しい厨房の喧騒に紛れて消えた。
そして――――
「なあ、料理長。明日のランチメニュー、俺に決めさせてくれないか?」
「ん? なんだエリック、新しい料理か?」
「ああ。サグっていう南方の料理なんだが」
「サグ? 知らないな。どんな料理だ?」
「スパイスをたっぷり使った料理で、材料は……」
と、料理長へ掛け合うのは四十代程の男。
「それだと足りない材料があるな」
「ああ、大丈夫だ。足りない材料やスパイスは注文すればいい。馴染みの商会がいてな。外国産の物でも割合安く卸してくれんだよ」
「それなら任せるが・・・注文するのは今日だろ? 明日に間に合うのか?」
「ああ。連中は仕事が早いからな」
男は、ニヤリと笑って言った。
「明日までに準備は整える」
__________
『女騎士アイラの場合。』のポンコツ王子がいた国の、どこかの砦です。
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