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探検家アイザックの場合。

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 怪我の痛い表現があります。
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 一人で城へ向かったアイザックは、街道を見回る警邏隊や騎士、不審者などから逃げ隠れし、親切な人達に食べ物を恵んで貰い、野宿しながら何日もかけて、とうとうそのお城まで辿り着いた。

 近くで見る城の高さに感動したアイザックは、その城壁へと取り付いて・・・石造りの城壁の隙間に手を掛けると、ぐんぐん登り始めた。

 一生懸命、無心で城壁を登り続けること半日。

 マメが潰れたり、爪や皮が剥がれて血を流すぼろぼろに傷んだ手、汗みずくであちこち擦り傷、打ち身だらけ、ふらふらの身体で天辺の屋根に降り立ったアイザックは、沈む夕陽が空をオレンジ色に染め上げる光景に打ち震えた。そして、

「登り切ったぞーーっ!!!」

 高揚した気分のままに高らかに吠え、アイザックは城を自力で登り切ったこと…制覇したことを、よろこんだ。

 両手を挙げて叫んだのも束の間。ガクリとアイザックの身体から力が抜け、ゆっくりと傾いだ。

「あ、れ?」

 朝から食事も、休憩さえも取らずにひたすら城壁を登り続けた六歳のアイザックの身体は、とっくに限界を越えていた。気が緩んだことで、一気に力が抜けてしまったようだった。

 アイザックが立っていたのは、高い城塞の天辺の円錐形の屋根の上。

 落ちる。と、死ぬんだろうか? ゆっくりと傾いで行く視界の中、アイザックがそう思ったとき、

「いやはや、全く・・・近年まれに見るような大層なアホの子だねっ☆君はさ?」

 思わぬ近い位置から可愛らしい声が聞こえて、ぐいっと身体が引き上げられた。

「え?」
「いやもう、ホンっト呆れるくらいのアホさ加減だねっ☆無茶、無謀、考え無しのおバカさんだゼ♪」

 ニヤニヤと笑うたのしげな声。キラキラと夕陽を反射して光る金色の髪、煌めく同色の透き通った瞳。

 その、小柄な体躯の片腕でアイザックを小脇に抱えると、反対の腕が大きく振られる。

「まだ気絶してないなら、近くの開いてる窓を見てご覧。君は、ずっと弓矢で狙われてたんだよ」

 近くの開いてる窓の中、弓を下ろす人影を見たような気がして、アイザックは気を失った。

「・・・ったく、怖いモノ知らずなバカの子程、怖いモノは無いゼ。全く・・・」

 やれやれと可愛らしい声の溜め息と共に・・・

 そして――――翌日。

 全身がギシギシと軋むような痛みで目を覚ましたアイザックは、見知らぬ部屋で寝ていた。
 身体はあちこちが丁寧に手当てされていたが、筋肉痛でガタガタ。そんなアイザックに待ち受けていたのは、怒濤どとうの目まぐるしい展開だった。

 アイザックが目を覚ますと知らない女の人がいて、身支度をさせられた。痛む身体で身支度が済むと、次は食事が運ばれて来た。食事が済むと、別の部屋へと連れて行かれた。
 その間、女の人はアイザックの質問には一切答えてくれず、指示を出す以外は「お急ぎください」と素っ気なく言うだけ。

 不満に思いながらも急かされて長い廊下を歩かされると、とあるドアの前で女の人が足を止めた。

 コンコンとノック。

「お連れしました」
「OKー、入りたまえっ☆」

 可愛らしい声の返事。そして、女の人がドアを開け、アイザックに部屋へ入るよう促した。

「どうぞ」

 と言った女の人は、部屋には入らなかった。

 部屋の中には大きな机がドーンと鎮座し、そしてその手前には大きなソファーとテーブルとが置いてあった。

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 命綱なんて、付けてませんよ? しかも、本人気付いてませんでしたが、ずっと弓でロックオンされた状態で、ガチの命懸け城壁クライムです。
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