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探検家アイザックの場合。
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彼は、崖を登っていた。
何時間も前からひたすらに。
着込んだ防寒具の中で汗を流し、分厚い皮の手袋で硬い岩肌を掴んで足を掛け、霧のように広がる雲を突き抜け、高い標高の低い気温、薄い酸素を懸命に呼吸し、白く煙る息を吐き出し、ただ前を向いて登り続けている。
それも、落ちれば死は免れないであろう鋭く切り立った峻険な断崖絶壁を。
しかも、この場所には四方数十キロの範囲に渡って人里の存在しない、秘境中の秘境だ。
人がいないのだから、助けなどある筈も無い。そして、死ねばその死体を発見する者すら現れず、朽ち果てることになるだろう。
彼の登るこの霊峰ロンジュは標高四千メートル程の切り立った険しい山で、周辺に住む民族からは古より竜の住まう山として禁域となっているそうで、前人未到なのだという。
そんな、古来より禁域となっている山の断崖絶壁を登る男の名は、アイザック・ウィルストン。
自他共に認める生粋の探検家だ。
アイザックは高い場所や山が其処に在れば登らずにはいられないし、前人未到と聞けば胸が騒ぎ、絶海の孤島と聞けばワクワクする。
行ったことのない場所、見たことのない景色を想像すると、血が滾って居ても立ってもいられない。一つ所になど留まれない。まるで、動き続けていなければ死んでしまうような・・・アイザックは、そんな回遊魚のような性質を持っていた。
今回、竜が住まうと云われている霊峰に挑んでいるアイザックは、竜という生物をまだ見たことがない。
幾つもの山を踏破し、人間の踏み入らぬ地へと好んで踏み込むアイザックは、人知の及ばぬ異質な存在がいることを、身を以て知っている。
何時間も前からひたすらに。
着込んだ防寒具の中で汗を流し、分厚い皮の手袋で硬い岩肌を掴んで足を掛け、霧のように広がる雲を突き抜け、高い標高の低い気温、薄い酸素を懸命に呼吸し、白く煙る息を吐き出し、ただ前を向いて登り続けている。
それも、落ちれば死は免れないであろう鋭く切り立った峻険な断崖絶壁を。
しかも、この場所には四方数十キロの範囲に渡って人里の存在しない、秘境中の秘境だ。
人がいないのだから、助けなどある筈も無い。そして、死ねばその死体を発見する者すら現れず、朽ち果てることになるだろう。
彼の登るこの霊峰ロンジュは標高四千メートル程の切り立った険しい山で、周辺に住む民族からは古より竜の住まう山として禁域となっているそうで、前人未到なのだという。
そんな、古来より禁域となっている山の断崖絶壁を登る男の名は、アイザック・ウィルストン。
自他共に認める生粋の探検家だ。
アイザックは高い場所や山が其処に在れば登らずにはいられないし、前人未到と聞けば胸が騒ぎ、絶海の孤島と聞けばワクワクする。
行ったことのない場所、見たことのない景色を想像すると、血が滾って居ても立ってもいられない。一つ所になど留まれない。まるで、動き続けていなければ死んでしまうような・・・アイザックは、そんな回遊魚のような性質を持っていた。
今回、竜が住まうと云われている霊峰に挑んでいるアイザックは、竜という生物をまだ見たことがない。
幾つもの山を踏破し、人間の踏み入らぬ地へと好んで踏み込むアイザックは、人知の及ばぬ異質な存在がいることを、身を以て知っている。
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