上 下
83 / 161
警邏隊員レットの場合。

しおりを挟む
 令嬢三人がレットの住む部屋へ来て、そのうち一人が大家としての挨拶をして帰って行って、二人が残った。

「あ、あのっ、レットさんっ!? 不束ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
「お、お願いしますっ!?」

 ガバッと頭を下げるめそめそしていた令嬢…サリア嬢と、挙動不審な令嬢…マデリーン嬢。

「・・・まあ、よろしくっす」

 レットは、溜息を吐きながら元貴族令嬢の二人に家の中を案内した。

「お嬢さんらには狭いと思うっすけど、ここは元々自分の一人暮らし用っすからね。我慢してほしいっす。あと、寝室は一つ。ベッドも一つしかねーっす。一応、二人で寝られねーことはないんで、仲良く並んで寝るといいっす。自分はリビングのソファーに寝るっすから、なんかあったら呼ぶっす。そして、自分が勤務中のときは、管理人のケイトさんにお嬢さんらのことお願いしといたっす。遠慮無く頼るといいっす。まあ、今日のところはこのくらいにしといて、平民の暮らしには追々慣れて行くといいっす」

※※※※※※※※※※※※※※※

 こうして翌日。

 出勤したレットは・・・

「っだ~っ、もう鬱陶うっとうしいっ!?」

 やっかみと好奇の視線に晒されていた。

 大丈夫か? という声かけならまだしも、「令嬢二人との生活はどうだ?」「うらやましいぞ!」「代われ」「レットさんの破廉恥!」やら、「ハーレムかよコンチクショー!」「死ね!」「呪われろ!」などなど、非常に理不尽な同僚(主にモテない独身野郎共)の言葉に、レットは辟易していた。

 ムカついたので、アホ共に小猿隊員にもハードとされている険しい散歩パトロールコースを鼻唄混じりに食らわせてやると、案の定ヒィヒィと音を上げ、失礼にもレットを化け物呼ばわりしてへばった根性無しの野郎共。道無き道を移動中、あちこちにぶつけてできた打ち身や擦り傷が痛むようで、いい気味だ。そして明日は、筋肉痛で更に悶え苦しめばいいと思う。
 ついでに、警邏隊専属の腕は非常に良いが、とても不人気な医師に連中のケアを依頼しておいた。
 の医師は、警邏隊の中でも他の追随を許さない程に、断トツで、ピーキーヤバイ! な人物なので、野郎共は泣いて有り難がることだろう。
 と、レットは少し溜飲を下げた。

 へとへとな気分で家に帰ると、待っているのはレットがやっかまれることになった原因の二人。

「ご飯行くっす。先に言っとくっすけど、庶民の味っす。慣れてほしいっすよ」

 夕食の用意など、お嬢様には全く期待していないので、二人を連れて夕食を外へ食べに行くことにした。

 すると、行き付けの食堂でもニヤニヤと揶揄からかわれたり、「レットちゃんなら安心だね。よかったね、お嬢さん達」という女将さんの変な太鼓判。

「はぁ・・・」

 余計に疲れたレットが食事を終えて家へ帰り、ゆっくりと風呂へ漬かっているときだった。

 浴室のドアが、開いた。そして・・・

「・・・今、自分が入ってンすけど?」
「キャーっ!?」

 と、上がる悲鳴。挙動不審な令嬢マデリーンがレットを見てバタン! と、浴室を出て行った。

「・・・は? きゃーはむしろ、自分の方だろ全く・・・そう言や、お嬢様ってのは、服着たまま風呂入ンのか? つか、さすがに風呂や着替えの面倒まで見てらンねーし」

 翌朝、マデリーン嬢は出て行った。

 サリア嬢はなんとなく寂しそうにしていたが、レットはちょっと清々した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

公爵令嬢は父の遺言により誕生日前日に廃嫡されました。

夢見 歩
ファンタジー
日が暮れ月が昇り始める頃、 自分の姿をガラスに写しながら静かに 父の帰りを待つひとりの令嬢がいた。 リリアーヌ・プルメリア。 雪のように白くきめ細かい肌に 紺色で癖のない綺麗な髪を持ち、 ペリドットのような美しい瞳を持つ 公爵家の長女である。 この物語は 望まぬ再婚を強制された公爵家の当主と 長女による生死をかけた大逆転劇である。 ━━━━━━━━━━━━━━━ ⚠︎ 義母と義妹はクズな性格ですが、上には上がいるものです。 ⚠︎ 国をも巻き込んだ超どんでん返しストーリーを作者は狙っています。(初投稿のくせに)

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

【完結】裏切りの暗殺者(当て馬兼最難関隠しキャラ)は、死にたくないしヒロインに忠誠も誓いたくない

月白ヤトヒコ
ファンタジー
どうやらわたしは、聖女がヒロインの乙女ゲームに転生したようだ。 それも……ヒロインを執拗に付け狙うストーカー暗殺者として。 暗殺者は、ヒロインが攻略対象とくっ付くための当て馬。そして……隠しキャラの、最難関攻略対象でもあった。 暗殺者にあるのは、攻略対象シナリオ分の大量の死亡フラグ! 唯一、暗殺者が死なないでヒロインに攻略されるというルートがあるが……それは通称『百合エンド』と称される暗殺者がヒロインに忠誠を誓うエンドのみ。 しかし、そこに辿り着くまでは難易度が高い無理ゲーでもある。ヒロインがステータスほぼカンストというそこまでの努力をしてくれる可能性は限りなく低い。 おまけにわたしは、このヒロインが嫌いだ。 真顔で「は?」と言いたくなるような・・・全体的に、イラッとするタイプのヒロインだった。まぁ、わたしの主観なのだが。 生き残れるのが通称『百合ルート』のみとは言え、リアルで百合って、相当仲良くないと無理だろ。 というワケで、死にたくないしヒロインにも忠誠を誓いたくないので、シナリオをぶっ壊そうと思います。 わたしの死亡エンド回避のためにっ!? ※通称『百合ルート』を回避するために動くので、百合ではありません。 設定はふわっと。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...