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警邏隊員レットの場合。

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 令嬢達への現状説明会が終わり、解散を告げて会議室を出ようとしたときだった。

「な、なら、レットさんが貰ってください!」

 泣いている令嬢がそう声を上げると、

「わ、わ、わたくしもレットさんがいいです!」

 おろおろしていた令嬢も声を上げる。

「はあっ!?」
「見知らぬ殿方より、わたくしを保護してくださったレットさんの方がいいですわ!」

 とか、なんとか・・・

 それを上司に報告すると、

「・・・まあ、いいだろう。しばら飯事ままごとに付き合ってやるといい」

 と、上司がのたまった。

「・・・冗談っすよね? ヴィル様」
「一応言っておくが、手は出すなよ?」

 警邏隊の指揮官ヴィルヘルム・グリフィンがレットへ言った。彼は二十七歳。騎士志望だったのに、最終的に警邏隊に就職した貴族出身の独身だ。ちなみに、レットを警邏隊へ推薦した人でもある。

「・・・まあ、できるだけ我慢はするっすよ。できるだけ。限界以上の我慢はしないっすから」
「ああ、それでいい」
「けど、なんで自分とこに貰われたいとか血迷ったことを言い出したっすかね? あのお嬢さん達は」

 溜息混じりの苦い声。

「だってお前、警邏隊の花形になりつつある遊走隊の、それも分隊長のうちの一人で、稼ぎもそう悪くはないだろう? それに・・・」

 ふっ、と笑いながらレットを見下ろすヴィルヘルム。

「・・・それに、なんすか? ヴィル様」
「顔だって悪くない。美少年・・・に見える。ゴツい警邏隊の連中より、年下に見えるお前の方がマシだと思ったんじゃないか?」

 美少年・・・という言葉に顔をしかめるレット。

 確かにレットは短い金茶の髪に赤茶の瞳、日に焼けた肌で小柄な十三、四の美少年。に、見えはする。

「レットさんやるー!」「ずっりー!」「よっ、美少年!」「貴族のお嬢様二人も嫁に貰うとは!」「羨ましいですよー!」「代わってくださいよ!」「いきなり同棲かよ!」

 と、口々に野次を飛ばす警邏隊の若い隊員達。

「・・・おい、手前ぇら。明日は小猿隊の見回りに入れてやるから、覚悟しやがれよ」

 キレたレットが、騒ぐ若い後輩達・・・へ低く宣告。

「へ?」「おお、レットがキレた」「小猿隊の見回りはキっツいからなぁ」「え?」「せいぜい頑張ンな」「あの人、態度は気安いけど案外上下関係厳しいから」「明日は地獄だな、新入り共は」「は?」

 ざわざわとした話し声の中、

「ああ、レットはすばしっこいのだけで分隊長になったワケじゃないぞ? 実は遊走隊の設立メンバーで、七、八年前から警邏隊に出入りしてる奴だからな。新入り共はちゃんと敬えよー?」

 ヴィルヘルムの言葉に固まる新人達。

「大体っすね、自分は年下の小娘共には全く興味ねーっすから! 揶揄からかうのもいい加減にするっす!」
 
 ふん! と、不機嫌に鼻を鳴らすレット。

 小柄な美少年・・・に見えているレットの実年齢は二十二歳。童顔で細身な体型、そして、その言葉遣いと気安い態度。諸々が合わさって、レットをとても若く見せている。
 なので、年下の後輩や年上の後輩に舐められることも多々。そういう礼儀のなっていないやからには、小猿隊以外からは恐怖の見回りと称されている、道無き道を闊歩する町内一周散歩パトロールコースをかましてやることにしている。無論、高所恐怖症な隊員にも容赦はしない。

「そう言やお前、天使・・の信奉者だったな」

 ヴィルヘルムは、ぼそりと小さく呟いた。

※※※※※※※※※※※※※※※

 こうしてレットは、上司に令嬢二人を押し付けられることとなった。
 その腹いせに、令嬢達に同僚貴族の情報をこっそりと教えることで溜飲を下げたのは内緒だ。

 そして特に、ヴィルヘルム・グリフィンを推しておいたことも・・・
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