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騎士爵ベアトリスの場合。
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「それで、本日はどのような趣向でしょうか?」
アイラはマーノへ問い掛ける。ベアトリスへ聞くよりも、マーノへ聞く方が話が早い。ベアトリスは、難しいことを考えるのを少々苦手としている。
「はい、アイラ様。本日は、ベアトリス卿へ一太刀でも入れることができた者を、グラジオラスへ婿に取って差し上げても宜しいという趣向ですわ。グラジオラスの女は、軟弱者が嫌いですものね?」
うふふと愉しげにアイラへ微笑むマーノ。優秀な外交官だけあって、マーノはなかなかイイ性格をしている。
「成る程」
そしてアイラは、察した。
優秀な外交官のマーノを、騎士団へわざわざ寄越すとは、どうやらいろんな意味でボッコボコにしたくなる程に、王立騎士団はグラジオラス辺境伯領へなにかをやらかしたらしい、と。
更には、ベアトリスを使って、王立騎士団のプライドを物理的にもへし折りに来ている。
これは、王立騎士団が、グラジオラス辺境伯領を大層立腹させたようだ。
そもそも、グラジオラス辺境伯領で騎士爵の爵位を賜り、最強の一角を担うベアトリスは、国内でも最強の部類に入る。そんなベアトリスに一太刀でも入れることなど、ベテランの騎士達にも非常に難易度が高い。土台からして、無茶な話。
つまりこれは、わざわざベアトリスを使った、王立騎士団自体への盛大な嫌がらせとなる。
見た目(だけ)が華奢な女性一人へ、騎士団の男達が束で掛かって負けたという屈辱を、騎士団の者達へ与えたいらしい。
城代の姫か、中央軍閥が嫌いな誰かの発案なのだろうと、アイラは当たりを付ける。
そして、ベアトリスとマーノが来ることについて、アイラへ報せは無かった。なので、グラジオラス辺境伯領への帰還命令は出ていないのだろう。
帰還せよとの命令が下されていないのであれば、グラジオラス辺境伯領へ戻る必要はなく、アイラは好きに動いていい筈だ。
「では師匠、久々にお相手願います」
「おう、掛かって来い」
アイラは久々に、ベアトリスへ稽古を付けてもらうことにした。戦意の無い同僚の持つ剣を借り、
「では、参ります!」
ダッ! と地面を強く蹴ると、自分よりも小柄な、しかも素手のベアトリスへと鋭く打ち込んだ。
「お、いい打ち込みだ」
ベアトリスはアイラの鋭い打ち込みを、最小限の動きでするんと躱す。が、
「ハアっ!!!」
アイラは躱された上段からの斬撃を、そのまま回転することで勢いを殺さず、遠心力を乗せてベアトリスへ向かって振り切る。
「うおっ!」
横合いからの斬撃に驚いたベアトリスは、身に迫った剣を思わず拳で殴って逸らす。と、
「あ、しまっ…」
バキン! と、金属の砕ける音が訓練所へと鳴り響いた。アイラの持つ布の巻かれた剣が、半ばから折れて地面へ落ちる。
「あちゃー、やっちまった!」
素手での剣破壊。それも、刃を潰してある上に、訓練用にと頑丈に造られている剣を。
騎士団員達が一斉に言葉を無くす中、困った顔で自分が折った剣を見下ろすベアトリス。
剣へ布を巻いていたのは、実は剣自体を保護する為でもあったのだ。
そして、
「お見事です、アイラ様」
パチパチとマーノが拍手する音が響いた。
「はい。師匠へ一太刀、入れました」
「おお、そういえば?」
ベアトリスへ一太刀でも入れた者は、グラジオラスへ婿に取ってやってもいい。
その条件で、ベアトリスが勝とうが負けようが、グラジオラス辺境伯領へダメージはまったく無い。
むしろ、ベアトリスヘ負けても、勝ってしまったとしても、有望株がグラジオラスへ取られる可能性がある王立騎士団にとっては、損しかない勝負。
この勝負は、受けるどころか、挑まれた時点で既に王立騎士団の負けが確定している。
「それでは、アイラ様。どうなさいますか?」
「さて、わたしはグラジオラスの子爵位予定ですからね。ところで、師匠」
「なんだ?」
「師匠の理想のタイプはどのような方ですか?」
「勿論、腹一杯食わせてくれる奴だ♪」
にかっとイイ笑顔で言ったベアトリスに、マーノはきゅん♥️としたが、これまでの戦闘の片手間で、ベアトリスがおやつとして食べた量を見ていた騎士団員達は、ドン引きした。
「わたしには無理ですね」
アイラは笑顔で答えた。
なにせ、ベアトリスの食費は全て、グラジオラス辺境伯領の公費で賄われているのだから。
「では師匠、グラジオラス邸へ参りましょう。その前に、王都の名物を紹介します」
「おおっ、行く行く! 丁度腹減って来たんだ」
「それでは皆様、ごきげんよう。失礼致します」
こうして、ベアトリスとマーノの二人は、アイラにグラジオラス邸へと連れて帰られた。
王立騎士団員達のプライドをずたぼろにして。
アイラはマーノへ問い掛ける。ベアトリスへ聞くよりも、マーノへ聞く方が話が早い。ベアトリスは、難しいことを考えるのを少々苦手としている。
「はい、アイラ様。本日は、ベアトリス卿へ一太刀でも入れることができた者を、グラジオラスへ婿に取って差し上げても宜しいという趣向ですわ。グラジオラスの女は、軟弱者が嫌いですものね?」
うふふと愉しげにアイラへ微笑むマーノ。優秀な外交官だけあって、マーノはなかなかイイ性格をしている。
「成る程」
そしてアイラは、察した。
優秀な外交官のマーノを、騎士団へわざわざ寄越すとは、どうやらいろんな意味でボッコボコにしたくなる程に、王立騎士団はグラジオラス辺境伯領へなにかをやらかしたらしい、と。
更には、ベアトリスを使って、王立騎士団のプライドを物理的にもへし折りに来ている。
これは、王立騎士団が、グラジオラス辺境伯領を大層立腹させたようだ。
そもそも、グラジオラス辺境伯領で騎士爵の爵位を賜り、最強の一角を担うベアトリスは、国内でも最強の部類に入る。そんなベアトリスに一太刀でも入れることなど、ベテランの騎士達にも非常に難易度が高い。土台からして、無茶な話。
つまりこれは、わざわざベアトリスを使った、王立騎士団自体への盛大な嫌がらせとなる。
見た目(だけ)が華奢な女性一人へ、騎士団の男達が束で掛かって負けたという屈辱を、騎士団の者達へ与えたいらしい。
城代の姫か、中央軍閥が嫌いな誰かの発案なのだろうと、アイラは当たりを付ける。
そして、ベアトリスとマーノが来ることについて、アイラへ報せは無かった。なので、グラジオラス辺境伯領への帰還命令は出ていないのだろう。
帰還せよとの命令が下されていないのであれば、グラジオラス辺境伯領へ戻る必要はなく、アイラは好きに動いていい筈だ。
「では師匠、久々にお相手願います」
「おう、掛かって来い」
アイラは久々に、ベアトリスへ稽古を付けてもらうことにした。戦意の無い同僚の持つ剣を借り、
「では、参ります!」
ダッ! と地面を強く蹴ると、自分よりも小柄な、しかも素手のベアトリスへと鋭く打ち込んだ。
「お、いい打ち込みだ」
ベアトリスはアイラの鋭い打ち込みを、最小限の動きでするんと躱す。が、
「ハアっ!!!」
アイラは躱された上段からの斬撃を、そのまま回転することで勢いを殺さず、遠心力を乗せてベアトリスへ向かって振り切る。
「うおっ!」
横合いからの斬撃に驚いたベアトリスは、身に迫った剣を思わず拳で殴って逸らす。と、
「あ、しまっ…」
バキン! と、金属の砕ける音が訓練所へと鳴り響いた。アイラの持つ布の巻かれた剣が、半ばから折れて地面へ落ちる。
「あちゃー、やっちまった!」
素手での剣破壊。それも、刃を潰してある上に、訓練用にと頑丈に造られている剣を。
騎士団員達が一斉に言葉を無くす中、困った顔で自分が折った剣を見下ろすベアトリス。
剣へ布を巻いていたのは、実は剣自体を保護する為でもあったのだ。
そして、
「お見事です、アイラ様」
パチパチとマーノが拍手する音が響いた。
「はい。師匠へ一太刀、入れました」
「おお、そういえば?」
ベアトリスへ一太刀でも入れた者は、グラジオラスへ婿に取ってやってもいい。
その条件で、ベアトリスが勝とうが負けようが、グラジオラス辺境伯領へダメージはまったく無い。
むしろ、ベアトリスヘ負けても、勝ってしまったとしても、有望株がグラジオラスへ取られる可能性がある王立騎士団にとっては、損しかない勝負。
この勝負は、受けるどころか、挑まれた時点で既に王立騎士団の負けが確定している。
「それでは、アイラ様。どうなさいますか?」
「さて、わたしはグラジオラスの子爵位予定ですからね。ところで、師匠」
「なんだ?」
「師匠の理想のタイプはどのような方ですか?」
「勿論、腹一杯食わせてくれる奴だ♪」
にかっとイイ笑顔で言ったベアトリスに、マーノはきゅん♥️としたが、これまでの戦闘の片手間で、ベアトリスがおやつとして食べた量を見ていた騎士団員達は、ドン引きした。
「わたしには無理ですね」
アイラは笑顔で答えた。
なにせ、ベアトリスの食費は全て、グラジオラス辺境伯領の公費で賄われているのだから。
「では師匠、グラジオラス邸へ参りましょう。その前に、王都の名物を紹介します」
「おおっ、行く行く! 丁度腹減って来たんだ」
「それでは皆様、ごきげんよう。失礼致します」
こうして、ベアトリスとマーノの二人は、アイラにグラジオラス邸へと連れて帰られた。
王立騎士団員達のプライドをずたぼろにして。
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