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農学博士フィオナの場合。

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 ローレンス・ハウゼンは、プラウナ王国中央軍閥のエリート御曹司だった。
 彼自身は長男ではなかったが、このまま騎士団へ勤めていれば、将来は中央軍閥の幹部の道が約束されていた。
 または、長男よりもローレンスの方が剣の腕が良いので、家を継ぐよりも出世できるかもしれないと噂されていた。


 その彼へ、家長であり王立騎士団第四師団の団長を勤める父より、とある命令が下された。

 ローレンスはその命令を遂行する為、気乗りはしないが、グラジオラス辺境伯領へと赴いた。

 王都から馬車で数日掛けて移動し、国境にあるグラジオラス辺境伯領へと到着した。

 そして彼は、とある命令を遂行する為に動いた。

「すまないが、グラジオラス姓を持つ令嬢のいる場所を知らないだろうか?」

 と、グラジオラス領内の領民に案内されてやって来たのは、とある畑の真ん中だった。

「おい、こんな畑の真ん中へ本当にグラジオラスの令嬢がいるのか?」

 ローレンスは、自分を畑へと案内したグラジオラス領民を不審に思いつつ聞く。

「お嬢様なら、畑のどこかにいらっしゃいます」

 そう言ってグラジオラス領民は、農作業を開始した。どうやら農民だったらしい。

 ローレンスは王都育ちの為、畑に来たことなどなかった。土の上は歩き難く、ブーツは泥で汚れるし、その土からは変な臭いが漂っていて臭い。

 しかし、歩き難くて臭い土の上をどんなに我慢して歩いても、グラジオラスの令嬢の姿は発見できない。畑にいるのは、令嬢どころか農作業をしている農民ばかり。ローレンスの機嫌は、どんどん悪くなって行った。

 ローレンスはとうとう我慢できず、

「グラジオラス令嬢! この場へいるのならば、今すぐ出て来てもらいたい!」

 畑の真ん中で大声を上げた。すると、

「中央軍の騎士が何用でしょうか?」

 農婦だと思っていた女が麦わら帽子とほっかむりを取り、ローレンスへと応えた。

「視察の話は伺っておりませんが?」

 ダークブラウンの髪を後ろでくくり、エメラルドの瞳をした二十歳程のキリッとした美女の、いぶかしげな表情。

 ローレンスは彼女の方へ踏み出し、

「グラジオラス令嬢へ婚約を申し込む!」

 言った。すると、

「っ!?」

 グラジオラス令嬢の顔色が変わった。そして、

「者共っ、出合えっ!? 曲者を引っ捕らえよっ!」

 血相を変えた鋭い声が上がり、いかつい農民達がローレンスを取り囲んだ。

「なっ、どういうことだっ!? わたしはプラウナ王国騎士団のローレンス」
五月蝿うるさい貴様っ! そこを動くなっ!?」

 ローレンスはエリートコースに乗った優秀な騎士で、騎士団内でも若者の中では有望株だった。様々な意味で有名なアイラ・グラジオラスには敵わずとも、若手の中では実力のある方だ。
 だというのに、ローレンスは呆気なくゴツい農民達に取り押さえられてしまった。

 そして、縄を打たれた屈辱的な姿で罪人のようにしてグラジオラス城砦へと連行されて行った。
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