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諜報員見習いアウル達の場合。
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プラウナ王立学園高等部。
一仕事を終えた彼女は、学園を後にして家に帰ろうとしていた。すると、その視界の端に、どこか見覚えのある服がチラッと映った。
不思議に思った彼女が考えながら歩いていると、
「お嬢様」
横合いから声を掛けたのは、彼女の家の侍女のお仕着せを着た少女。
長めの前髪に黒縁眼鏡。こんなメイドいたかしら?と、彼女がまた考えたとき、
「モニカお嬢様へ、重要なお話が」
少女が言った。
自分の名前を知っているのだから、自分の家か、または係累の家の使用人なのだと彼女は思った。
「あら、どうかしたの?」
「はい。その・・・」
少女は、言い難そうに声を潜める。
「では、歩きながら話しましょう」
「はい」
彼女は今、密命をやり遂げたばかり。
親族が公爵家の嫡男へ嫁いだのだが、なにかしらの陰謀があり、その公爵嫡男が失脚させられたのだとか。それで、その嫡男失脚へ関与している疑いのある三男と、明らかに怪しい友人へ嫌がらせをしろと言われたのだ。
彼女にはよくわからないし、さして興味も無いが、指定の人物をターゲットへ誘導するだけでいいと言われ、それを少し前にやり遂げたばかりだ。
また、別の指令でも出たのだろうか?
この子も、その関係なのかもしれない。
高等部の校門へ向かって歩く。
「それで、なんの話なの?」
「グレイスフィールド家は、わたし達に喧嘩を売りたいのでしょうか?」
「え?」
メイドに言われたことの意味がわからなくて、モニカ・グレイスフィールドはきょとんとして、後ろを歩くメイドを振り返った。すると、
「まあ、わたし達二人だけの邪魔をしたところで、あまり意味は無いのですけどね?」
今度は背後から、また声がした。それに振り返ると、そこにはメイドがいた。長めの前髪に黒縁眼鏡。モニカの後ろにいる筈のメイドと、そっくり同じメイドが立っていた。
「え?」
モニカは驚いて、背後を振り返る。
そして、そこにはまた、同じメイド。
「な、なにっ!?なんなのこれはっ!?」
驚きの声を上げるモニカに、そっくりな二人のメイドの口が、ニヤニヤと弧を描く。
「なんだろうね?アウル」
ニヤニヤと、
「さあ?なんだと思う?アウル」
交互に掛け合う二人のメイド服。
「喧嘩を売られたから、買いに来た?」
「まあ、そんな感じかもねー?」
「だ、誰よアンタ達っ!?」
モニカはメイド服二人へ声を荒げる。
「あれ?まだ判らないのかな?」
「判ってないみたいだよ?仕方ないなぁ」
「「ねえ、モニカ・グレイスフィールド嬢」」
「っ!?」
自分の屋敷のメイド服を着た、全く知らない二人に名前を呼ばれ、モニカは怯む。
「「わたし達を嵌めたと思ってる?」」
「でもさ、それってどうなのかな?」
「わたし達は、沢山いるうちの二人だよ?」
「わたし達の代わりは沢山いる」
「別に、ミカエル・グラノワール公爵令息と接触するのは、わたし達じゃなくてもいいからね」
「ねえ、みんな」
メイド服の片方が楽しげに呼び掛けた。
瞬間、モニカの近くを歩いていた通行人の全てが、一斉にモニカの方へ視線を向けた。
「ヒィっ!?」
学生服を着た令嬢や令息、教員、どこかの家の使用人風の男性、通行人達・・・それらが、一斉に立ち止まってモニカをじっと見詰める。
「「さて、ここで問題ですっ!」」
メイド服の二人が仲良さげに手を繋ぎ、ニヤニヤとモニカへ言った。
「このメイド服はどこで手に入れたでしょうか!」
「え?」
「一、その辺で買った。二、どこかの屋敷で入手した。さあ、どっちでしょうか!」
どこかの屋敷に思い至ったモニカは、顔面蒼白になってカタカタと小さく震える。
「あれ?どうかしましたか?モニカ・グレイスフィールド侯爵令嬢。顔色が凄く悪いですよ?」
「お帰りになられるのでしたら、お送り致しましょうか?屋敷までの道なら、ちゃんと知ってますから安心してくださいね?」
ニヤニヤと笑い、手を差し伸べる二人。
「こ、来ないでっ!?」
蒼白なモニカは、自分がなにに手を出してしまったのかをわからないまま、自分を見詰める視線を振り切ろうと、一目散に学園を走り去った。
※※※※※※※※※※※※※※※
「あらら、逃げちゃった」
「ま、いいんじゃない?」
「はーい、もういいですよー!」
「ご協力ありがとうございましたー!」
双子のアウル達が、モニカを見詰めていた通行人へ礼を言うと、何事も無かったように通行人達が解散。各々の用事へと歩いて行った。
そして、着替えようと高等部第四音楽準備室へと向かうアウル達へ、
「知らなかったな。学園内に、君ら諜報員達がそんなに沢山いたなんて」
一部始終を目撃していたミカエルが言った。
「ん?ヤだな、ミカ」
「そんなワケないじゃん」
「グラジオラスの梟達は、こんな遊びに付き合う程暇じゃないよ」
「そうそう。今さっきのは、ここへ通っているグラジオラスの親類達だよ」
「ちょっと協力してもらっただけ」
「合図で、わたし達の相手へ視線を向けろってね」
「・・・遊び、なの?」
「遊びだよ?ミカ。ね、アウル」
「そうそう。警告を兼ねた遊びだよ」
「だって、グラジオラスの梟はもう動いてるし」
「元嫡男の奥方の実家を探ってると思う」
「・・・そう。ま、それはいいんだけどね。ところでさ、君達」
「「なに?ミカ」」
「僕は、君ら二人がいい。だから、君ら二人の代わりなんか要らないよ」
そう言うと、ミカエルは早足に去って行った。
「「っ…」」
後には、顔を赤くして見詰め合う双子。
一仕事を終えた彼女は、学園を後にして家に帰ろうとしていた。すると、その視界の端に、どこか見覚えのある服がチラッと映った。
不思議に思った彼女が考えながら歩いていると、
「お嬢様」
横合いから声を掛けたのは、彼女の家の侍女のお仕着せを着た少女。
長めの前髪に黒縁眼鏡。こんなメイドいたかしら?と、彼女がまた考えたとき、
「モニカお嬢様へ、重要なお話が」
少女が言った。
自分の名前を知っているのだから、自分の家か、または係累の家の使用人なのだと彼女は思った。
「あら、どうかしたの?」
「はい。その・・・」
少女は、言い難そうに声を潜める。
「では、歩きながら話しましょう」
「はい」
彼女は今、密命をやり遂げたばかり。
親族が公爵家の嫡男へ嫁いだのだが、なにかしらの陰謀があり、その公爵嫡男が失脚させられたのだとか。それで、その嫡男失脚へ関与している疑いのある三男と、明らかに怪しい友人へ嫌がらせをしろと言われたのだ。
彼女にはよくわからないし、さして興味も無いが、指定の人物をターゲットへ誘導するだけでいいと言われ、それを少し前にやり遂げたばかりだ。
また、別の指令でも出たのだろうか?
この子も、その関係なのかもしれない。
高等部の校門へ向かって歩く。
「それで、なんの話なの?」
「グレイスフィールド家は、わたし達に喧嘩を売りたいのでしょうか?」
「え?」
メイドに言われたことの意味がわからなくて、モニカ・グレイスフィールドはきょとんとして、後ろを歩くメイドを振り返った。すると、
「まあ、わたし達二人だけの邪魔をしたところで、あまり意味は無いのですけどね?」
今度は背後から、また声がした。それに振り返ると、そこにはメイドがいた。長めの前髪に黒縁眼鏡。モニカの後ろにいる筈のメイドと、そっくり同じメイドが立っていた。
「え?」
モニカは驚いて、背後を振り返る。
そして、そこにはまた、同じメイド。
「な、なにっ!?なんなのこれはっ!?」
驚きの声を上げるモニカに、そっくりな二人のメイドの口が、ニヤニヤと弧を描く。
「なんだろうね?アウル」
ニヤニヤと、
「さあ?なんだと思う?アウル」
交互に掛け合う二人のメイド服。
「喧嘩を売られたから、買いに来た?」
「まあ、そんな感じかもねー?」
「だ、誰よアンタ達っ!?」
モニカはメイド服二人へ声を荒げる。
「あれ?まだ判らないのかな?」
「判ってないみたいだよ?仕方ないなぁ」
「「ねえ、モニカ・グレイスフィールド嬢」」
「っ!?」
自分の屋敷のメイド服を着た、全く知らない二人に名前を呼ばれ、モニカは怯む。
「「わたし達を嵌めたと思ってる?」」
「でもさ、それってどうなのかな?」
「わたし達は、沢山いるうちの二人だよ?」
「わたし達の代わりは沢山いる」
「別に、ミカエル・グラノワール公爵令息と接触するのは、わたし達じゃなくてもいいからね」
「ねえ、みんな」
メイド服の片方が楽しげに呼び掛けた。
瞬間、モニカの近くを歩いていた通行人の全てが、一斉にモニカの方へ視線を向けた。
「ヒィっ!?」
学生服を着た令嬢や令息、教員、どこかの家の使用人風の男性、通行人達・・・それらが、一斉に立ち止まってモニカをじっと見詰める。
「「さて、ここで問題ですっ!」」
メイド服の二人が仲良さげに手を繋ぎ、ニヤニヤとモニカへ言った。
「このメイド服はどこで手に入れたでしょうか!」
「え?」
「一、その辺で買った。二、どこかの屋敷で入手した。さあ、どっちでしょうか!」
どこかの屋敷に思い至ったモニカは、顔面蒼白になってカタカタと小さく震える。
「あれ?どうかしましたか?モニカ・グレイスフィールド侯爵令嬢。顔色が凄く悪いですよ?」
「お帰りになられるのでしたら、お送り致しましょうか?屋敷までの道なら、ちゃんと知ってますから安心してくださいね?」
ニヤニヤと笑い、手を差し伸べる二人。
「こ、来ないでっ!?」
蒼白なモニカは、自分がなにに手を出してしまったのかをわからないまま、自分を見詰める視線を振り切ろうと、一目散に学園を走り去った。
※※※※※※※※※※※※※※※
「あらら、逃げちゃった」
「ま、いいんじゃない?」
「はーい、もういいですよー!」
「ご協力ありがとうございましたー!」
双子のアウル達が、モニカを見詰めていた通行人へ礼を言うと、何事も無かったように通行人達が解散。各々の用事へと歩いて行った。
そして、着替えようと高等部第四音楽準備室へと向かうアウル達へ、
「知らなかったな。学園内に、君ら諜報員達がそんなに沢山いたなんて」
一部始終を目撃していたミカエルが言った。
「ん?ヤだな、ミカ」
「そんなワケないじゃん」
「グラジオラスの梟達は、こんな遊びに付き合う程暇じゃないよ」
「そうそう。今さっきのは、ここへ通っているグラジオラスの親類達だよ」
「ちょっと協力してもらっただけ」
「合図で、わたし達の相手へ視線を向けろってね」
「・・・遊び、なの?」
「遊びだよ?ミカ。ね、アウル」
「そうそう。警告を兼ねた遊びだよ」
「だって、グラジオラスの梟はもう動いてるし」
「元嫡男の奥方の実家を探ってると思う」
「・・・そう。ま、それはいいんだけどね。ところでさ、君達」
「「なに?ミカ」」
「僕は、君ら二人がいい。だから、君ら二人の代わりなんか要らないよ」
そう言うと、ミカエルは早足に去って行った。
「「っ…」」
後には、顔を赤くして見詰め合う双子。
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