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女騎士アイラの場合。
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「ちなみに、ガレイア様はご存知ないようなのでお教えしておきますが、我がグラジオラス家は代々武門の家系です。そして、女でも実力が伴えばグラジオラス公爵本家から爵位と領地が頂けます」
「それがどうした?」
「わたしは、グラジオラス分家、次期子爵となることが決まっております」
「それがどうしたというんだっ?」
「つまり、ガレイア様。あなたは王族から、子爵のわたしへ降嫁させられることが決定していたということです」
「は? なにでたらめなことを」
「それも、王族から降嫁される家の家格は、通常であれば伯爵以上の地位が必要とされますが、子爵予定のわたしに降嫁予定というのは、ハッキリ言ってあなたへの罰則という意味合いが強い」
「わ、わたしを侮辱する気かっ!?」
「侮辱ではなく、事実です。あなたは第三王子ではありますが、母君のご実家の国で過ごされ、祖父母の下で大層甘やかされて育ったようですね。祖父であった公爵閣下が亡くなり、我が国へ帰国。だというのに、喪に服すどころか、不特定多数のご婦人方との火遊びと、そのご婦人方へ散財とは・・・全く、言葉もありませんね。せめて、最低限の避妊くらいはなさってください。どういう教育を受けて来られたのでしょうか? あなたの火遊びの始末には、王室中が非常に迷惑を被っていたようです」
無論、ガレイアにたった今破棄宣言をされたこの婚約自体も、跡始末の一環だったのだが。
「そして、王子であらせられるというのに我が国の事情も情勢も知らないとは、大変な勉強不足かと。ガレイア様の上や下の殿下方が優秀で、大変良かったと思います」
アイラの連ねる言葉に、ガレイア王子の腕へ絡んでいた少女の媚びた色の笑みが、段々と困惑を帯びたものへと変わって行く。
「誰かこの女を黙らせろっ!?」
ガレイアは叫ぶが、この会場には、騎士団内でも強者の、それも帯剣しているアイラを力尽くで黙らせられる者など、ほぼいない。
そして、誰も動かない。
「我がグラジオラス家では、爵位を持つことを許された女は、子を生まなくてもよいのです。跡取りは、他のグラジオラスから養子を取ればよいのですからね。そもそもが、血筋自体には重きを置いていないのですから。・・・ああ、いえ、それは正確な表現ではありませんでしたね」
「は?」
「けれど、だから、我がグラジオラス分領地は不毛の地とされているのですよ。偶にあるのです。鼻摘み者の王候貴族を、我がグラジオラスの子爵以下の家へ迎え入れることが。そのような者の種は、絶やしてしまえということですね。つまりあなたは、『既に王族から切り捨てられていた』ということです。あなたを『殿下』と呼ぶ者は、最初から存在していなかったのに。あなたはスペア扱いさえも、されていなかったのですよ。それにも気付いていないで王子気取りとは、全く・・・随分とおめでたい頭をしておいでで」
「な、にを…」
「わたしとの婚約は、陛下の最後の温情でしたのに。大人しく我が領地で過ごされるというのでしたら、王族では非ずとも、あなたはまだ貴族の末席にはいられたのですがね? この温情を自ら蹴ったということは、ガレイア様には、王籍及び身分剥奪の上、去勢をして修道院へ入る道しか残されておりません。お気の毒ではありますが、自業自得かと。女人禁制の修道院で倹しく清らかに、残りの人生を神に祈りを捧げて過ごされるが宜しいでしょう」
「ま、待て」
蒼白になったガレイアがアイラを呼び止める。
「では、わたしはこれより、婚約破棄に関しての手続きがありますので失礼させて頂きます。ああ、ガレイア様。ご自分から婚約破棄を切り出して頂き、真に感謝しております。それでは、ごきげんよう」
しかし、アイラ・グラジオラスは軍服を翻して颯爽とパーティー会場を後にした。
その身を、剣へ捧げられることを慶びながら。
「それがどうした?」
「わたしは、グラジオラス分家、次期子爵となることが決まっております」
「それがどうしたというんだっ?」
「つまり、ガレイア様。あなたは王族から、子爵のわたしへ降嫁させられることが決定していたということです」
「は? なにでたらめなことを」
「それも、王族から降嫁される家の家格は、通常であれば伯爵以上の地位が必要とされますが、子爵予定のわたしに降嫁予定というのは、ハッキリ言ってあなたへの罰則という意味合いが強い」
「わ、わたしを侮辱する気かっ!?」
「侮辱ではなく、事実です。あなたは第三王子ではありますが、母君のご実家の国で過ごされ、祖父母の下で大層甘やかされて育ったようですね。祖父であった公爵閣下が亡くなり、我が国へ帰国。だというのに、喪に服すどころか、不特定多数のご婦人方との火遊びと、そのご婦人方へ散財とは・・・全く、言葉もありませんね。せめて、最低限の避妊くらいはなさってください。どういう教育を受けて来られたのでしょうか? あなたの火遊びの始末には、王室中が非常に迷惑を被っていたようです」
無論、ガレイアにたった今破棄宣言をされたこの婚約自体も、跡始末の一環だったのだが。
「そして、王子であらせられるというのに我が国の事情も情勢も知らないとは、大変な勉強不足かと。ガレイア様の上や下の殿下方が優秀で、大変良かったと思います」
アイラの連ねる言葉に、ガレイア王子の腕へ絡んでいた少女の媚びた色の笑みが、段々と困惑を帯びたものへと変わって行く。
「誰かこの女を黙らせろっ!?」
ガレイアは叫ぶが、この会場には、騎士団内でも強者の、それも帯剣しているアイラを力尽くで黙らせられる者など、ほぼいない。
そして、誰も動かない。
「我がグラジオラス家では、爵位を持つことを許された女は、子を生まなくてもよいのです。跡取りは、他のグラジオラスから養子を取ればよいのですからね。そもそもが、血筋自体には重きを置いていないのですから。・・・ああ、いえ、それは正確な表現ではありませんでしたね」
「は?」
「けれど、だから、我がグラジオラス分領地は不毛の地とされているのですよ。偶にあるのです。鼻摘み者の王候貴族を、我がグラジオラスの子爵以下の家へ迎え入れることが。そのような者の種は、絶やしてしまえということですね。つまりあなたは、『既に王族から切り捨てられていた』ということです。あなたを『殿下』と呼ぶ者は、最初から存在していなかったのに。あなたはスペア扱いさえも、されていなかったのですよ。それにも気付いていないで王子気取りとは、全く・・・随分とおめでたい頭をしておいでで」
「な、にを…」
「わたしとの婚約は、陛下の最後の温情でしたのに。大人しく我が領地で過ごされるというのでしたら、王族では非ずとも、あなたはまだ貴族の末席にはいられたのですがね? この温情を自ら蹴ったということは、ガレイア様には、王籍及び身分剥奪の上、去勢をして修道院へ入る道しか残されておりません。お気の毒ではありますが、自業自得かと。女人禁制の修道院で倹しく清らかに、残りの人生を神に祈りを捧げて過ごされるが宜しいでしょう」
「ま、待て」
蒼白になったガレイアがアイラを呼び止める。
「では、わたしはこれより、婚約破棄に関しての手続きがありますので失礼させて頂きます。ああ、ガレイア様。ご自分から婚約破棄を切り出して頂き、真に感謝しております。それでは、ごきげんよう」
しかし、アイラ・グラジオラスは軍服を翻して颯爽とパーティー会場を後にした。
その身を、剣へ捧げられることを慶びながら。
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