11 / 13
お帰りなさい。
しおりを挟む母親であるわたしが、『あの子』の面倒を見るのは当然のこと。なのに、
「本当にありがとうございます、叔母さん。感謝しています。叔母さんさえよかったら、これからもあの子のことをよろしくお願いします。妻が、少し不安定になっているみたいで……」
と、『彼』がわたしに感謝して、『彼』の家の合鍵を渡してくれた。
『あの女』のことなんてどうでもいいけど、『あの子』に当たり散らすのだけは苦々しく思う。
でも……ああ、合鍵があればいつでも『あの子』に会いに行けるわ。
それからは、『あの子』に会いに。『あの子』の世話をするために。毎日『あの女』のいる家に通った。
そんな日々が続いて――――
ある日のことだった。
いつものように『あの子』の名前を呼んで、
「おかあさん」
って、呼ばれて『あの子』を抱き締めたら、
「……アンタの娘は、何年も前に死んだんだから……いい加減っ、わたしの娘を代わりにするのはやめてよっ!?」
いきなり、鬼のような形相で怒鳴られた。
なにを言われたのか、わからなく……
「あの子は死んだじゃない!!」
っ!?、誰のせいであの子がっ……
「この子は、わたしの娘よ!」
……っ、違う。違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うっ!!!!!!!!
「この子は、あの子よっ!!!!」
わたしには一目で判ったんだからっ……
「あの子は優しいから、裏切ったあなた達を許して、二人の子供として生まれ変わって来てあげたんだから、この子に感謝しなさい」
「うる、さいっ……うるさい、うるさいうるさいうるさいっ!? わたしの娘を返せっ!?!?」
わたしの言葉を聞かず、『あの女』は暴れ出した。
それを見た『あの子』が怖がったから、わたしは娘を連れて外へ飛び出した。
「おかあさん、あのひとこわい」
と、わたしにしがみ付く『あの子』を、安心させるように抱き締める。
「大丈夫よ、大丈夫。今度こそ、お母さんがあなたを守ってあげるから。二度と奪わせないわ」
そう、だわ。
そう、なのよ。『あの子』は、ちゃんとわたしのところへ、小さくなって戻って来たのよ。
『あの子』をうちに連れて帰って、寝かし付けた後。夜になって、疲れた顔の『彼』が、『あの子』を迎えに来たと言って連れて行ってしまったの。
とても寂しかったけど……夫が、
「君も疲れているだろう? 今日は……いや、もうしばらくは彼の家に預けておこう」
って、言ったから。『あの子』を、また『彼』と『あの女』の家に預けることにした。
それから、『あの女』はどんどん情緒不安定になって行って、『あの子』に酷く当たり散らすようになってしまった。
可哀想に・・・
病弱であることを、一番負担に思って辛い思いをしているのは『あの子』の方なのに。
なんでこんなに酷いことが言えるの?
やっぱり、本物の母親であるわたしの方が『あの子』のことをわかってあげられるのよ。
『あの子』が可哀想だから、早く『あの子』を家に連れて帰らなきゃ・・・
そう、焦っていたときだった。
『彼』と『あの女』が、離婚したと聞いた。
ヒステリーを起こして、『あの子』に酷く当たるようになったことが原因だそうだ。
そして、『あの女』は『あの子』を置いて出て行ったという。あまつさえ、向こうの親は二度と自分達に関わるなと『彼』に言ったそうだ。
さすが、『あの女』の親。酷く薄情だこと。
でも、よかったわ。これでわたしは、ようやく『あの子』と一緒に暮らすことができる。
『彼』に、
「あなた一人で『あの子』の面倒を看るのは大変でしょう? よければ、わたし達が面倒を看るわ」
そう言って、『あの子』を引き取った。
こうして、『わたしの娘』は我が家へやっと帰って来ることができた。
「お帰りなさい。長いこと離れていてごめんなさいね? 寂しかったでしょう? でも、これからは親子三人、一緒に暮らせるわ」
「うん、おかあさん」
жжжжжжжжжжжжжжж
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を起こす~転校生渉の怪異事変~
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》

アポリアの林
千年砂漠
ホラー
中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。
しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。
晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。
羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる