【完結】わたしの娘を返してっ!

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
2 / 13

彼女は幼い頃から病弱だったそうだ。

しおりを挟む



 久々に妻の日記を、広げると――――少し几帳面さを感じさせる、妻の文字が並んでいた。





 あの子は、彼の六つ年下のイトコだそうだ。

 彼女は幼い頃から病弱だったそうだ。そんな彼女を、彼は妹のように可愛がったという。

「妹のように思っている子なんだ。だから、仲良くしてやってほしい」

 そう言って待ち合わせたというおしゃれなカフェで紹介されたのは、華奢で可憐な、線の細い儚げな印象の綺麗な女の子だった。

「え? お兄ちゃん、結婚するの?」

 彼を兄と称した彼女。わたしと彼を見詰め、驚いたように大きな瞳が見開いた。サッと色を失くしたその顔に、わたしは気付いた。

 ああ、この子は……彼のことが好きだったのだと。

「ああ。お前は俺の妹も同然だからな。これから家族になるこの人と、仲良くしてくれると嬉しい」

 彼が、驚くあの子にそう言って微笑むと、あの子は不安そうにわたしへ挨拶をした。

「どうした? 顔色が悪いが、体調が悪かったのか? なら、無理して来なくてもよかったんだぞ?」

 顔色を悪くしたあの子に彼が尋ねると、あの子は首を振った。

「ううん。だい、じょ……ぅっ!」

 大丈夫。と、そう言い切る前に、あの子は顔を歪めて胸を押さえた。そして、苦しそうに喘ぎ出した。

 ヒューヒューと苦しげな呼吸音。

 なんでも、彼女は幼い頃から心臓が弱いそうで、いつもは薬を持ち歩いているのに、最近は体調がよかったからと油断して、薬を持っていなかったようだ。

 救急車を呼ぶか聞くと、彼女は首を振って嫌がった。

 舌打ちした彼は彼女を抱き上げてタクシーを呼ぶと、わたし達は急いで彼女の家へと向かった。

 あの子の家に着いて薬を飲んだあの子が落ち着くと、あの子の母親は彼にありがとうと言って感謝した。

「ごめんなさいね、お友達と一緒だったのに、わざわざこの子を送ってくれて」
「いや、友達じゃなくて、俺。この人と結婚するんだ。それで、紹介しようとしたんだけど」

 彼が困ったように言葉を濁すと、わたしへ向けていた彼のお友達という認識だった視線の温度が、サッと低くなった気がした。

「そう、それはごめんなさいね」
「いや、いいよ。まあ、そういうことだから。よろしくお願いします」

 と、彼の両親への挨拶より、彼の叔母への挨拶の方が先になってしまった。

「その、折角ご挨拶してくれたのに悪いんだけど、今からこの子を病院に連れて行かなきゃいけないの。慌ただしくてごめんなさいね」

 そう言われ、わたし達はお暇することにした。



 ああ……確か、アイツと彼女の初対面はそんな風に終わった。彼女の日記を読みながら、あのときのことを思い出す。

 アイツが発作を起こして、デートが台無しになって……彼女は――――


жжжжжжжжжжжжжжж


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を起こす~転校生渉の怪異事変~

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》

寺院墓地

ツヨシ
ホラー
行ったことのない分家の墓参りにはじめて行った。

団欒の家

牧神堂
ホラー
自分の家を持つことが長年の夢だった『私』は格安の瑕疵物件を購入した。 当然のようにそこは出る家だった……。 長めのショートショート、もしくは短い短編くらいの長さです。

禊(みそぎ)

宮田歩
ホラー
車にはねられて自分の葬式を見てしまった、浮遊霊となった私。神社に願掛けに行くが——。

アポリアの林

千年砂漠
ホラー
 中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。  しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。  晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。  羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

強靭で純粋なる殺意の塊

ツヨシ
ホラー
車から降りて来た男は、まさに殺意の塊だった。

いい買い物

ツヨシ
ホラー
中古のいいパソコンを買った。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...