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好きになるんじゃ……な、かった…………
しおりを挟む頭の中がぐちゃぐちゃだ。
落ち着いて、深呼吸をして……ビクビクしながら、家に戻った。
この日は、彼からの連絡を全て無視して頭から毛布を被って眠ろうとした。
明日――――会社に行くことが、彼と顔を合わせることを想像して、恐怖が止まらない。
結局は眠れなくて。なんの答えも出せないまま、最悪の気分で会社へ向かう。
彼と顔を合わせないで済むよう、時間をずらして――――
とても早く着いた。の、に・・・
「おはよう」
彼が、彼がっ……笑顔で、わたしに挨拶をした。待ち伏せをされていた?
「お、おはよう、ござい、ます……」
震えそうな身体を叱咤し、挨拶を返す。
「昨日はどうしたの?」
いつものように、にこやかな顔で彼が聞く。
「き、昨日……は、体調が、悪く……て」
「そう。話があるんだ。来て」
笑顔で、けれど強くわたしの腕を掴んだ彼が歩き出す。
「っ……」
怖いと思いながら、痛いのに声を出せないまま、彼に引き摺られるようにして人気の無いところへ移動。
階段の踊り場で足を止めた彼が、口を開いた。
「君、彼女に離婚を迫ったんだって? 俺の子供がいるから、俺と結婚したいって」
笑顔で。けれど、いつもの笑顔とは決定的に違う、冷たい瞳があたしを見下ろす。
「言ったよね? 俺は、彼女と別れるつもりは無いって。君も、俺の意志を尊重してくれるんじゃなかったの? そもそも、俺が既婚者だって判ってて付き合っていたよね?」
「そ、それは……」
「勝手に妊娠するって、ルール違反じゃないの? いや、そもそも君、本当に妊娠してるの?」
疑わしいという目が、あたしのお腹に注がれる。
「そっ、れは……」
妊娠している、と。今ここで、彼に真実を告げていいのだろうか? 奥さんは、この人に妊娠中に殴る蹴るされて、流産したというのに。
ここは、会社で人目がある。
奥さんはこの人のことを外面がいいと言っていた。人目に付く場所では大丈、……
「ま、別にいいけど。してもしてなくても」
グイッと、強く掴まれていた腕が急に引かれ、
「え……?」
パッと腕が、離された。身体が傾ぐ感覚。そして、彼の顔が歪んだ笑みを象るのが……
「ああ、一応救急車は呼んでやるよ。生きてても、死んでても。じゃあな」
やけに、ゆっくりと見えた。
なに、これ? 階段から、身体が浮く浮遊感。
もし、かして……あたし、彼に落とされてる?
彼に、落とされる。階段から落ちたら、良くて怪我。最悪、死ぬ。
そんなの、嫌だ。
死にたく、ない。
死にたくない。死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくないっ!!
あたしに背中を向ける彼へと、必死の思いで手を伸ばして――――
階段を、転がり落ちた。
ああ、こんな最低最悪なクズ男なんか、好きになるんじゃ……な、かった…………
あちこちぶつけて、身体中が痛くて……段々、と意、識……が――――
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
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次回、視点変更。
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