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ご、ごめんなさい、許してくださいっ!

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 嘘……だと、思いたい。

 彼がそんなことをするはずがない! そう、思いたい。でも、あたしを真っ直ぐに、狂気染みた笑みを浮かべる奥さんの顔には、前髪で隠されていた……血走った目元には、大きな黒い痣がある。よく見ると、唇だって切れている。離婚届を突き付ける腕には、包帯が巻かれている。

 彼の奥さんは働いてもいないのに怠けて、家事の手を抜く……殴られたら、こんなに怪我をしていたら、痛くて動けないのが当然じゃない?

 彼が注意をしても、なかなか改善しない……彼の言う、注意・・の方法ってナニ?

 彼の奥さんは、化粧っ気の無い人……怪我をしているのに、傷の上からメイクをする?

 彼の前で綺麗でいることを怠る人。服だって、同じのばかり着ておしゃれをしない人……こんな顔で、こんなにあちこち怪我をして、外に出られる? 買い物に行ける?

 彼の奥さんは、彼が一生懸命話をしても、聞いてはくれない人……これだけ暴力を振るわれたら、その暴力を振るった人の話をまともに聞ける?

 部屋に籠って、彼に怯えて、出て来なくなるのも当然じゃない?

 様々な疑問が頭を駆け巡り――――それが、腑に落ちた。落ちて、しまった。

 自分で暴力を振るって、怪我をさせて動けなくさせた相手に、家事をすることを求める……強要して、更なる暴力を振るう男が、まともな男であるはずがない。

「ご、ごめんなさいっ!!」

 奥さんが……彼のことが酷く怖くなって、あたしは部屋から出ようとした。

「待って!」

 けれど、奥さんはあたしの腕を掴んで言った。

「あなたは彼と結婚するんでしょうっ? 彼のことを愛してるんでしょうっ!?」
「そ、それ、はっ……」
「お腹に、彼の子がいるんでしょうっ? 父親のいない可哀想な子にしたくないんでしょうっ? あなたが、わたしを助けてくれるんでしょうっ!?」

 ギリギリと、掴まれた腕が強く痛む。

「ひっ! ご、ごめんなさい、許してくださいっ!」

 そう言って、奥さんの腕を必死で振り解いて玄関へ向かう。

 靴を履くのももどかしく、玄関を開けてバタン、とドア閉める。

 そして、一刻も早くここをでなきゃと焦る。

 奥さんは、よろよろと歩いていた。きっと、身体中怪我をして痛むんだ。走れるような状態じゃないはず。

 急いで、けれど転ばないようにしなきゃ。

 最初にここに来たような気持ちは、もう全く無い。

 彼は、奥さんに……女に、妊婦に、躊躇ためらうこと無く、暴力を振るうような最低なDV男だった。あたしは、そんな男を好きになって、彼の子供まで妊娠してしまった。

 これからどうしよう、早く彼と別れなきゃ。

 ああ、彼と結婚するのだと、奥さんと別れさせてあげようだなんて考えるんじゃなかった。

 いや、そもそも奥さんがいる人を……いえ、外面がいいだけの暴力男に惹かれた自分を、ぶん殴ってやりたい。深い後悔が胸を襲う。

 どうしよう? どうしよう? どうしよう? 彼の子供を妊娠したと判ったときの嬉しい気持ちなんて、奥さんの話を聞いて、サッパリ消え失せた。

 今は、どうしたら彼と穏便に別れられるかを考えなきゃ。

 ああ、でも……さっきの話が全部嘘で、彼はいつもの彼で、あたしに優しくしてくれるんじゃ……? なんて、そんな妄想染みた馬鹿な考えが浮かぶ。

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。

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