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彼女は男爵令嬢ではなくなった。 

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 わたくしは男爵の悪事を暴き、然るべき関係各所へと通報した。無論、証拠も提出致しましたわ。

 そうやって男爵が逮捕された今、彼女は男爵令嬢ではなくなった。 

 年齢詐称がバレ、学費も払えなくなった。

 彼女に群がっていた男子生徒達も、彼女から波が引くように一気に去って行った。

 ぽつんと、一人で退学の手続きをして、荷物を抱える小さな背中。

 彼女が小柄で、庇護欲を誘うのは、今では当然に思える。

 だって、十五歳以上の子女ばかりの高等部で、彼女はただ一人の十二歳だったのだから。

 年下なのだから、小さくて当然。頼りなくて当然。無邪気で当然。

 彼女は、男子生徒達に嘘は吐いてなかった。

 母親が病気なのも本当で、お昼にお腹が空いていたのも本当だった。

 この学園では、寮に食費を払えば朝食と夕食が出て来る。だけど彼女は既に支払われていた食費を、男爵に内緒で食事は食べないからと払い戻しさせ、そのお金を母親の医療費に充てていた。

 朝食と夕食を寮で食べず、昼食を男子生徒達に奢らせ、テイクアウトのメニューを夕食と翌朝の朝食として食べていたという。

 男子生徒からの貢ぎ物も、街で換金して医療費に。街で買い食いしたりしたお菓子は、保存の利く焼き菓子が中心。その焼き菓子は、自分で食べたり、母親へお見舞いとして持って行ったり、入院する診療所のスタッフへの賄賂として配っていた。

 彼女の、『病気の母がいるんです』という言葉を、本気にしていた人は、一体どれだけいたのでしょうか?

 男に金を出させるための嘘。
 恋人ごっこ、判り易く可哀想な嘘を吐く彼女へ見せかけの同情をしての恋愛ゲーム。

 男子生徒達はそういう風に思っていたからこそ、本当に高価な品物は彼女へ買い与えなかった。多くの現金を直接彼女へ与えなかった。

 彼女に侍っていたクセに、彼女のことを、心から信じている男はいなかった。彼女のことを、本気で調べた男は誰もいなかった。

 更には、『誰が彼女を落とせるか?』だとか、『誰が彼女を宿に連れ込むことができるか?』と、下世話な賭けをしていた男子生徒が何名かいたそうです。

 困窮していると主張していた彼女を対象にした、恋愛ゲームや賭け事。

 まぁ、彼女に実年齢と男爵の逮捕とで、そういうクズ野郎共は去って行きましたが・・・

 問題は、そんな風にして、これからの生活を不安に思っている彼女を、本気で囲おうとしているロリコンつ、真性のクソ野郎共、と言ったところでしょうか。

 まぁ、彼女は年下ですし。病気の母親を助けるためとは言え、男子生徒達にあれこれ貢がせていたのは事実なのですが・・・

 わたくしの婚約者がクズ男だと知ることができたのも、彼女のお陰ですし。

「あなた、わたくしの侍女になりなさい」

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