上 下
14 / 42
第1章

【閑話】メイドの人生、その独白

しおりを挟む
 小さい頃からいつも一緒だった、赤いかみの女の子。
 いつからか「おじょうさま」と呼ぶようになった。
 よく意味は分からなかった。
 けど、メイドという仕事をしているおかあさんがそう呼びなさいって。
 とにかく、おじょうさまはおじょうさまらしい。

 今日も私はおかあさんと一緒にお屋敷へ。
 私としてはおじょうさまと遊びに来ただけだったけど。

 おじょうさまは手先が器用で、よく遊びながら紙を折ってくれた。
 ただの紙が鳥になったり、ドレスになったりするのは不思議だ。
 今日は「めりんだにあげるっ」ってちょうちょの形に折られた紙をもらった。
 かわいい。帰ったら宝物箱にしまおう。

 少し大きくなると、お嬢様は編み物やお洋服を作るようになった。
 まだ小さかった私だけど、特別にお嬢様専属メイドという仕事を頂けることになった。
 これはお嬢様の側に控えて、色々なことをお手伝いするって仕事。
 けれど、お嬢様はあまりを必要としなかった。
 なにしろ自分のことは自分で全てやってしまうのだ。
 それにちょっと不満を感じていたこともあった。
 折角メイドというお仕事を頂けたのに、何もしてあげられなくて。
 それでいて給金を貰うのが心苦しくもあった、のかな。

 そんなお嬢様だったけど、は必要としてくれた。
 いつだってメリンダ、メリンダと甘えてくれて。
 だからいつも側にいて、話を聞いてあげた。
 たまに私の愚痴もいって聞かせたら楽しそうに笑っていた。
 って笑い事じゃないんですけどねー。
 
 今日は夜会が嫌だと泣いていた。
 どうやら昨日のパーティで酷く嫌なことをされたらしい。
 その"嫌なこと"の跡は、桃色の華やかなドレスにはっきりと残っていた。
 相手は伯爵家の令嬢だという。
 それは困りましたねー、男爵家のメイド程度ではちょっと手が出せません。
 旦那様にそれとなくお嬢様が嫌がっていることを伝えるくらいが精一杯です。
 不出来なメイドでごめんなさい。

 段々と夜会に行くのも慣れてきたお嬢様。
 愚痴もいわなくなってきた。
 けれどいつから一緒にいると思ってるんですか?
 表情を見れば分かるってもんですー。
 きっと私を心配させないようにしているんでしょう。
 だから今日の夜会には目立たないような赤黒いドレスを用意してみた。
 きっとお嬢様は可愛らしくて目立つからやっかまれるのです。
 そういって地味なドレスを着せてあげた。

 どうやら効果はあったようで、今日は足を蹴られただけで済んだと喜んでいた。
 うーん、普段はどんな酷いことをされているんでしょう。
 でもお嬢様が喜んでくれたなら良かった……かな?
 
 それから赤黒い目立たないドレスを好んで着るようになったお嬢様。
 どうやら巷でこう呼ばれているようです。
 ”壁の花”って。
 私のお嬢様になんて失礼な。
 言いはじめた人にメイドキックをお見舞いしてやらなければですねー。
 え、それも伯爵令嬢が言い出したって?
 ……キックはやめておくとしましょう。
 ここはメイドのひと睨みくらいで勘弁してやるとします。
 
 今日は辺境伯様の夜会にお呼ばれしたらしい。
 旦那様から特別な夜会だから華やかなドレスを用意せよと厳命された。
 うーん、これは困りました。
 きっとお嬢様はいつものドレスを選ぶのだろうから。
 まあ私が怒られるだけで済むならそれでいいか。
 一応用意はしましたよー?って言い訳出来るようにだけはしておこうっと。

 夜会から戻ってきたお嬢様はいつもとは違っていて。
 辺境伯様と婚約した?私は耳を疑いました。
 けれどお嬢様の可愛さならそれも当然かもしれませんねー。
 専属のメイドとしては鼻が高いってもんです。
 これでお嬢様は嫁いでいって、私の専属メイドとしての物語は終わり。
 さー次はメイド長になったお母さんの後釜でも狙うとしますか。
 それか結婚しちゃうのもいいかもしれないですねー。

 え、ついてきてって何を言い出すんですかお嬢様。
 こんなメイドがついてきたら相手だって迷惑に決まってるじゃないですか。
 お嬢様がメリンダ離れしないと私の結婚はどうなるんですー?
 ま、相手なんていないんですけどね。
 考えておきますよっていったけど、期待はしないでおこう。
 お嬢様のその気持ちだけで十分嬉しいですからねー。

 嫁ぐ際にメイドをひとり連れていっても、いいでしょうか?
 って辺境伯様に何を聞いているんですかお嬢様。
 そして当たり前のように許可する辺境伯様も辺境伯様ですって。
 あー、私の結婚はまだ先みたいですねー。
 
 今日は神殿に行くってきかないお嬢様。
 なんかすごく嫌な予感がするんですけど?
 ほら、今にも降り出しそうな曇り空だしやめときましょ。
 ね、明日にしましょ。
 はぁ分かりました、じゃあ私もついていきます。
 そこは絶対に譲れないですから。
 ついでに終わったらあそこの喫茶店に行くっていうのは……いい?やったー。
 
 あーあ、嫌な予感って当たるんだなぁって。
 きらりと光るナイフを持って女の子が走ってきた時にそう思った。
 狙いは……お嬢様?
 だから私は咄嗟にお嬢様を突き飛ばした。
 
 衝撃と共に鋭い痛みがあって。
 それからとんでもない熱さにお腹の中を蹂躙された。
 命がなくなる時ってこういう感じなんだなー。
 でもお嬢様を守れたことは私の誇りだった。
 ま、その誇りがあればあの世もへっちゃらなんでー。
 だから私のことなんて放っておいてお嬢様は逃げて……。
 私はここまで、だから。

 
 あれ、私……生きてるんですか。
 目が覚めた時に、はじめに感じたのはそれだった。
 なんだろう?
 一度死んだと思ったからか生まれ変わったような変な気分。
 まあなんにせよ生きていて良かったですー。
 死んでいたらお嬢様が悲しんだだろうから。

 おっと、そんなことを考えてると何やら遠くから聞こえてくる。
 うん、この足音はお嬢様だろう。
 飽きずに今日も見舞いにやってきたんですねー。
 
 まったく……。
 メイド一人に気を揉むなんて困ったお嬢様ですねっ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...