転生貴族の異世界無双生活

領地運営と戦争準備⑮

「雷よ、雷鳴轟く龍となりて、敵を撃て――ドラゴンライトニング」

 龍を模した一筋の雷は天から舞い降り、アルトの目の前に立ちはばかる三体のオーガを貫く。煙を体から上げ真っ黒に焦げたオーガは、森を騒がすそよ風により灰となって飛び去る。

「はあ、これで何体目だ。大体、オーガはゴブリン種の変異種で希少なはず。これは、十中八九人為的な騒動だ」

 ゴブリンの突然変異で生まれるオーガは希少種であり、レート50はくだらない強力な魔物である。絶対数も少なく、ゴブリンの親玉として巣に引きこもりがちなためゴブリン討伐の時のように軍を率いて倒すような相手だ。

 それが、俺が森を探索して9体目になる。これほどまでに居れば、もう既に街がゴブリンに襲われていても不思議ではないのに、それが無い。

――グゥゥ、ハガァァ

 しばらくすればまだオーガの声が聞こえる。それも、今度は後方からも。どうやら囲まれているようだ。それにこの気配は……。

――ギャォオオォォォ！   

 大地を揺るがす程の咆哮と共に、陽の光を覆い隠すほどの巨体が宙を羽ばたく。漆黒の身体に真紅の目。アルトの身長ほどはあるだろう大きな角は、額から一直線に伸びている。

「なんで、黒龍が……」

 黒龍は本来、山に住まうような魔物ではない。魔族の地に近い場所で、人知れず生息しているような魔物だ。光を嫌い、年中闇に包まれるその地は、常闇の地。そう呼ばれ、人々から嫌煙されている。

 そんな場所にいる黒竜がこの山に現れること自体にもそうだが、黒龍をも操る術者の実力に、アルトは冷や汗をかいた。

――ギャォオオォォォ！

 黒龍の雄叫びを合図にするように、戦いは始まった。アルトをめがけて複数のオーガが拳を振るう。咄嗟に刀を抜きはなったアルトは、その全てを切り落とし、大きく飛び退き距離をとる。

 だが、ほんの一呼吸置くことも許されず、空中から周りのオーガの事を気にしない黒龍のブレスが放たれた。

「天よ、我が身を守れ――ヘブンズ・ウォール」

 光り輝く一枚の壁は、黒龍の闇に満ちたブレスを相殺するようにしてカッ消えた。だが、それと同時に煙で見えにくくなった影からオーガが数体、殴りかかってくる。

 くそっ、オーガの数が多すぎる。かと言ってそっちに気を回せば黒龍が上空からブレス。避ければすぐさまオーガ。
 この際、森への被害なんて考えている余裕は無い。山火事にならなければそれでいい程度の配慮で、魔法を打っ放すしかないか。

「世を渡りしものよ、心優しき流水よ、世に仇なす者に怒りをもちて、今宵世界を凍てつかせ――ニブルヘイム」

 魔法が発動されると、すぐに空気がピキピキと音を立てて凍りつく。発動者には害は無いが、それ以外の全ての水分が完全に凍てつく。無論、オーガは体内から完全に凍り、黒龍は動きを止めて地に落ちる。

 大きな衝撃音とともに砕け散った黒龍の破片は、周りにいるオーガのからだを粉砕して散りばめられた。

「流石に、Zランクの魔法を使うと少しばかり疲れるな」

 アルトは僅かに乱れた息を整えると、凍った地面を、音を立てながら歩き出す。

 なんの気配も感じられない空間。完全に気を緩めていたアルト。三本の短剣が、音を立てずに彼を目掛けて目にも止まらない速さで襲いかかる。

「!?」

 僅かに風を切る音がアルトの耳に入った時には既に遅く、身体をひねったが全て回避することは出来ず1本の短剣がアルトの肩に突き刺さった。