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領地運営と戦争準備⑪
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「我ら命の恩人ともあろう者のパーティに顔を出さぬとは末代までの恥であるからな。急ではあるが、我も参加することとした」
そういった陛下に、スーリヤがワインを盆に乗せて渡す。それを一口飲み、ゆっくりと会場の中心へと足を運ぶ。
その後を追うように、俺が陛下の後ろを歩く。
予め言伝しておいた為、聖歌隊が陛下の会場入に合わせて合唱を始める。
時折聞こえる大太鼓の深い音は、まるで貴族の心音かと錯覚してしまいそうだ。
小刻みに震える何人かの貴族に至っては、笑いをこらえるので精一杯である。
「さて諸君、今日の主役はこのアルトである。我に構わず楽しくやってくれたまえ」
便宜上はそう言ったものの、陛下を目の前にして楽しく酒を飲み飯を食らうことが出来るものなどそう居ない。
いたとすれば、日頃から陛下と懇意にしている数名の貴族だけであろう。
パーティも終盤に差し掛かり、いよいよお開きかと言う時間。
満月が登り、何人かはバルコニーに出て酒を飲む者もいる。
程よく酒に酔い気分も高揚している今を、俺はカジノについて話す絶好のタイミングだと踏んでいた。
「御来場の皆様方、少しよろしいでしょうか」
中心にたちそういう俺に、自ずと会場全ての視線が集中する。
「今夜より、この街にて''カジノ''という娯楽施設を開店致しました。詳細は、これからお配りする者をご覧下さい」
近くにあるベルを軽く鳴らせば、着飾った天使達が貴族一人一人に手渡しで紙を配る。
「運気があれば一晩で大儲け! この満月美しき今宵、どうでしょう。一つ、運試しをしてみては? 」
チラホラと聞こえる興味関心の声。そして、怪しげな物だと疑念のこもった声。
まあ当然ではあるが、俺はそのどちらも想定していた。
「お配りした紙の下部をご覧下さい。そちらは、カジノを無料で試しに遊ぶことが出来る券でございます。如何なるものかと不安を抱く方も、そうでない方も、一度足をお運びください」
無料という言葉に、それはもう関心が高まるのが手に取るように分かる。
お金も地位も権力もある貴族でさえ、無料という言葉には弱いようだ。それが、未知なる娯楽となればより一層であろう。
「さて、皆様も早くカジノへ参りたいでしょうし、そろそろこの会はお開きと致しましょう」
聖歌隊がエンドロールを飾るにふさわしい、落ち着いた曲を演奏する。
カジノに興味を持っていた貴族は、我先にと会場を後にする。
残ったのは、陛下だけであった。
「アルトよ、いつの間にあのようなものを」
「すぐですよ。陛下から領地を授かって以来、直ぐにこの計画を始めました」
「ふむ。となれば、このパーティーに合わたのだな」
「ええ。陛下もよろしければどうですか? 今なら無料でございますよ? 」
「いや、ワシは遠慮しておこう。今日は貴族共で溢れかえっているだろうからな。また、近いうちに立ち寄る」
「そうですか。では……スーリヤ」
はい。と、ほかの貴族を見送っていたスーリヤがこちらへと来る。
「陛下を王都までお送りして」
「おいアルト。何も王都まで見送ってもらわなくとも、ワシには騎士団がいるぞ? 」
「ですが、心配ですので」
もちろん、陛下の近衛騎士は近くにはおらず、この会話を聞いてはいない。
もし聞いていたら、馬鹿にしているのかと抜刀して首を跳ねられるかもしれないからな。
陛下は苦笑いをし、では帰ると会場を後にした。
翌朝、カジノからの売上の報告が入った所、どうやら大盛況であったらしく、ほとんどの貴族が金を浪費し、今晩のパーティの経費とカジノの建設費用の半分は一晩で回収出来たらしい。
上手くいったようで良かった。
今後当分は、スラムの人間が別の街からこの街へ来るのを待って、鉱山の活性化を第1の目標に、外部の開拓も進めて小麦の栽培も同時進行で進めていく予定だ。
この街は、向こう十年で王都に次ぐ大都市となるだろう。
そういった陛下に、スーリヤがワインを盆に乗せて渡す。それを一口飲み、ゆっくりと会場の中心へと足を運ぶ。
その後を追うように、俺が陛下の後ろを歩く。
予め言伝しておいた為、聖歌隊が陛下の会場入に合わせて合唱を始める。
時折聞こえる大太鼓の深い音は、まるで貴族の心音かと錯覚してしまいそうだ。
小刻みに震える何人かの貴族に至っては、笑いをこらえるので精一杯である。
「さて諸君、今日の主役はこのアルトである。我に構わず楽しくやってくれたまえ」
便宜上はそう言ったものの、陛下を目の前にして楽しく酒を飲み飯を食らうことが出来るものなどそう居ない。
いたとすれば、日頃から陛下と懇意にしている数名の貴族だけであろう。
パーティも終盤に差し掛かり、いよいよお開きかと言う時間。
満月が登り、何人かはバルコニーに出て酒を飲む者もいる。
程よく酒に酔い気分も高揚している今を、俺はカジノについて話す絶好のタイミングだと踏んでいた。
「御来場の皆様方、少しよろしいでしょうか」
中心にたちそういう俺に、自ずと会場全ての視線が集中する。
「今夜より、この街にて''カジノ''という娯楽施設を開店致しました。詳細は、これからお配りする者をご覧下さい」
近くにあるベルを軽く鳴らせば、着飾った天使達が貴族一人一人に手渡しで紙を配る。
「運気があれば一晩で大儲け! この満月美しき今宵、どうでしょう。一つ、運試しをしてみては? 」
チラホラと聞こえる興味関心の声。そして、怪しげな物だと疑念のこもった声。
まあ当然ではあるが、俺はそのどちらも想定していた。
「お配りした紙の下部をご覧下さい。そちらは、カジノを無料で試しに遊ぶことが出来る券でございます。如何なるものかと不安を抱く方も、そうでない方も、一度足をお運びください」
無料という言葉に、それはもう関心が高まるのが手に取るように分かる。
お金も地位も権力もある貴族でさえ、無料という言葉には弱いようだ。それが、未知なる娯楽となればより一層であろう。
「さて、皆様も早くカジノへ参りたいでしょうし、そろそろこの会はお開きと致しましょう」
聖歌隊がエンドロールを飾るにふさわしい、落ち着いた曲を演奏する。
カジノに興味を持っていた貴族は、我先にと会場を後にする。
残ったのは、陛下だけであった。
「アルトよ、いつの間にあのようなものを」
「すぐですよ。陛下から領地を授かって以来、直ぐにこの計画を始めました」
「ふむ。となれば、このパーティーに合わたのだな」
「ええ。陛下もよろしければどうですか? 今なら無料でございますよ? 」
「いや、ワシは遠慮しておこう。今日は貴族共で溢れかえっているだろうからな。また、近いうちに立ち寄る」
「そうですか。では……スーリヤ」
はい。と、ほかの貴族を見送っていたスーリヤがこちらへと来る。
「陛下を王都までお送りして」
「おいアルト。何も王都まで見送ってもらわなくとも、ワシには騎士団がいるぞ? 」
「ですが、心配ですので」
もちろん、陛下の近衛騎士は近くにはおらず、この会話を聞いてはいない。
もし聞いていたら、馬鹿にしているのかと抜刀して首を跳ねられるかもしれないからな。
陛下は苦笑いをし、では帰ると会場を後にした。
翌朝、カジノからの売上の報告が入った所、どうやら大盛況であったらしく、ほとんどの貴族が金を浪費し、今晩のパーティの経費とカジノの建設費用の半分は一晩で回収出来たらしい。
上手くいったようで良かった。
今後当分は、スラムの人間が別の街からこの街へ来るのを待って、鉱山の活性化を第1の目標に、外部の開拓も進めて小麦の栽培も同時進行で進めていく予定だ。
この街は、向こう十年で王都に次ぐ大都市となるだろう。
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