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国士騎士⑪
しおりを挟むまずは、この毒の無効化と言ったところか。
犯人の素性は、昨日時点で少し違和感を覚えたため昨日ネメスに洗わせた。
結論からいえば、子爵家の養子だ。
だが、その子爵は傀儡とも言える子爵。
大元である、チャン侯爵家の下請けのようなものであり、その領地の方針やその他含め、全てチャンが管理している。
そんな人間が、独断で王宮に間者を入れるわけがない。
貴族派閥のチャンが、指示を出したに違いない。
「毒の種類は、リアリカの花」
リアリカの花とは、一言で言えば猛毒を持つ花だ。
その毒を吸えば、30分ほどでなんの前触れもなく命を落とすという恐ろしいもの。
「ひぇー、おっかねえな。本気じゃねぇか」
俺じゃなきゃ死んでいたぞ。
「浄化の風、浄化の清水 」
2つの魔法が発動される。
ひとつは、その場を浄化する風魔法。主に、臭い場所や今回のような毒物の充満した場所を人が生きられる様にする魔法だ。
2つ目は、体内の浄化魔法。
毒物の浄化や、悪霊の類の浄化、解呪なんかにも使用される。
とりあえず、この毒素はどうにか出来た。
あとは、もうすぐやってくる犯人が異変に気づき、この部屋を開ける前に立ち去ってしまうことを防ぐために細工しておかなければならない。
恐らくだが、間者は透視スキルを保持しているだろう。それコミコミで、チャンはこの作戦を立てたに違いない。
陛下に反発する馬鹿なやからではあるが、侯爵の地位を持つもの。それくらいの策を立てていると考えるのが当然だろう。
「幻影」
俺は、魔法を発動する。
魔法名の通り、相手に幻覚を見せる魔法だ。
間者がこの扉を開けば、そこには倒れた俺と齧られたクッキー。そして、俺が発生させた全く無害な毒素の香りがするだろう。
相手は、何らこの解毒方法を保持しているだろうから、恐らく毒素を吸い込むことを苦とはしていないはず。
となれば、香りがなければ不自然だ。
とりあえず、舞台は整った。あとは、敵を待つのみだ。
――トッ、トッ、トッ……。
「きたか……」
既に、幻影は発動しているから今動き回っても問題ない。
あとは、捕獲するだけだ。
足音が、だんだんと近づいてきた。
扉が開くまで、あと6秒って所か。
扉に手をかけた。透視スキルを使っている。
5、4、3、2、1……。
――ガチャ
「眠り姫」
闇属性魔法である眠り姫を発動させ、俺は間者の意識を刈り取った。
睡眠魔法に対抗する手段は持ち合わせておらず、その場に倒れる彼女を、俺はそっと抱き抱えてソファーに寝かせた。
そして、魔法を発動させる。
「捕縛蔦」
植物属性魔法、捕縛蔦。
地面から現れた蔦は、彼女の足首と手首をしっかりと固定した。
◇◇◇
それからしばらくして、彼女は目を覚ました。
「んぅ……ここは……」
「起きたか、リアヌ子爵家養子の第三女ミッツェ・リアヌ」
「な、なんでそれを! 」
「お前の動きに隙が無かったからな、違和感を感じて昨日調べさせた」
そう、彼女はほかのメイドと違い、動きに隙が無かった。
多少、武の心得があるものであればおかしいことではないが、彼女は特別隙が無さすぎたのだ。
まるで、訓練された上位の騎士のように。
恐らく、腕の経つ暗殺者を手の内に置いておきたくて、孤児院から彼女を引き取り育てたのだろう。
「なら、私が暗殺者ってことも割れてんでしょ。殺しなさい」
「何故だ、命が惜しくないのか? 」
「どうせ戻ったら殺されるだけよ。なら、ここで痛みなく殺してくれる方がいいわ。あなた、高位の魔法士なんでしょ? 」
幻影魔法の質でバレているようだ。
彼女の対応能力と、把握能力は優秀だ。ここで殺してしまうには惜しい。
「お前は、死にたいのか? 」
「はぁ……? 」
「苦労して手に入れたその力をあっさりと手放し、1度のミスだけで人生の幕を閉じたいのかと聞いている」
「……ゎけない」
「なんだ? 」
「そんなわけない! 」
そういう彼女の目には、沢山の涙が浮かんでいた。
失敗すれば、いたぶられ殺されると分かっているのだろう。
扉を閉ざされ、光を失い、闇に追い込まれ。
もうダメだと、全てを諦めていた。
でも。
「そんなの……生きたいに決まってる。私だって、死にたくない……」
俺は、彼女を拘束していた蔦を消し、彼女を自由にする。
そして、椅子に座った彼女の目線の高さに合わせて言う。
「ならば、俺の元で働かないか? 」
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