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 その時まで、私は自分の身に起きていることをよく理解していなかったのかもしれない。

 違う。本当は泡のように湧き上がる違和感に気付かないふりをしていた。無意識に蓋をしていた。こんなにも感覚が鮮明な夢なんてあるだろうかという当然の疑問に。

「やっぱり、魔法にかかったのかな。今日はここまでにするつもりだったのに、全部ほしくて我慢できない」
 
 耳元で囁かれる掠れた声に、息が上がる。骨ばった大きな手に腿を抱えられて、膝に柔らかく唇を落とされると、心臓が破裂しそうなほど高鳴った。距離が縮まれば縮まるほど、取り巻く空気が濃密に感じられて。

「この場合、責任を取らないといけないのは未央だと思うんだけど、どう思う?」

 先輩が私の手元に視線を落とす。小指に書かれたおまじないの言葉は、汗で少し滲んでいた。子供みたいなことしてるって、くすぐったい気持ちになりながらペンを走らせた小さな文字。

「せきにん……?」
「そう。こんな風にさせたんだから、俺だけのものになってほしい。というより、そうなるべきだよね。みんなどうでもいいから、外面良くしていたのに」

 淡々と紡がれる言葉には、肌から浸透するような不思議な熱が宿っている。くちゅ、と奥に押し当てられた濡れた質量が何で、これから何が起きるのかおぼろげに感じ取っているのに、散々イッたそこは拒むどころか自分から求めるように綻んで、重なった部分に吸いついた。

「俺みたいなのに捕まったのは、可哀想だと思うよ。ちょっと優しくされたかっただけなのにね」

 でももう、離してあげられない。

 溶けて蠢く泥濘に、膨らんだ先端が潜り込んでくる。内側から押し広げられる感覚に本能的な恐怖を抱いたのは一瞬で、すぐに下腹部を貫く熱塊のことしか考えられなくなった。

「あ”っ……ぃ……ッ」

 痛い、という言葉は形にならなかった。ぴりぴりした痛みを中の性感が上回ったからというのもあるけど、それが何を意味しているのか、はっきり気付かされたから。
 これは都合のいい夢なんかじゃない。私は今、本当に先輩とセックスしている。滴るほど濡れた奥まで受け入れて、内腿を震わせながら、襞のひとつひとつで先輩を感じている。

「どうしたの? 夢から覚めたみたいな顔して」

 柔らかく目を細めた先輩が少しずつ、でも止まることなく腰を進める。今日まで意識すらしてこなかった粘膜をゆっくり擦られる感触にぶわ、と毛穴が開いた。ひくひく震える狭い内側が先輩の形に割り開かれて、自分でも知らないほど深いところまで満たされていく。

「ぁ……ああ、ぁ……っ♡」

 隔たりなく重なった粘膜から、張り詰めた質量の形が伝わってくる。私の中が、先輩でいっぱいになっている。みっちりと埋められる苦しささえも気持ち良くて、蕩けきった柔肉が甘えるようにきゅうっと締まった。

「未央のここ、すごいね。ついさっきまで処女だったのに、もう絡みついてくる」

 笑い混じりの言葉に頬が熱くなる。夢じゃないのに、現実なのに、恥ずかしい声もねだるように反応する身体も止められない。腿に肌が触れる気配がして、根元まで入ったのだとぼんやり認識すると同時に、中で熱が動いた。

「ぇ、あ……? ッああ、あっ♡♡」

 腰を軽く揺さぶられて、声が高く掠れる。確かめるような緩慢な動きは、けれど余計に蠢く質量を意識させて、背筋がぞくぞくした。
 張り出した先端に引っ掻かれた襞が、その段差すら味わうように凹凸に吸い付く。咀嚼しているみたいな動きを恥ずかしいと感じる気持ちはあっても、弱いところを繰り返し抉られるとどうしようもなかった。

「んんッ♡ ぁ、だめ、こんな……っ」
「駄目は禁止だって言ったの、忘れちゃった?」

 抑揚に乏しい声に胸が引き絞られたように痛んだけど、先輩はすぐに口元を和らげた。自然に絡められる指、正面から注がれる滲むような眼差しに胸がドキドキして、無意識に唇を震わせる。心の中で思い描いていた人物像とはすこし、かなり違ったけど、それでも私は先輩が好きだった。

 整った歯列を覗かせて、先輩が薄く笑う。繋いだ手を引き寄せると、小指の付け根に口付けた。そのまま、軽い痛みを感じる強さで歯を立てられて息が詰まる。

「冗談だよ、こっちも今さら止められないしね」

 だから、もう嫌も駄目も言えないよう身体の奥まで刻んであげる。子宮口まで可愛がって、自分が俺専用のまんこだって理解できるように。

 鼓膜を撫でるような優しい声音で言い募った時、先輩の瞳の奥に見たことのない鮮やかな熱が閃いた。


「こんな風に考えるなんて、俺は未央が好きでたまらないんだろうね」

 
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