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「あ――――ッ♡ だめ、っあ、ぁああッ!」

 自分でも狼狽えるほどの声がルクスの喉を破った。長い指を何度も埋め込まれ、内側から拡げられる悦びを知った柔肉を、張り詰めた熱塊が深く犯す。芯を持った粘膜がしとどに濡れた襞を擦りながら下腹を満たす鮮烈な感覚は一瞬自身の役目を忘れるほどで、堪らず身をよじると甘く鋭い衝撃が尾てい骨から駆け上った。

「あっ、んんっ♡ ぅあ、ああ……ぁ♡ は、ぁ……」

 肌身を震わせる絶頂が何度目のものか、もう数えることもできない。本来感じるはずの痛みや圧迫感を遥かに凌駕する快感は受け止めきれないほどで、薄らと涙の膜を張った視界に、ヴェルムの淡灰色の瞳が映った。ルクスを完全に征服した魔族は事ここに至っても柔らかな微笑みを絶やさず、慈しむような手つきで汗ばんだ髪を撫でる。

「貴方の肉体は素直で可愛らしいですね、わかりますか? 私を離すまいと絡みついている」
「っあ、そ、そんなこと……んんっ」
「己を偽る必要はありません、人間は快楽に弱い生き物ですし、貴方は服従の徴を刻まれている」

 むしろ求めて然るべきですと赦しの言葉を口にしながらも、覆いかぶさる痩躯は恐ろしく強靭な力でルクスを縫いとめ、逃げ場のない体勢でゆっくり身体を動かす。深く咥えこんだ質量がぬるりと引き抜かれ、柔らかい粘膜を抉るように打ちこまれると、擦られた内側から溶けていきそうだった。

「あッ、そこはだめです、やっ、ぁあ、ふあ……っ♡」
「ここを浅く擦られるのがお好きなようですね」
「っ、す、すき、なわけでは……っう、ぁ、ああ♡」

 押し広げられるたびに快感が膨らみ、弾けて、それが引ききらない内に新たな波が押し寄せる。ずっと達しているような感覚に内腿が痙攣し、目の前の相手に縋りそうになるのをやっとの思いで堪えた。

「ぁ、は――っ、ぁ、ああ、ッん♡」

 肉が肉を抉る。器用な指で追い詰められるとは異なる、敏感な部位を余さず掻き回される性感は苦しいほどで、なのにひくひくと震える粘膜は呑み込んだ肉杭を締めつける。媚びるようにきゅうきゅうと締まるたびに下腹の紋様が微かに明滅して、内側で起きている背徳を突きつけられているようだった。

「ルクス様、これからより深く私を注ぎますので、魔力が巡る感覚をよく覚えておいて下さい。そうすれば、必ずや我々を脅かすほどの力を得られるでしょう」
「あ……っ、んぅ、ぇ、あ、あああっ♡」

 物柔らかな言葉とともに前触れなく奥まった部位を突き上げられて、ルクスは背を弓なりに撓らせた。ぬかるむ肉の道を掻き分けて、ひと息に最深まで到達する雄の質量。これまで意識したことのなかった臓器の入り口に、膨らんだ粘膜がぴたりと重なる。そのまま腰を押し付けられると、じわりと綻んだ肉の環が先端を迎え入れようと口を開くのがわかった。

「あっあ、あぁぁ♡ こんな、こんなこと……ッ、あ♡」

 あまりにも浅ましい反応に、本当に己は心を蝕まれずにいられるのか、使命を全うできるのかという不安が湧き上がるが、自ら選びとった行為からは逃れられない。
 人々のため、聖女として、どんな苦難にも耐えなければ。木の葉のように揺れる心を叱咤してシーツを握りしめると、ひやりとした体温が手の甲に重なった。人ならざるものの手、骨ばった長い指が絡みついて、心臓が大きく鼓動を打つ。

「ご協力感謝します――この交わりが貴方の牙となって私に喰らいつく日を楽しみにしていますよ」

 たおやかな微笑みが近付いて、呼気を弾ませる唇を隙間なく覆う。それが契機だったように、強い力で腰を掴まれた。

「は、ぁあっ、ああっ♡」

 刻みこむような深い律動で突き上げられて、目の前に星が散る。過ぎた快感にしゃくりあげる最奥を宥めるように柔く押し上げ、かと思えば勢いをつけて粘膜を穿つ質量は、ルクスの肉体を完全に掌握しているようだった。

「だ、めっ♡ も……すこし、ゆっくり……っ」

 先端が潜りこむ勢いで狭い肉環を抉られて、より奥に息づく臓器が熱くうねる。魔力よりずっと罪深いものを求める動きにうなじが粟立ち、わけもわからず絡み合った指に力を込めると頭上のヴェルムが短く息を詰めた。温度を感じさせない灰色の瞳に金色の輝きが宿り、その黄昏にも似た色彩に目を奪われるのと同時に、最も狭まった場所で粘膜同士が擦れ合う。反射的にきつく食い締めた内側に、やがて蕩けるような熱を纏った奔流が吐き出された。

「は……っああっ♡ あっ、ふぁ、ぁ――――ッ」

 濃密な魔力を帯びた種が迸り、一滴も逃さずに最奥の臓器、子宮へと注ぎ込まれる。それに呼応するように皮下で巡る自身の力にさえ性感の細波が入り混じるのを感じながら、ルクスはぐったりと全身を弛緩させた。



 切れ切れに吐き出す呼気は熱く、四肢には甘い痺れが残っている。やがて全ての熱を吐き出した質量がゆっくりと引き抜かれ、その生々しい摩擦にさえ緩い絶頂を感じると、不意に視界が明るくなった。

「ぇ……あ…………」

 何が起きたのかすぐには理解できず、数秒経って、燭台の灯りが戻ったのだと思い至る。夢から覚めたような衝撃と強烈な羞恥に息を呑み、震える手でシーツを掻き集めるルクスを、すでに身支度を終えたヴェルムが見下ろしていた。衣服を整えていた記憶などないのに皺ひとつない清潔な法衣を身に纏って、もの柔らかな笑みを浮かべている。

「やはり貴方は私の見込んだ通りの方ですね。こうして魔力の循環を前にすると、血が昂るようです」

 ですが、喰らうにはまだ青い。低く囁いて、涙の跡の残る頬に触れる長い指。そのまま軽く顎を持ち上げられると微かに金色を残した淡灰の瞳と視線がかち合って、ルクスは咄嗟に目を伏せた。
 本能的な恐れと後ろめたさ、植え付けられた快楽の記憶が混ざり合って、毅然と振る舞うことができない。次にこの男と対峙する時のことを考えると不安で堪らないのに、溢れるほど注がれた最奥は未だ甘い熱を湛えていた。

 本当にこんなことをして良かったのか。これからどうなってしまうのか。初めて知った背徳は泥のように胸底で澱み、潔癖な価値観を脅かす。
 ――それでも、名前ばかりの無力な聖女だった自分が人々を助けられるのなら、前線で剣を振るう勇者を癒せるのなら、何があろうとも耐える他ない。例えどれほど未熟でも、信じてくれる人がいる限り折れるわけにはいかない。

 震えのおさまった手を握り、やっとの思いで視線を上げたルクスに、ヴェルムがいっそう笑みを深めた。こわばる輪郭を指先で撫であげて、導きのように囁く。その意気です、貴方ならきっとどんな困難も乗り越えられるでしょう。ですから。

「慈光の聖女、どうか私を退屈させないでくださいね」

 言葉とともに、滑らかな額に唇が触れた。
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