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「あの、あ、明かりを……」

 熱を伴わない指が、小さな釦を外していく。
 柔らかい絹地の長衣が流れるように暴かれていく様に、ルクスは声を上擦らせた。人々のためにと一度は覚悟を決めたものの、実際に触れられるとどうしようもなく身が竦んでしまう。
 
「ああ、これは失礼しました。我々は暗がりの方が視力が利くので、貴方にとっては良いかと思ったのですが」

 頭上のヴェルムが薄い笑みを浮かべると同時に、壁の燭台から炎が消える。瞬く間に訪れた深い暗闇に、今自身を組み敷いているのは人間ではないのだと痛感した。
 衣服が左右に広げられ、剥き出しになった肌に空気が触れる。忙しなく上下する胸元から下腹部にかけてを撫でられて、背すじがゾッとした。

「あっ……」

 喉元まで迫り上がった恐怖を懸命に押し殺す。虚勢も恐れも、ヴェルムには余さず見抜かれているのだろう。わかっていても、魔族に無様な姿を見せたくなかった。例え意味のない抵抗であっても、心まで明け渡すわけにはいかない。

「円滑に力を注げるよう、こちらに徴を刻んでおきましょうか」

 言葉とともに食い込んだ指の腹から、じわりと甘やかな痺れが広がった。温い蜜を注がれるような奇妙な感覚が肌の表面を幾重にも走り、慌てて視線を下げると、脂肪の薄い臍下が光を帯びている。その中心に、弓を左右対称に配置したような紋様が浮かび上がっていた。

「これは、な、なにを……」
「貴方が私に服従する呪紋、と言っても何かを強制するものではありませんのでご心配なく。継続的に魔力を扱うには私を深く受け入れていただく必要があるので、少し肉体を変質させただけです」

 例えば、と淡く発光する紋様を指がなぞった瞬間、ルクスはこれ以上ないほど目を見開いた。

「ぇ、あ……ッ、ああああぁっ!」

 乱れた声など上げたことのない唇から、高く無防備な声が洩れる。
 びりびりと広がる強烈な感覚が快感だと認識するには数秒の時間がかかった。皮下の魔力が熱を持って血管を循環し、鼓動に合わせて下腹部へと流れ込んでいく。それは暴力性すら感じるほど痛烈な、強制的に神経を乱される未知の感覚だった。

「こうすれば、貴方は注がれるものを求める肉の袋となる」
「ま、待ってください、こんなこと、しなくても……」
「自身と異なる力を留めるには、肉体の抵抗を抑えなければいけません。方法はいくつかありますが、快楽による支配が最も負担が少ないので」

 恐ろしい話をしているにも関わらず、穏やかな声は神について語る聖職者のようだった。紋様を離れた手が布地を押し退けて、薄く汗をかいた胸に触れる。大きな膨らみを下からすくい上げ、柔く沈み込む乾いた指先。それだけで性感が蕩け出して、ルクスの平素意識しない奥まった部位がきゅうっと締まった。

「ん、んっ」
「効いているようで何よりです。それにしても、本当に素晴らしい力をお持ちですね」

 感心したような口振りで囁いたヴェルムが、色の薄い乳頭へと指先を滑らせる。触られる前からぷっくりと立ち上がったそこを指先で軽く弾かれると、むず痒さとも痛みともつかない快感が背骨を駆け抜けた。

「あっ、や……触らないで……」
「ですが、貴方のここは求めている」

 不自然なほど長い親指と人差し指が乳首を挟み込み、柔らかい皮膚ですりすりと擦る。甘く微弱な痺れの生まれる表面を、薄く削るように引っ掻かれて息が詰まった。身体を清める時以外触ったことのない部位の浅ましい反応をいくら恥じても、肉体は勝手に昂っていく。

「ふ、ぁ……っん、ん、ぅ……あっ」

 鼻にかかったような声を抑えられない。ヴェルムの指に摘まれ、くすぐられる度に弾んだ吐息が洩れ、無意識に膝を擦り合わせてしまう。全身の神経が繋がっているように下腹部の奥が収縮し、ようやく気付いた。これは嵐が去るのを待つ苦難ではなく、心身の奥深くまで暴かれ、乱される恥辱の波なのだと。

「ルクス様、少々お声が」
「っ!!」

 慌てて両手で口元を覆ったルクスに、ヴェルムがくすくすと笑った。右手を脇腹へと滑らせながら、滑らかな声音で続ける。

「冗談です、この部屋で行われていることは誰も感知できませんよ」

 貴方が随分可愛らしい声を上げるので、ついからかってしまいました。揶揄するような物言いにカッと頬が熱くなったが、反論の言葉を探すより先に親指が下着のふちにかかる。そのまま軽く押し下げられて、心臓が跳ね上がった。

「っ、う……」

 飾り気のない布地が、するすると腰骨を通り過ぎていく。堪えきれずに顔を背けたルクスの紅潮した耳殻を、ヴェルムの唇が柔らかく食んだ。皮膚越しに伝わるひんやりした温度に、初めての口付けを思い出してますます身を硬くすると、不意に手の動きが止まる。

「お待たせしたようで申し訳ありません」
「な、何の話、を……」

 どこまでも恭しい声音に不安を煽られながら口を開いたルクスは、しかしすぐにヴェルムの意図するところに気付いた。布地に覆われた、より奥まった部位が、信じられないほど潤んでいる。下腹部に刻まれた紋様のせいか、執拗に胸を弄られたせいか。何にせよ、未だ触れられてもいないそこは期待するように蜜を溢れさせ、ぐっしょりと湿った布地が重たくまとわりついていた。

「ッ、……」

 あまりの羞恥に声が出ない。清らかに、私欲を排除して生きるよう育てられたルクスからすれば、ほとんど罪を犯しているような心地だった。咄嗟に足を閉じようとしたものの、尖った歯で耳朶を食まれる微細な痛みと性感に意識を向けた瞬間、最後に残された布地が腿へと滑り落ちていく。

「あ、っあ、あ……」

 暗闇の中、桃色に光る紋様がぼんやりと腹部を照らしていた。その下方で、ひくひくと震える秘められた入り口も。

「んっ……」

 冷えた指先に足の付け根をそっとなぞられて、ルクスは弱々しく息を吐いた。逃げられない、この背徳に沈む行為からも、どうしようもなく反応してしまう自分自身からも。やがて内側へと繋がる部位へとたどり着いた指が、くちゅりと濡れた音を立てながら重なった粘膜を開いた。
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