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三章

優しい鬼、鬼灯

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 白雪、すまないッ‼
親父がここまでするなんて思って無かった。
俺が白雪を連れて来なければッ‼
俺に親父より力があったらッ‼
畜生ッ‼
一週間、親父に噛まれ続けた、一日に三回の日もあった。
親父の毒は特殊で解毒もできねぇ。
兎に角、晴明に伝えなければ

白雪が生命の危機にある時、白夜と晴明は睨み合っていた。
白夜が晴明の屋敷を訪ねて来たからだ。
「叔父上、貴方には関係ないと言ったではありませぬか。」

「いやッ‼晴明の最後の言葉は効いた俺は…白雪を迎えに行く。」
晴明は目を細め、白夜を見る。

「迎えに行くなど、誰にでも出来るのです。迎えに行ってどうするつもりです?」
白夜は少し恥ずかしそうに話だした。

「迎えに行き、今までの非行を詫びる…そして、改めて白雪に…花嫁に迎えたいと伝える。」
ずっと白夜を睨んでいた、晴明はやっと頬を緩めた。

「その言葉が聞きたかったのですよ、叔父上。貴方はなかなか強情故、ここまで言わせるのに骨が折れましたよ。
まずは白雪を探し出さなければ…話はそれからです。」

「俺なりに百鬼を使い、調べたが分からぬ。」
白夜は申し訳なさそうに言った。

「叔父上でも駄目でしたか?私も手ががりは掴めなかった…もう一週間です、白雪が心配だ。白雪の部屋を調べましたが、微弱ながら我ら以外の妖気を感じました。恐らく、妖に連れて行かれたのでしょう。」
晴明は急に殺気立ち御簾を透かして外を見る。

「この晴明の屋敷に無断で立ち入る愚か者は誰だ…姿を見せろ‼」
晴明の声が響いた。
そこに現れたのは、晴明も白夜も予想外な人物だった。
白夜は立ち上がり威嚇する。

「鬼よ…何をしに来たッ‼」
白夜の声に鬼灯はビクッと反応するも動かない。
そんな鬼灯を晴明は探る様に観察していた。

「ここに住まうは妖狐…それを覚悟での浸入かッ‼」
更に白夜は唸る。
鬼灯は拳を痛い程握り、拳を震わせる。
その顔は苦虫でも噛んだ様な顔で、歯を食い縛り晴明を見ていた。

「ほぅ…叔父上、そこの鬼は私に話がある様です。私に言いたい事があるのでしょう?申して見なさい。」
晴明は鬼灯が口を開けるのを静かに待つ。
白夜も座り直し、話を聞く体勢をとった。

「俺は…鬼族の長、鬼灯と言う。俺は、妖狐と戦う気はない。白雪を…助けて欲しい‼」
鬼灯は頭を床につけ、頼む。

「白雪は鬼の処に居たのだな。お前は鬼の長、拐っておいて助けろとはどういう了見かな?」
晴明は冷たく返す。

「…白雪を連れて行ったのは…先代、神楽の命令だった。親父は白雪には手は出さないと言ったのに…俺達や白雪が先代の争いに巻き込まれるのは…御免だ。あんた達に何があったか知らねえが。俺の代では、他種族とは争わない。
このままだと、白雪が死ぬ…一刻を争うんだッ‼ 頼む…白雪を助け出してやってくれッ‼あんたら、天狐なんだろ?俺では親父に勝てない‼天狐のあんたらなら親父を殺れるだろッ‼」
鬼灯は必死に頼み込む。

「順を追って説明してもらおう…白雪が死ぬ…とはどういう事だ?」
白夜が静かに問う。

「白雪を連れて一週間…毎日、親父に吸血されている。これは一族の秘密事項だが、親父の牙には微弱だが毒があるんだ。一度、二度なら問題ないが、白雪は噛まれ過ぎた。もう危ない…」
鬼灯は項垂れた。
そんな鬼灯の胸倉を掴み白夜が怒鳴る。

「お前はッ‼それを分かっていて止めなかったのかぁッ‼」

「止めたさッ‼毎回ッ‼でも、親父に返り討ちにされてこの様だ…。」

「確かに恥ずかしい程、ボロボロだな。では、白雪を助ける為に己の父を殺しても良いと?」
晴明は今すぐ、白雪を助けたいのを抑え鬼灯に問う。

「あぁ、親父はダメだ…鬼には確かに冷酷さは必要かもしれない。でも、親父はやり過ぎだッ‼俺は鬼の長だ、一族の責は俺が償わなきゃならない。それが、親父の死だとしても…俺が長で有る限り、妖狐と戦う気はない。
俺は妖狐に恨みはないからな。」
真剣に晴明達に話す。

「優しい鬼か…優しいのもどうかと思うがね。」
晴明は笑う。

「親父の様になるなら、俺は優しい鬼でありたいと思う。」
鬼灯も頬を緩めた。

「話は分かりました。叔父上は百鬼を集めて下さい。鬼灯は鬼の里に戻り、貴方に賛同する者を集めて待機。白雪を頼む。明晩、鬼の里先代、神楽を討ちに参る。」

「分かった…。」
白夜は百鬼の元へ向かって行った。

「では、俺も里に戻る。」
鬼灯は一礼すると消えた。

「さて、私も準備をしなければ。あの術を使わずに済めばいいのだが…銀、聞いていたのだろう?お前はどうする?行くかい?」
答えは分かっているが、一応問う。


「当たり前でございますッ‼白雪様を絶対助けますッ‼」
何時も弱々しい印象を受けるが今の銀には強さが見える。
こうして、白雪救出と先代神楽討伐に向けそれぞれ準備に入るのだった。







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