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ウェールズ王国
サリスティン聖教とアルミディアス聖教
しおりを挟むここはウェールズ王国の南、サリスティン聖教の本部が置かれている所だ。
主神を崇めるアルミディアス聖教の本部は王都にあり、それもサリスティン聖教の者達は気に入らなかった。
「おい!!漆黒の鷹はまだなのか!!」
ダンっと机を叩くかなり肥満の中年男性、髪は…日本で言う所のザビエルだ。
サリスティン聖教は皆髪型はザビエルにそろえられ、儀式の時は髪のない真ん中に小さなお椀型の帽子を被る。
この男はサリスティン聖教の中堅だ、落とし人を連れ聖女にして昇格する事を狙っていた。
つまり、サクラ誘拐はこの男の独断だった。
「はい、サップ様。まだ連絡は来ておりません。」
ふんふんと鼻を鳴らし、怒りを表すサップはワイングラスを一気に煽った。
「連絡が来たら直ぐに私に報告するのだ!」
「は、はい。畏まりました。」
側仕えの男がビビりながら部屋を出ると、サップはワナワナと肩を震わせた。
「クソッ!!猊下が居ない今がチャンスだと言うのに!何をやっておるのだ!」
依頼成功率100%だと評判の漆黒の鷹に他の者を挟んで依頼したが、遅い!!
王都のパレードで落とし人が誘拐されたと言う知らせは聞いている。
ならば漆黒の鷹が落とし人を手に入れたと見て良いだろう。
落とし人に傷一つ付けずに引き渡せと命じた自分を悔やんだ。
「少し傷があろうと治癒すれば良い事、少しばかり慎重になりすぎた!」
その頃、サリスティン聖教のトップであるシャルル猊下の元にある文が届いていた。
「ふ~ん。」
馬車に揺られながら文を見てシャルルは笑った。
「猊下、アルミディアスからは何と?」
一緒に来ていたサリスティン聖教のNo.2のアルタが聞いた。
「アルミディアスから正式な抗議文書だ。我がサリスティン聖教が落とし人様を誘拐したとな…。」
「まさか!誰がそんな事を!!」
「ふん、昇格を狙った誰かであろう。此方からも文を、犯人を捕らえしだい王都に移送。落とし人様発見次第保護する。安全に落とし人様を王都に返還するのだ。」
「畏まりました。その様に本部に早馬を出します。」
シャルルは顬を押さえた。
落とし人降臨は知っている、サリスティン聖教としては喉から手が出る程欲しい存在だ。
しかし、落とし人様となると事は慎重に進めなければならない。
落とし人様が我等を拒否し、機嫌を損ねればサリスティン聖教本部に魔物が押し寄せる事になるだろう。
それでは元も子もないのだ。
「誰だ、余計な事をしてくれたものだ。」
またサリスティン聖教とアルミディアス聖教の溝が深くなってしまう。
シャルルは自分の代では幼子を聖女に立て食い物にしていると言われる噂を払拭し、正式にこの国の宗教として認めて貰おうと思っているまともな男だった。
アルミディアス聖教のトップは話せば分かる男だとシャルルは認識していた。
これは自ら王都に出向かなければならないかもしれないと溜息を吐いた。
シャルルは次の宿で直ぐに筆を取った。
勿論、アルミディアス聖教への返信だ。
「これで一先ず何とかなれば良いがな…。」
シャルルの呟きは部屋に消えた。
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