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第三章 希望
第二十二話 光を求めて
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夜が更け、詩織以外の子どもたちは疲れ果てて眠りに落ち、俺たちは小声で今後のことを話し合っていた。
「食料や水、毛布といった必要最低限の物資は確保できた。しかし、このままでは暗闇の中での行動が制限されな・・・」
そんな時ロビーの片隅で、大石は椅子に腰を下ろし、懐かしむように天井を見上げた。埃をかぶったシャンデリアは、その輝きをすっかり失っていた。
「昔は、毎晩このロビーにお客さんがいたんだよ。仕事帰りのサラリーマンや、旅行客、カップル……いろんな人がここでくつろいでいた」
彼の言葉に、詩織が興味深そうに耳を傾ける。
「ホテルって、いつごろ潰れちゃったんですか?」
「もう十年以上前かな。経営が苦しくてね。宿泊客が減って、競争も激しくなった。どうにか踏ん張ろうとしたけど、資金繰りがうまくいかなくてな。最後は、従業員たちの給料も払えなくなって、結局、閉めるしかなかった」
大石は苦笑しながら、遠い目をした。
「俺はこのホテルが好きだった。家族みたいなスタッフと一緒に働いて、客と話をするのが楽しかったんだ。だけど、時代の流れには逆らえなかったよ」
「それで、パンデミックが始まった時に、ここに戻ってきたんですね」
美奈子が問いかけると、大石は頷いた。
「そうだよ。もう俺には行くところがなかったからな。あの騒ぎが始まった時、みんながパニックになってた。俺も最初はニュースを見ながら『まさか』って思ってたけど、街が機能しなくなってくるにつれて、現実を受け入れるしかなくなった」
大石はゆっくりと立ち上がり、ロビーの隅にあるカウンターへ向かった。埃を払いながら、古びた帳簿をめくる。
「ここに来たのは、パンデミックが本格的になる少し前だった。最初は物資を集めるつもりで立ち寄ったんだ。でも、街が荒れてくるにつれて、どこにも行けなくなってしまってな。昔馴染みのこの場所に戻るしかなかったんだよ」
「……一人で?」
詩織がそう尋ねると、大石はわずかに表情を曇らせた。
「近所の人や、昔の従業員にも声をかけて来たんだけどね・・・・」
重い沈黙が流れる。
「このホテルには非常用電源があるんだ、地下にね、もともと、災害時に備えて設置してあったんだ。地下の貯蔵庫と一緒になってて、水や予備の食料もそこにあった、簡易的な宿泊もできるようにベットも設置されていてね」
「正直、上の荒廃したホテル部屋より、地下の貯蔵庫の方が綺麗にだったんだ、ホテルが潰れた後も、あそこはわかりづらい場所にあるし、扉が封鎖されていたからね」
大石はポケットからいくつかの鍵束を出し、寂しそうに見つめ呟いた
「このホテルのマスターキーだ、ホテルの記念品みたいなもんだよ、ずっと持っていたんだ」
「一緒に来た人たちは、そのまま地下の貯蔵庫に避難した、ただ俺はホテルの窓からみる景色が昔から好きでね、地下より危険なのは分かっていたけど、どうせ死ぬなら、好きな場所で死にたいなあ・・・なんてね」
大石は暗闇の窓をみつめ、語り続けた。
「同じ気持ちの元従業員二人と一緒に、地下の物資を一部、上の階に運び入れて、整理していたんだ・・・」
「ただその時に、どうやらホテルに侵入したゾンビが数体、物資を運ぶために扉を開けていた貯蔵庫に入ってしまって・・・・、それに気づいた元従業員が恐怖心にかられ扉を閉めたんだ・・・」
大石は拳を握りしめる。
「元従業員の話では、貯蔵庫に入ったゾンビは凄く素早くて、多くの人が既に犠牲になっていたらしい・・・・、それでダメだと思い扉を閉めたと・・・」
石田二尉と俺はお互いをみつめ、呟いた「変異種だな・・・」
大石は話し続ける。
「結局、一緒にいた元従業員二人はホテルも危険だと思い去ってしまったが、私は行く当ても思いつかなかったので、そのまま残ったんだ・・・」
大石は少し涙ぐんでいるようにもみえた、その時「地下にどれくらいいるんですか」と石田二尉が冷静に尋ねると、大石は眉をひそめた。
「……ゾンビが何体侵入したか私は見ていないので正確にはわかりません。地下にいた避難者は15人になります」
俺たちは顔を見合わせた。
「地下を制圧できれば、電源も確保できるし、貴重な物資も手に入る。やる価値はあるな」
「非常用電源は再起動できるか?」
俺は大石に尋ねた。
「燃料が切れただけだと思うから、貯蔵庫にある予備タンクから補充すれば使えるはずだ」
「でも、どうやって?」美奈子が不安そうに呟く。
「慎重にやるしかない」俺はゆっくりと銃を構えながら言った。
会話を終えた俺たちは、地下の非常用電源を確保するための準備を進めていた。
俺たちは装備を整え、武器の弾倉を確認する。石田二尉は持っていたカバンから手榴弾を取り出し、「使うかもしれないな」と呟いた。
地下へ向かうと、中からはよどんだ空気が流れ出し、奥は闇に沈み、何かが蠢く音が微かに響いていた。
「……行くぞ」
俺は銃を構え、慎重に一歩を踏み出した。
「食料や水、毛布といった必要最低限の物資は確保できた。しかし、このままでは暗闇の中での行動が制限されな・・・」
そんな時ロビーの片隅で、大石は椅子に腰を下ろし、懐かしむように天井を見上げた。埃をかぶったシャンデリアは、その輝きをすっかり失っていた。
「昔は、毎晩このロビーにお客さんがいたんだよ。仕事帰りのサラリーマンや、旅行客、カップル……いろんな人がここでくつろいでいた」
彼の言葉に、詩織が興味深そうに耳を傾ける。
「ホテルって、いつごろ潰れちゃったんですか?」
「もう十年以上前かな。経営が苦しくてね。宿泊客が減って、競争も激しくなった。どうにか踏ん張ろうとしたけど、資金繰りがうまくいかなくてな。最後は、従業員たちの給料も払えなくなって、結局、閉めるしかなかった」
大石は苦笑しながら、遠い目をした。
「俺はこのホテルが好きだった。家族みたいなスタッフと一緒に働いて、客と話をするのが楽しかったんだ。だけど、時代の流れには逆らえなかったよ」
「それで、パンデミックが始まった時に、ここに戻ってきたんですね」
美奈子が問いかけると、大石は頷いた。
「そうだよ。もう俺には行くところがなかったからな。あの騒ぎが始まった時、みんながパニックになってた。俺も最初はニュースを見ながら『まさか』って思ってたけど、街が機能しなくなってくるにつれて、現実を受け入れるしかなくなった」
大石はゆっくりと立ち上がり、ロビーの隅にあるカウンターへ向かった。埃を払いながら、古びた帳簿をめくる。
「ここに来たのは、パンデミックが本格的になる少し前だった。最初は物資を集めるつもりで立ち寄ったんだ。でも、街が荒れてくるにつれて、どこにも行けなくなってしまってな。昔馴染みのこの場所に戻るしかなかったんだよ」
「……一人で?」
詩織がそう尋ねると、大石はわずかに表情を曇らせた。
「近所の人や、昔の従業員にも声をかけて来たんだけどね・・・・」
重い沈黙が流れる。
「このホテルには非常用電源があるんだ、地下にね、もともと、災害時に備えて設置してあったんだ。地下の貯蔵庫と一緒になってて、水や予備の食料もそこにあった、簡易的な宿泊もできるようにベットも設置されていてね」
「正直、上の荒廃したホテル部屋より、地下の貯蔵庫の方が綺麗にだったんだ、ホテルが潰れた後も、あそこはわかりづらい場所にあるし、扉が封鎖されていたからね」
大石はポケットからいくつかの鍵束を出し、寂しそうに見つめ呟いた
「このホテルのマスターキーだ、ホテルの記念品みたいなもんだよ、ずっと持っていたんだ」
「一緒に来た人たちは、そのまま地下の貯蔵庫に避難した、ただ俺はホテルの窓からみる景色が昔から好きでね、地下より危険なのは分かっていたけど、どうせ死ぬなら、好きな場所で死にたいなあ・・・なんてね」
大石は暗闇の窓をみつめ、語り続けた。
「同じ気持ちの元従業員二人と一緒に、地下の物資を一部、上の階に運び入れて、整理していたんだ・・・」
「ただその時に、どうやらホテルに侵入したゾンビが数体、物資を運ぶために扉を開けていた貯蔵庫に入ってしまって・・・・、それに気づいた元従業員が恐怖心にかられ扉を閉めたんだ・・・」
大石は拳を握りしめる。
「元従業員の話では、貯蔵庫に入ったゾンビは凄く素早くて、多くの人が既に犠牲になっていたらしい・・・・、それでダメだと思い扉を閉めたと・・・」
石田二尉と俺はお互いをみつめ、呟いた「変異種だな・・・」
大石は話し続ける。
「結局、一緒にいた元従業員二人はホテルも危険だと思い去ってしまったが、私は行く当ても思いつかなかったので、そのまま残ったんだ・・・」
大石は少し涙ぐんでいるようにもみえた、その時「地下にどれくらいいるんですか」と石田二尉が冷静に尋ねると、大石は眉をひそめた。
「……ゾンビが何体侵入したか私は見ていないので正確にはわかりません。地下にいた避難者は15人になります」
俺たちは顔を見合わせた。
「地下を制圧できれば、電源も確保できるし、貴重な物資も手に入る。やる価値はあるな」
「非常用電源は再起動できるか?」
俺は大石に尋ねた。
「燃料が切れただけだと思うから、貯蔵庫にある予備タンクから補充すれば使えるはずだ」
「でも、どうやって?」美奈子が不安そうに呟く。
「慎重にやるしかない」俺はゆっくりと銃を構えながら言った。
会話を終えた俺たちは、地下の非常用電源を確保するための準備を進めていた。
俺たちは装備を整え、武器の弾倉を確認する。石田二尉は持っていたカバンから手榴弾を取り出し、「使うかもしれないな」と呟いた。
地下へ向かうと、中からはよどんだ空気が流れ出し、奥は闇に沈み、何かが蠢く音が微かに響いていた。
「……行くぞ」
俺は銃を構え、慎重に一歩を踏み出した。
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