[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33

文字の大きさ
上 下
234 / 328
音楽の都市 メロディムジカ編

234 神様の指示

しおりを挟む
 「では、詳しい取り決めはまた後程、という事で」

 結局マリーは皇帝イブラヒームにずっと権力を握っていて欲しい、と言って仲間に引き入れていた。
 アヤスラニ帝国の実権も、マリーが信頼出来る人間に受け継いで欲しいのだと。
 まあ、あのオスマン皇太子が皇帝になり好き勝手するよりは、皇帝イブラヒームを取り込む方がこちらとしても安心ではある。
 それにしても皇子殺しの因習を廃止するとの言質を引き出したのには驚いた。昔から続く決まりを破るのにはかなり困難を伴うだろう。皇帝なりに色々と思うところもあったのかも知れないけれど。
 マリーの意を汲んだ皇帝イブラヒームは、マリーの言う実権や銀行の株は死後、子供達の内で賢く信頼出来る者達やイドゥリースに託すつもりだと言っていた。

 満足そうに喫茶室を出て行く皇帝達。イドゥリース、メリー様、スレイマンも一緒だ。ラトゥ様、ティヴィーナ様、キャロライン様達はサイモン様の目配せを受けて、イサーク様とヴェスカルを促して席を立つ。ぞろぞろと連れ立って行くのを見送っていると、ふとキャロライン嬢と目が合った。
 その唇が『後で』と紡がれる。何か話があるのだろう、僕は軽く会釈を返した。

 喫茶室の扉が閉じられると、残った全員の視線が項垂れているカーフィに注がれる。
 マリーがつ……と歩を進めた。ヨハンとシュテファンが動いてカーフィの両脇を固め警戒する。
 足を止めたマリーは「それで?」と温度の無い声を出す。

 「そんなに知りたいのかしら、が。

 この男――よりにもよってアーダム皇子の手先と成り下がったのか!

 怒りに奥歯を噛み締めていると、サイモン様が「あの小娘の為に我らと敵対するつもりではあるまいな?」と詰問している。
 僕はマリーの隣に歩を進めた。そっと拳銃を忍ばせた胸元に触れる。
 カーフィが何故あんな女に執着するのかは理解出来ないが、マリーに害を及ぼすようなら容赦はしない。

 緊張の一瞬――

 「め、滅相もございませぬ!」

 カーフィは崩れ落ちるように床に額づいた。

 「聖女様、どうかお願いでございます! あんな女でも私にとって大事な妻なのです、フレールを、何卒、何卒お助け下さい!」

 恐怖を堪えているような声での嘆願に、喫茶室が静まり返った。
 一拍の後、マリーは「……気持ちは分からないでもないわ」と息を吐く。
 コスタポリで念書を書かせた時の事を思い出す。そもそもあそこが運命の分かれ道だったんだ。フレールは自分で今の状況を選んだ。マリーの言う通り本人が助けを拒否している以上助けるのは難しいし、マリーを殺そうとした女を助ける義理は無い。
 サイモン様も同じように思われたらしく、マリーに頼むのであれば相応の覚悟あってのことだろうなと凄んでいた。
 しかしカーフィは引かず、リプトン伯爵位や財産を投げ打ってでもフレールを取り戻したいのだと言う。

 カーフィのフレールに対する執着と愛情を褒めるべきなのだろうか。僕は呆れて溜息を吐いた。
 サイモン様が、下手に動いて事が露見すればトラス王国が神聖アレマニア帝国内の争いに巻き込まれかねないと懸念を示す。
 僕もそれには同意だ。その危険を冒す程の価値があの女にあるとは思えない。

 「だな」

 「うむ」

 トーマス様とカレル様も頷いている。
 カーフィは死を宣告された罪人のような顔つきになった。

 しかしそんな僕達とは裏腹に、トラス王国と領地を接しているのは寛容派貴族達が多いという理由で懸念は大丈夫だというのがマリーの意見。
 じっとカーフィを見て腕を組んで考え込んでいたマリーは、暫くして「仕方ありませんわね」と大きく溜息を吐いた。

 「カーフィ―伯爵。私を一度裏切ろうとした貴方ですが……そこまでの覚悟なら、特別に助けて差し上げましょう」

 「ま、誠にございますか!?」

 目の前に吊り下げられた希望に、生気が戻って来たカーフィ―。
 フレールの事をそこまで想う心意気に感動したのだとマリーは言うけど、正直甘すぎる。

 難色を示すと、マリーは軽く肩を竦めた。

 『ここで見捨てて自棄になられる方が面倒な事になりそうだって思わない? フレールは不寛容派共に魔女――偽聖女を糾弾する為の証言者として利用されている。それを考えればカーフィ―に手助けして片付けて置いた方が利があるの』

 脳裏に響いた彼女の声。癪だけど、確かにそうだ。
 証言者不在になれば、不寛容派達の主張の信憑性は一気に落ちるだろう。

 その後、神聖アレマニア帝国に再び向かうカーフィにアルトガル傘下の雪山の傭兵を付ける事になった。
 表向きは教皇僭称事件による治安不安から。だけど実際はカーフィの監視だ。
 アーダム皇子が探らせようとした、マリーの聖女の能力についての報告内容も決められた。
 もし違えば傭兵達が仕事をするまでだ。

 その事を察した筈なのに、カーフィは何故か怯える事無くスッキリしたような顔でマリーに感謝して出て行った。
 自分の命を捨てる覚悟を決めたのだろう。
 女の趣味は非情に悪いと思うけど、その示した覚悟だけは認めてやってもいいかも知れない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

処理中です...