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ラブフィリア
しおりを挟む「大丈夫?」
酒場で酔った男たちに囲まれ、半泣きになっていた娘に、黒髪の若者が近づいて声をかけた。
その夜、港に近い酒場には、たくさんの船乗りや旅人が訪れていた。娘はここの店員だが、些細な粗相をしてしまい、客の男たちに絡まれてしまった。
「あ? 何だ、てめえは」
奥のテーブル席を陣取る四人の男。その内の一人が、若者をにらみつける。
「彼女、さっきから何度も謝ってるじゃないか。いい加減、離してやれよ」
対する若者も、いかつい男たちに動じることなく、毅然と言い返す。若者といっても、彼はまだ十代後半で、胴鎧と長剣を身につけているが、顔には純朴さと幼さが漂っていた。
「ぼうず、騎士気取りか知らねえが、痛い目に遭いたくなけりゃ引っ込んでな」
娘の手首を掴んだ別の男が若者をからかうと、仲間たちもつられて笑う。
他の客もトラブルに気づいてはいたが、厄介事に巻き込まれるのを恐れたり、そもそも関心がなかったりで、多くが見て見ぬふりをしていた。
「騎士気取りじゃない。おれは騎士だ!」
若者は黒い露のような瞳に炎をたぎらせると、一気に間合いを詰め、娘を捕らえる男の手に剣の柄を振り下ろした。
「ぐわっ……!」
その衝撃と痛みに耐えきれず、男が娘を離す。
「やりやがったな、このガキ!」
仲間を攻撃された男たちも、一斉にいきり立って若者に飛びかかる。頭に血が上った彼らは、逃げようとする娘まで邪魔だと乱暴に突き飛ばした。
「きゃあっ――!」
娘が床に叩きつけられる直前、
「大丈夫ですか」
落ち着いた低音の声がして、ふわりと体を抱きとめられていた。
一体何が起きたのか。目をぱちくりさせる娘の前に、金髪の美しい青年の顔があった。
「怖かったでしょう。怪我はありませんか?」
彫像を思わせる整った顔に、宝石のごとき緑色の瞳。彼は若者より少し年上で、白地に青刺繍の法衣を着た僧侶だったが、優雅さと憂いをたたえた表情は、まるでおとぎ話の貴公子そのものだ。
「は、はい……でも、私を助けてくれたあの方が……」
娘は一瞬、乱闘の騒音も怒号も忘れて青年に見とれたが、かろうじて、荒くれ者たちと戦う若者の存在を思い出した。
「ああ、アレンのことなら、心配はいりません」
青年は娘をゆっくりと立たせ、穏やかに微笑んで答える。
「彼は修行中ですが、いちおう騎士ですし、ぼくの連れなので」
「『いちおう』は余計だ、リシャール!」
すまし顔で述べる青年に、若者――アレンが憤慨して口を挟んだ時、彼の足元には、男たちがすでにぐったりとのびていた。
その後。
宿屋の薄暗い寝台で重なる、二つの裸体。
「きみを傷つけるなんて、やっぱり、あの男たちはぼくが始末しておけばよかったよ」
リシャールは苦々しく言うと、アレンのあらわになった腕や肩に口づけを落とした。
「あっ……」
鎧を脱がされ、騎士にしては細い体のあちこちを撫でられ、アレンは切なげな吐息をもらす。
「こんなの、ケガのうちに入るかよ。それに、お前は容赦なさすぎだろ……んんっ!」
白い肌を桃色に染めて強がるアレンだったが、左腕にできた青痣に吸いつかれながら、両胸の突起を指で弄られ、思わず喘いだ。
(いけない。これは、あくまで治療なんだ……)
リシャールの指や唇がふれるたび、アレンの体だけでなく心も熱くなる。心地よさに流されて、これが『治療』であることを忘れてしまいそうだった。
騎士であるアレンにとって、戦いは日常茶飯事だ。そのため、さまざまなケガを負うことも多い。そんな彼の傷を、優秀な僧侶であるリシャールが、出会って以来いつも治しているのだ――性行為という方法で。
「背中にも、傷があるね」
リシャールはアレンに後ろを向かせ、膝上に乗せると、内出血した箇所をそっと舐める。さらにアレンの股間に手を伸ばして、すっかり硬くなったものを握った。
「リシャール、そこは汚いから――!」
入浴もしていないのに、そんな所を触らせるわけにはいかない。アレンは悲鳴に近い声で、首を左右に振った。
「きみの体だよ、汚くなんかないさ。それより、傷をちゃんと治さなきゃ」
「んうっ……」
リシャールの舌が、背中から首筋、耳たぶまでなぞっていく。快感が高まるにつれ、アレンの体の青痣が、少しずつ薄まってきていた。
「さあ、もっと啼いて、アレン」
リシャールが耳元で囁いて、張りつめたアレンのものを、巧みに擦り上げる。同時に、お尻の奥へも、先走りで濡れた指を差し入れられた。
「ふああっ!」
ふだんは決して誰にも見せることのない恥部を、前後から愛撫され、アレンの体と声が狂おしく跳ねた。
「リシャール、だから、これ以上はダメって……!」
羞恥と快楽の狭間で翻弄され、涙目で訴えるアレン。
「ダメじゃない。ぼくを信じて、心を開いて、アレン」
リシャールは真摯な瞳で語りかけ、アレンの口をキスで塞ぐ。
「んむぅっ……」
互いの唇の柔らかな感触。ほどなく口内へ侵入してくるリシャールの舌を、アレンは瞳を閉じて受け入れていた。
やがて、アレンの秘奥をほぐしていたリシャールの長い指が引き抜かれる。代わって、すでに勃ち上がり、待機していたリシャールのもので貫かれた。
「ん~~~っ!!」
下からの力とアレンの自重で、リシャールのものが深々と入っていく。
(リシャールの、熱いっ……)
唇を吸われながら、太くて硬い塊で突き上げられ、アレンはもはや何も考えられず、全身でリシャールを感じていた。
「アレン……!」
『治療』を施すリシャールも、息を荒くし、激しく腰を動かす。二人を乗せた寝台が、そのたびにギシギシと音を立てた。
「あっ、あっ、あっ……!」
抜き差しを繰り返す肉棒と、股間をとらえる指。そして、リシャールの片手が再びアレンの胸の先をつまみ、汗の玉が浮かんだうなじに歯を立て、甘噛みする。
「リシャール……おれ、もうっ……!」
快感が縦横無尽にほとばしり、蕩けそうな意識の中で、アレンが朦朧と口走った。
「ああ、ぼくも――」
無意識に腰を振るアレンに、リシャールも一瞬、息を止める。そして、後ろからぎゅっとアレンを抱きしめ、彼の中へ精を吐き出した。
「あああ……っ!」
アレンの内側に広がっていく、あたたかなリシャールの精。アレンは光に包まれたように目の前が真っ白になって、自らも精を放っていた。
「きれいに、治ったね……」
絶頂を迎えてぐったりしたアレンを胸に抱いたまま、リシャールが優しく笑いかける。
その言葉どおり、アレンの傷はいずれも癒えて、すっかり消え去っていた。
「うん……」
慈しみに満ちたリシャールのまなざしに、アレンは頷きながら、胸の奥がきゅっと掴まれるような気がした。
(そんなふうにおれを見るのは、お前が僧侶で、おれが治すべき患者だから、なんだよな)
どうしても聞けない問いを飲みこんだアレンは、やがて疲労で瞼が重くなってきた。
「アレン、眠ったの?」
リシャールに身を預けた格好で寝息を立て始めるアレン。
「きみは、考えてもみないようだけど……」
あどけなさの残る寝顔を見つめて、リシャールがぽつりと呟いた。
「ぼくはきみに出会って、救われた。命もだけど、心もね。きみがきみのまま、ここにいてくれるだけで、ぼくは嬉しい。だから――」
腕の中のアレンの黒髪を、愛しげにすいて、
「ぼくがこういうことをするのは……したいと思うのは、きみだけなんだ、アレン」
そう言うと、リシャールはアレンの額に、静かに口づけた。彼の胸に身を寄せて、すやすやと眠るアレンの表情は、どこか安心したようでもあった。
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