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第七章 最後の追放
第二十五話
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夜姫が追い出された日の夜、昼間のことなどまるでなかったことかのように、いつも通りに宴が開催された。
陛下は私を自分の隣に置きながら、数人の下級妃を呼び出して自分の周りに侍らせ、それはそれは楽しそうにガハハッと笑って、浴びるように酒を飲んでいる。
陛下に呼び出された下級妃たちはキャイキャイと甲高い声で騒ぎ、大げさなほどの笑顔を顔に貼り付けながら陛下にお酌をして、ここぞとばかりに話しかけては身体を撫で回している。
従者に少し探らせたところ、上級妃が減り続けている今の状況は『陛下が上級妃たちを追い出し、新しいお気に入りを選んでいる最中』と下級妃の中で噂になっているらしい。
だからか呼び出されなかった下級妃も、自分を売り込まねばと躍起になっているのか、自ら特技があると言っては舞台で歌・舞・楽器などを披露する者もいた。
私はそんな彼女たちを頑張っているわねーとぼんやり眺めながら、在りし日の上級妃のことを思い出していた。
陛下の周りに侍っている下級妃たちには、美姫ほどの美しさや可憐さも、夜姫ほどの色気や吸い込まれるほどの身体も持ち合わせていないように見える。
舞台に上がっている彼女たちの腕前も、歌姫・舞姫の歌や舞には遠く及ばず、楽器の技術も素人に毛が生えた程度で……私以下だ。
こうして下級妃たちを見ると、改めて彼女たちの技術の高さ・持ち前の魅力を実感する。
そんな下級妃たちが上級妃になったとしても、賢姫ほどの努力をすることもないだろうと思うと、彼女の努力家な部分も、他の者にはない魅力であったのかもしれないと思えて少しだけ笑えた。
けれどそんな下級妃と上級妃の違いにも気付かず、陛下は満足そうに舞台上の彼女たちにあの頃と変わらない拍手を贈っては、下級妃に勧められるままに酒をあおっている。
私はそんな陛下を、袖で口元を隠しながら冷めた目で見ていた。
……陛下の為に、美姫の時に用意していた南国由来の酒を今宵も用意していたが……この様子なら、それは不要そうね。
私は飲んでいるかとたまに声をかけてくる陛下に、えぇ……と微笑みを返しながら宴が終わるのを静かに待った。
――宴が終わって自分の宮に帰ってくると、少しだけ気が抜けているのか自然と息が漏れた。
今夜は陛下が下級妃の方へ通う可能性も考えていたが……夜姫の件で追加余興を用意しておいたおかげか、ごきげんな様子の陛下は、当たり前のように私の宮へやってきた。
そしていつものように興奮した様子の陛下が寝台に押し倒して来たので、私は静かに従者を下げさせてから、その時間を静かに耐える。
「夜姫の無様さがあまりにも愉快で、飲みすぎてしまったわ。あー……水を寄越せ」
事が終わって寝台で大きく手足を広げながら転がっている陛下は、さすがに酒を飲みすぎていたのか、少しだけ頭をおさえながら水を持ってくるように指示してきた。
私ははいと返事をして、脱がされた衣服を軽く羽織ってから、寝所に置いてある机に用意しておいた湯呑に水を注ぎ、陛下へと手渡す。
ゴクゴクと水を飲み干した陛下は、はー……と満足そうに声を漏らしたかと思うと、ニヤリと笑う。
「これでほとんどの上級妃が去った。残るは一人だな」
残る上級妃は一人。
後宮に来た初日に陛下が言っていたな……外国から妃に迎えたゆえにまだ言葉が不慣れで、宴に参加しない上級妃がいると。
そのため、私は最後の上級妃に未だ会ったことがない。
ただまだ生家にいた頃、父から彼女についての話は聞いていた。
最後の妃は煌国が侵略した国の姫で、陛下の提案で敗戦国の証・献上品として半ば強制的に輿入れさせられこの国に来たらしい。
しかし陛下は自分で要求しておきながら、まずはこの国の言葉を覚えろと指示したきりで彼女のもとに通ったことは一度もなく、彼女自身も自分の宮から出てきたことは一度もないらしい。
「アレもやっと、余を楽しませる時が来たのだな」
陛下はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、どこか感慨深そうにそう言っている。
「今までのように花の散り際を眺めるのも愉快であったが、見るだけもそろそろ飽きた。アレは余自ら手を下したい。計画はそちが考えろ。惨たらしく惨めに、されど美しく散らしたい」
玩具を手に入れた子供のように瞳を輝かせている陛下は、興奮を抑えきれない様子でまくし立ててくる。
私はそんな陛下に……口元を袖で隠しながら、にっこりと微笑みを返す。
それを了承だと受け取ったのか、陛下は満足そうにガハハッと笑っていた。
陛下は私を自分の隣に置きながら、数人の下級妃を呼び出して自分の周りに侍らせ、それはそれは楽しそうにガハハッと笑って、浴びるように酒を飲んでいる。
陛下に呼び出された下級妃たちはキャイキャイと甲高い声で騒ぎ、大げさなほどの笑顔を顔に貼り付けながら陛下にお酌をして、ここぞとばかりに話しかけては身体を撫で回している。
従者に少し探らせたところ、上級妃が減り続けている今の状況は『陛下が上級妃たちを追い出し、新しいお気に入りを選んでいる最中』と下級妃の中で噂になっているらしい。
だからか呼び出されなかった下級妃も、自分を売り込まねばと躍起になっているのか、自ら特技があると言っては舞台で歌・舞・楽器などを披露する者もいた。
私はそんな彼女たちを頑張っているわねーとぼんやり眺めながら、在りし日の上級妃のことを思い出していた。
陛下の周りに侍っている下級妃たちには、美姫ほどの美しさや可憐さも、夜姫ほどの色気や吸い込まれるほどの身体も持ち合わせていないように見える。
舞台に上がっている彼女たちの腕前も、歌姫・舞姫の歌や舞には遠く及ばず、楽器の技術も素人に毛が生えた程度で……私以下だ。
こうして下級妃たちを見ると、改めて彼女たちの技術の高さ・持ち前の魅力を実感する。
そんな下級妃たちが上級妃になったとしても、賢姫ほどの努力をすることもないだろうと思うと、彼女の努力家な部分も、他の者にはない魅力であったのかもしれないと思えて少しだけ笑えた。
けれどそんな下級妃と上級妃の違いにも気付かず、陛下は満足そうに舞台上の彼女たちにあの頃と変わらない拍手を贈っては、下級妃に勧められるままに酒をあおっている。
私はそんな陛下を、袖で口元を隠しながら冷めた目で見ていた。
……陛下の為に、美姫の時に用意していた南国由来の酒を今宵も用意していたが……この様子なら、それは不要そうね。
私は飲んでいるかとたまに声をかけてくる陛下に、えぇ……と微笑みを返しながら宴が終わるのを静かに待った。
――宴が終わって自分の宮に帰ってくると、少しだけ気が抜けているのか自然と息が漏れた。
今夜は陛下が下級妃の方へ通う可能性も考えていたが……夜姫の件で追加余興を用意しておいたおかげか、ごきげんな様子の陛下は、当たり前のように私の宮へやってきた。
そしていつものように興奮した様子の陛下が寝台に押し倒して来たので、私は静かに従者を下げさせてから、その時間を静かに耐える。
「夜姫の無様さがあまりにも愉快で、飲みすぎてしまったわ。あー……水を寄越せ」
事が終わって寝台で大きく手足を広げながら転がっている陛下は、さすがに酒を飲みすぎていたのか、少しだけ頭をおさえながら水を持ってくるように指示してきた。
私ははいと返事をして、脱がされた衣服を軽く羽織ってから、寝所に置いてある机に用意しておいた湯呑に水を注ぎ、陛下へと手渡す。
ゴクゴクと水を飲み干した陛下は、はー……と満足そうに声を漏らしたかと思うと、ニヤリと笑う。
「これでほとんどの上級妃が去った。残るは一人だな」
残る上級妃は一人。
後宮に来た初日に陛下が言っていたな……外国から妃に迎えたゆえにまだ言葉が不慣れで、宴に参加しない上級妃がいると。
そのため、私は最後の上級妃に未だ会ったことがない。
ただまだ生家にいた頃、父から彼女についての話は聞いていた。
最後の妃は煌国が侵略した国の姫で、陛下の提案で敗戦国の証・献上品として半ば強制的に輿入れさせられこの国に来たらしい。
しかし陛下は自分で要求しておきながら、まずはこの国の言葉を覚えろと指示したきりで彼女のもとに通ったことは一度もなく、彼女自身も自分の宮から出てきたことは一度もないらしい。
「アレもやっと、余を楽しませる時が来たのだな」
陛下はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、どこか感慨深そうにそう言っている。
「今までのように花の散り際を眺めるのも愉快であったが、見るだけもそろそろ飽きた。アレは余自ら手を下したい。計画はそちが考えろ。惨たらしく惨めに、されど美しく散らしたい」
玩具を手に入れた子供のように瞳を輝かせている陛下は、興奮を抑えきれない様子でまくし立ててくる。
私はそんな陛下に……口元を袖で隠しながら、にっこりと微笑みを返す。
それを了承だと受け取ったのか、陛下は満足そうにガハハッと笑っていた。
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