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第五章 美姫の追放
第十七話
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賢姫が後宮を去ってから数日後。
私は父からの手紙を読みながら、次なる作戦について考えていた。
賢姫の時は、私が何もせずとも勝手に自滅してくれて楽だったし、無様な姿が見られて実に笑えたのだけれど……陛下のあの不満げな様子を思うと、次も同じような追い出し方をするわけにはいかないわね。
これ以上陛下の気分を害すると、お前はもう不要だと、私が後宮から追い出されかねない。
この仕事が終わった後、後宮を手に入れるためにはそれは絶対に避けなければならない。
何より私の琵琶を破壊しようとし、私を嘲笑った上級妃たちにはぜひとも惨めに、全てを失って後宮を去っていただくまで納得がいかないので、必ず面白い計画を練らなくてね。
私は面白い計画のため、父に頼んでおいた美姫について情報が書かれた手紙に改めて目を通す。
手紙には美姫の出生・性格・後宮に来た経緯についてなどが、事細かに書かれていた。
美姫は上級妃の中で最も美しく、そして生まれも高貴な女性だ。
その愛らしさ・美しさは幼い頃から十分すぎるほど発揮されていて、彼女の両親は美姫をそれはそれは大切に大切に育てていたらしい。
そのせいか彼女は傍目から見る分には、おっとりとした物腰柔らかな女性へと成長した。
そこで話が終われば美しい少女の、美しい成長記。
しかし王宮勤めをしている父親は、娘が美しく成長すると、彼女を正妃にせんと後宮へと送り込んだとのことだった。
つまり政治的野心による政略結婚。
大切に育てられた美姫は、後宮送りに抵抗するかと思いきや……自分の美貌に自信があるためか、正妃になるべきなのは私、陛下の寵愛を受けるのは自分だと確信し、その話を喜んで受け入れたらしい。
あれだけの美しさだ……女好きな陛下が夢中になるのは、後宮に送る前からわかりきっていただろう。
そしてついに正妃の一歩手前とも言える、上級妃にまで上り詰めたと。
彼女たちにとって誤算だったのは、陛下が美しさだけではなく特技も重視する人間で、他にも多くの上級妃がいた……ということかしら。
幼い頃から美しいと持て囃され、正妃になるのは自分だと確信して後宮にやってきたのに、上級妃という『数人の中の一人』になった時、美姫はいったいどんなに悔しかったことか。
想像するだけで、腹の底から笑いがこみ上げてくる。
おっと……いけない、いけない。
私は込み上がってくるものを抑え、改めて手紙の続きに目を通す。
手紙には彼女の弱みになり得る情報として……彼女の食事について書かれていた。
どうやら彼女には口にできない食品があり、それらを口にすると湿疹・呼吸困難・嘔吐・腫れが現れ、ひどい時には気を失って倒れてしまうこともあったらしい。
だから後宮に入る際、後宮の料理人に対して食事についての事細かな指定があったとのことだ。
具体的には卵・魚介類・果物類などが受け付けないらしく、彼女自身も口にする物には注意を払っているらしい。
好き嫌いではなく、口にできない食品……ね。
私は手紙を一度机の上に置いて、口元を袖で隠すようにしながら改めて考えをまとめる。
……自らの美しさに自信と誇りを持っている彼女が、陛下の前で顔を赤く腫らしながら吐瀉物を撒き散らし、呼吸すらままならない姿で倒れれば、それは彼女の尊厳を一気に破壊しうることでしょう。
さらに舞姫が舞台から落ち、顔を真っ青にしながら足を赤く染めていた様を嬉々として見つめていた陛下であれば、美姫がのたうち回る様もお楽しみになるだろう。
まぁ、一歩間違えれば彼女が死ぬ可能性もあるでしょうけど……毒物を混ぜたわけでもない、口にできない食品について知らなかったと、同じ上級妃の立場である私が言えばまず責め立てられることはない。
――問題はどうやって彼女にその食品を口にさせるかだけね。
分かりやすくその食品の料理を出したところで彼女は口にしないし、料理に何か隠して混ぜると毒物を盛ったのと同義と捉えられかねない。
何も知らなかった私が、偶然、美姫が口にできない食品を勧めてしまった……その状況を作り出したいわね。
何か良い案はないかと思案してみるが……美姫のことを情報だけでしか知らないこともあってか、どうしても想像だけでは計画が練りきれない。
美姫のことを、もう少し詳しく知る必要性があるわね。
けれど近づきすぎて『口にできない食品』について耳にしてしまっては、計画に支障が出る……実に難しい問題だ。
そう思いながらも、私はクスッと笑みをこぼしていた。
難しい問題の答えを得た時、私は格別の喜びが得られる……そう思うと、どんな面倒な調査すらお楽しみ前の余興に感じて、楽しみで仕方がなくなった。
私は父からの手紙を読みながら、次なる作戦について考えていた。
賢姫の時は、私が何もせずとも勝手に自滅してくれて楽だったし、無様な姿が見られて実に笑えたのだけれど……陛下のあの不満げな様子を思うと、次も同じような追い出し方をするわけにはいかないわね。
これ以上陛下の気分を害すると、お前はもう不要だと、私が後宮から追い出されかねない。
この仕事が終わった後、後宮を手に入れるためにはそれは絶対に避けなければならない。
何より私の琵琶を破壊しようとし、私を嘲笑った上級妃たちにはぜひとも惨めに、全てを失って後宮を去っていただくまで納得がいかないので、必ず面白い計画を練らなくてね。
私は面白い計画のため、父に頼んでおいた美姫について情報が書かれた手紙に改めて目を通す。
手紙には美姫の出生・性格・後宮に来た経緯についてなどが、事細かに書かれていた。
美姫は上級妃の中で最も美しく、そして生まれも高貴な女性だ。
その愛らしさ・美しさは幼い頃から十分すぎるほど発揮されていて、彼女の両親は美姫をそれはそれは大切に大切に育てていたらしい。
そのせいか彼女は傍目から見る分には、おっとりとした物腰柔らかな女性へと成長した。
そこで話が終われば美しい少女の、美しい成長記。
しかし王宮勤めをしている父親は、娘が美しく成長すると、彼女を正妃にせんと後宮へと送り込んだとのことだった。
つまり政治的野心による政略結婚。
大切に育てられた美姫は、後宮送りに抵抗するかと思いきや……自分の美貌に自信があるためか、正妃になるべきなのは私、陛下の寵愛を受けるのは自分だと確信し、その話を喜んで受け入れたらしい。
あれだけの美しさだ……女好きな陛下が夢中になるのは、後宮に送る前からわかりきっていただろう。
そしてついに正妃の一歩手前とも言える、上級妃にまで上り詰めたと。
彼女たちにとって誤算だったのは、陛下が美しさだけではなく特技も重視する人間で、他にも多くの上級妃がいた……ということかしら。
幼い頃から美しいと持て囃され、正妃になるのは自分だと確信して後宮にやってきたのに、上級妃という『数人の中の一人』になった時、美姫はいったいどんなに悔しかったことか。
想像するだけで、腹の底から笑いがこみ上げてくる。
おっと……いけない、いけない。
私は込み上がってくるものを抑え、改めて手紙の続きに目を通す。
手紙には彼女の弱みになり得る情報として……彼女の食事について書かれていた。
どうやら彼女には口にできない食品があり、それらを口にすると湿疹・呼吸困難・嘔吐・腫れが現れ、ひどい時には気を失って倒れてしまうこともあったらしい。
だから後宮に入る際、後宮の料理人に対して食事についての事細かな指定があったとのことだ。
具体的には卵・魚介類・果物類などが受け付けないらしく、彼女自身も口にする物には注意を払っているらしい。
好き嫌いではなく、口にできない食品……ね。
私は手紙を一度机の上に置いて、口元を袖で隠すようにしながら改めて考えをまとめる。
……自らの美しさに自信と誇りを持っている彼女が、陛下の前で顔を赤く腫らしながら吐瀉物を撒き散らし、呼吸すらままならない姿で倒れれば、それは彼女の尊厳を一気に破壊しうることでしょう。
さらに舞姫が舞台から落ち、顔を真っ青にしながら足を赤く染めていた様を嬉々として見つめていた陛下であれば、美姫がのたうち回る様もお楽しみになるだろう。
まぁ、一歩間違えれば彼女が死ぬ可能性もあるでしょうけど……毒物を混ぜたわけでもない、口にできない食品について知らなかったと、同じ上級妃の立場である私が言えばまず責め立てられることはない。
――問題はどうやって彼女にその食品を口にさせるかだけね。
分かりやすくその食品の料理を出したところで彼女は口にしないし、料理に何か隠して混ぜると毒物を盛ったのと同義と捉えられかねない。
何も知らなかった私が、偶然、美姫が口にできない食品を勧めてしまった……その状況を作り出したいわね。
何か良い案はないかと思案してみるが……美姫のことを情報だけでしか知らないこともあってか、どうしても想像だけでは計画が練りきれない。
美姫のことを、もう少し詳しく知る必要性があるわね。
けれど近づきすぎて『口にできない食品』について耳にしてしまっては、計画に支障が出る……実に難しい問題だ。
そう思いながらも、私はクスッと笑みをこぼしていた。
難しい問題の答えを得た時、私は格別の喜びが得られる……そう思うと、どんな面倒な調査すらお楽しみ前の余興に感じて、楽しみで仕方がなくなった。
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