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第三章 舞姫の追放
第十一話
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今日は特別な宴……舞姫が主役の宴が開催される日だ。
いつものただ踊るだけの舞とは違って、舞姫が主人公になりきって物語調に舞を披露する演舞になっている。
私から陛下に提案してみたところ、面白そうだということですぐに開催されることになった。
舞台上にはいつもと違って、階段で登る高めのお立ち台・寝台・長椅子などが置かれている。
今日ばかりは他の上級妃を退け、たった一人で陛下にしなだれかかるようにしている舞姫は、よほど嬉しいのか頬を赤く染め、喜びと自信に満ち溢れた表情をしている。
他の上級妃たちはそれを苦々しい顔で見つめている。
まぁ……陛下に舞姫は今日の主役なのだから、余の一番近くになんて言われてしまっては、他の上級妃としては面白くないだろう。
私はそんな彼女たちの表情を見て笑ってしまいそうになりながらも、口元を袖で隠して平静を装う。
……そう、今日は舞姫のための舞台。
陛下にも舞姫にも、ぜひとも楽しんでいただきたいですわね。
あまりにも楽しみで耐えきれずに小さな声でフフッと笑ってしまったが、騒がしい宴の場では誰も私の声に気付いていないようだった。
「では陛下。私、舞台に上がりますわね」
いつもの涼し気な顔立ちからは想像もつかないほど乙女の顔をしている舞姫が、陛下を見つめながらそう言った。
「うむ。存分に余を楽しませるが良い」
酒を手に笑いながらそう答える陛下に、はいと照れながら答えて舞姫は舞台袖へと入っていった。
端から見ていると恋人同士のような空気感を漂わせていたが、舞姫が去ると陛下はすぐに上級妃たちを自分の周りに呼び寄せていて、全てを台無しにしていた。
今日くらいは控えないのか……と呆れたが、陛下らしい行動だなと納得した。
陛下は遊姫もこちらに来いと笑って言っていたが、他の上級妃がこちらを睨んでいたので、袖で口元を隠しながら私はこちらで……と照れた風に言って、その場を乗り切った。
断られようとも全く気にした様子のない陛下は、上級妃の太ももを撫でて胸を揉みしだいて、酒を飲ませてもらいながらガハハッと笑って、舞台そっちのけで楽しそうにしている。
まったく……呆れた男だ。
そうこうしている内に、舞姫が舞台上に現れた。
いつも以上に美しい装いをしている彼女は、舞台上で主人公になりきって舞い踊り、キラキラと光り輝いていた。
時に長椅子に座り、時に寝台に倒れ込んで物語をどんどん進めていく舞姫。
物語調の演舞を提案するにあたって、私の好きな物語を提案していたので……語りのない演舞でも話の進み具合をだいたい把握できた。
そして、いよいよクライマックス。
主人公が階段を駆け上がり、未来への決意を固める場面……舞姫は階段を駆け上がり、舞台の一番高い位置まで来た時に、ミシッ……という音がした。
何事かと舞姫が自分の足元を見たかと思うと、次の瞬間に舞姫はそこから消えていた。
宴に参加していた全ての人間が状況を理解できずに、シーン……っと静かな時間が流れた。
かと思うと、突然空気を切り裂くような悲鳴が響き渡った。
「足が……足が……ッ!」
次に聞こえてきたのは、舞台の底に落ちていった舞姫の苦痛に悶える声。
舞台袖に控えていた舞姫の侍女たちが舞台上に上がって、置かれていた階段をどかして舞台の下を覗いて悲鳴を上げている。
私は何が起こっているのか分からないと困惑した風に見せるために、口元を袖で隠しながら成り行きを見守る。
侍女たちは舞台下まで落ちた舞姫を引っ張り上げるのは難しいと考えたらしく、宦官を呼び出して舞台の横から板を剥がして人が入れる空間を作ってもらって、舞姫を舞台下から引っ張り出していた。
自力で立つことすらできず、侍女たちに肩を貸してもらいながら引っ張り出された舞姫は、顔の血の気が引いてぐったりとした様子で、顔色とは正反対に足元は血で真っ赤に染まっていた。
侍女が急いで牛車を手配して、その間、舞姫は舞台下でぐったりと座り込んでいた。
真っ青になっている顔と、真っ赤な足元の色彩……とっても素敵ですわよ、舞姫様。
涼し気なお顔立ちに青みがかった肌は、儚げで今にも壊れてしまいそう。
今まで美しく舞い踊っていた足が真っ赤に染まっている様は、まるで花が咲き乱れているよう。
あぁ……美しいですわ。
舞姫はずっと足が……私の足が……と呆然としながらブツブツと呟いている。
呆然とした青い顔は、やはり歌姫とよく似ている。
私はそんな舞姫をうっとりと見つめながらも、周りにバレないように口元をしっかりと袖で隠していた。
ただ陛下の方は……好奇心を隠すこともなく、身を乗り出すようにしてキラキラと輝く瞳でボロボロの舞姫を見つめている。
まるで虫の羽をむしって楽しんでいる子供のようだ。
周りが騒然としているから、そんな陛下のご様子を誰も気に留めていないけど……少しは隠す努力をなさった方が良いだろうと思ったが、こんな素敵な演舞を見ては興奮を抑えられないのも無理はないだろう。
舞姫が主役の宴は、彼女が牛車で退場した後にすぐにお開きとなったが、私と陛下は大満足だった。
いつものただ踊るだけの舞とは違って、舞姫が主人公になりきって物語調に舞を披露する演舞になっている。
私から陛下に提案してみたところ、面白そうだということですぐに開催されることになった。
舞台上にはいつもと違って、階段で登る高めのお立ち台・寝台・長椅子などが置かれている。
今日ばかりは他の上級妃を退け、たった一人で陛下にしなだれかかるようにしている舞姫は、よほど嬉しいのか頬を赤く染め、喜びと自信に満ち溢れた表情をしている。
他の上級妃たちはそれを苦々しい顔で見つめている。
まぁ……陛下に舞姫は今日の主役なのだから、余の一番近くになんて言われてしまっては、他の上級妃としては面白くないだろう。
私はそんな彼女たちの表情を見て笑ってしまいそうになりながらも、口元を袖で隠して平静を装う。
……そう、今日は舞姫のための舞台。
陛下にも舞姫にも、ぜひとも楽しんでいただきたいですわね。
あまりにも楽しみで耐えきれずに小さな声でフフッと笑ってしまったが、騒がしい宴の場では誰も私の声に気付いていないようだった。
「では陛下。私、舞台に上がりますわね」
いつもの涼し気な顔立ちからは想像もつかないほど乙女の顔をしている舞姫が、陛下を見つめながらそう言った。
「うむ。存分に余を楽しませるが良い」
酒を手に笑いながらそう答える陛下に、はいと照れながら答えて舞姫は舞台袖へと入っていった。
端から見ていると恋人同士のような空気感を漂わせていたが、舞姫が去ると陛下はすぐに上級妃たちを自分の周りに呼び寄せていて、全てを台無しにしていた。
今日くらいは控えないのか……と呆れたが、陛下らしい行動だなと納得した。
陛下は遊姫もこちらに来いと笑って言っていたが、他の上級妃がこちらを睨んでいたので、袖で口元を隠しながら私はこちらで……と照れた風に言って、その場を乗り切った。
断られようとも全く気にした様子のない陛下は、上級妃の太ももを撫でて胸を揉みしだいて、酒を飲ませてもらいながらガハハッと笑って、舞台そっちのけで楽しそうにしている。
まったく……呆れた男だ。
そうこうしている内に、舞姫が舞台上に現れた。
いつも以上に美しい装いをしている彼女は、舞台上で主人公になりきって舞い踊り、キラキラと光り輝いていた。
時に長椅子に座り、時に寝台に倒れ込んで物語をどんどん進めていく舞姫。
物語調の演舞を提案するにあたって、私の好きな物語を提案していたので……語りのない演舞でも話の進み具合をだいたい把握できた。
そして、いよいよクライマックス。
主人公が階段を駆け上がり、未来への決意を固める場面……舞姫は階段を駆け上がり、舞台の一番高い位置まで来た時に、ミシッ……という音がした。
何事かと舞姫が自分の足元を見たかと思うと、次の瞬間に舞姫はそこから消えていた。
宴に参加していた全ての人間が状況を理解できずに、シーン……っと静かな時間が流れた。
かと思うと、突然空気を切り裂くような悲鳴が響き渡った。
「足が……足が……ッ!」
次に聞こえてきたのは、舞台の底に落ちていった舞姫の苦痛に悶える声。
舞台袖に控えていた舞姫の侍女たちが舞台上に上がって、置かれていた階段をどかして舞台の下を覗いて悲鳴を上げている。
私は何が起こっているのか分からないと困惑した風に見せるために、口元を袖で隠しながら成り行きを見守る。
侍女たちは舞台下まで落ちた舞姫を引っ張り上げるのは難しいと考えたらしく、宦官を呼び出して舞台の横から板を剥がして人が入れる空間を作ってもらって、舞姫を舞台下から引っ張り出していた。
自力で立つことすらできず、侍女たちに肩を貸してもらいながら引っ張り出された舞姫は、顔の血の気が引いてぐったりとした様子で、顔色とは正反対に足元は血で真っ赤に染まっていた。
侍女が急いで牛車を手配して、その間、舞姫は舞台下でぐったりと座り込んでいた。
真っ青になっている顔と、真っ赤な足元の色彩……とっても素敵ですわよ、舞姫様。
涼し気なお顔立ちに青みがかった肌は、儚げで今にも壊れてしまいそう。
今まで美しく舞い踊っていた足が真っ赤に染まっている様は、まるで花が咲き乱れているよう。
あぁ……美しいですわ。
舞姫はずっと足が……私の足が……と呆然としながらブツブツと呟いている。
呆然とした青い顔は、やはり歌姫とよく似ている。
私はそんな舞姫をうっとりと見つめながらも、周りにバレないように口元をしっかりと袖で隠していた。
ただ陛下の方は……好奇心を隠すこともなく、身を乗り出すようにしてキラキラと輝く瞳でボロボロの舞姫を見つめている。
まるで虫の羽をむしって楽しんでいる子供のようだ。
周りが騒然としているから、そんな陛下のご様子を誰も気に留めていないけど……少しは隠す努力をなさった方が良いだろうと思ったが、こんな素敵な演舞を見ては興奮を抑えられないのも無理はないだろう。
舞姫が主役の宴は、彼女が牛車で退場した後にすぐにお開きとなったが、私と陛下は大満足だった。
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