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第一章 遊姫の後宮入り
第四話
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私の歓迎会とは名ばかりの宴が終わった数日後、上級妃だけのお茶会が開催されることになった。
宴が終わった後、歌姫から後日一緒にお茶でもと言われてはいたが……てっきり社交辞令だと思っていたので、お茶会開催の知らせが来たときには驚いた。
けれど、お茶会の会場として私の宮を指定されたことを思うと、ただお茶を飲んでお話をするだけでは終わらないだろう。
父から送られてきた手紙を眺めながらあれこれ考えていると、お見えになりましたと従者が敵の襲来を知らせてきたので、決意を固めてから宮の入り口へと向かった。
「ようこそお越しくださいました」
示し合わせたように一斉にやって来た彼女たちに微笑み、どうぞと客室へと案内する。
歌姫が急に来ちゃってごめんなさいねと言ったり、舞姫が意外と物が少ないわねと言ったりしていたが、どれにもそれなりの返事だけして微笑んだ。
他の上級妃たちはニコニコしていたり、ニヤニヤしていたり……これから私に嫌なことが起こるであろうことを、確信へと変えてくれていた。
「――陛下から賜った名前は、遊姫だったかしら」
お茶を飲みながらどうでも良い世間話や一通りのことに受け答えした後、賢姫がそう切り出してきた。
そうですと答えると、美姫がふわふわとした笑みを浮かべながら、さらに尋ねてくる。
「由来は何ですか? ほら、私達と違って分かりやすいお名前ではなかったから……」
やはり自分の魅力や特技に自信を持っている彼女たちにとって、名前の由来というのは気になるものらしい。
「陛下を楽しませる女性だから……と仰っていました」
どうやって楽しませるのか核心は言わず伝えると、夜姫がクスクスと笑いだした。
「失礼。陛下を楽しませる女性で楽姫ではなく、遊姫なのね。陛下にとって遊具ということなのかと思うと、おかしくて……」
言葉では申し訳なさげにしているが、表情は実にいやらしく楽しそうに微笑んでいる。
他の上級妃たちも笑ってはダメよと言いながら、クスクスと笑っていた。
私としては陛下に付けられた名前など興味ないし、似たり寄ったりな名前の側妃に嘲笑されようともどうでも良いので、そうですねと微笑む。
けれどそんな私の様子に、彼女たちは苛つきを隠せない様子だった。
歌姫や舞姫は今にも何かを言い出しそうだったが、それを賢姫が目配せで制止しているようだった。
「陛下から賜った名前を笑うなんて、陛下にも遊姫様にも失礼よ。申し訳ございません、遊姫様」
賢姫がそう言うとクスクスと笑っていた上級妃たちは口をつぐみ、夜姫も口先だけではあるが、ごめんなさいねと謝っていた。
「遊姫様は琵琶がお上手でしたから、きっとそれで陛下を楽しませる女性と名付けられたのでしょうね」
賢姫はニコニコと微笑みながらそう言って、何かを促すようにチラリと歌姫の方を見る。
それに気付いた歌姫も慌てて、そうでしたわねと便乗しながら琵琶がお好きなのですか? と尋ねてきたので、はいと答えた。
すると他の上級妃たちがぜひ琵琶をもう一度披露してくださいと言ってきたので、彼女たちの目論見に気付きながらも、従者に琵琶を持ってくるように告げた。
――誰も興味がないであろう琵琶の演奏を終えると、上級妃たちはすごい、さすがですと大げさにおだててくる。
「私も琵琶をやったことがあるのです。ぜひ私にも琵琶を演奏させていただけませんか?」
歌姫がそう言ってきたので、構いませんよと琵琶を渡すと、彼女は途端にあぁっ! と大げさな声を上げ、腕を振りながら倒れ込んだ。
振り回された琵琶は柱にぶち当たり真っ二つに割れていて、私はそれをぼんやりと見つめる。
他の上級妃たちは歌姫に大丈夫ですか? お怪我は? と声を掛けているが、その声は今にも笑い出しそうなものを抑え込んでいることが丸わかりだった。
歌姫も申し訳ございません、琵琶が……と言ってはいたが、口元はにやけているのであろう声色だった。
だからこそ、私はニッコリと微笑んだ。
「構いませんよ。幸運なことに、あの琵琶は予備でしたから」
私がそう言うと、上級妃たちはえっ……と驚いた表情になる。
宴で琵琶を披露したことで私や楽器に何かしてくるだろうと予想していたから、宴が終わってすぐ、父に新しい琵琶を送るように頼んでいた。
彼女が割ったのは、その琵琶……私が普段愛用している琵琶ではない。
「歌姫様にもお怪我がなくて、何よりですわ」
そう微笑むと、上級妃たちは悔しそうに俯いていた。
その日はそこから楽しいお茶会を続けられるはずもなく、早々にお開きになって上級妃たちはそれぞれの宮へと帰っていった。
静かになった客室に一人で、ボロボロになった琵琶をぼんやりと眺めながら考え事をする。
――くだらないイタズラ、予見していたし回避できた、目くじらを立てるほどではないのかもしれない。
でも……あぁ……私の中でふつふつと湧き上がってくるものがある。
自分の周りが敵だらけなのは許せる、でも自分に実害を与える人間……私を害する人間だけはどうしても許せない。
やられっぱなしも許せない。
やられたらやり返さないと気がすまない。
上級妃たちのことは身の丈に合わぬ立場を与えられたために、調子に乗ってしまった哀れな女性たちだと思っていたけど……私を害するなら話は別よ?
穏便に後宮から追い出そうと思っていたけど、私の大切な物を壊そうとした彼女たちには……大切な物を失って、惨めに後宮から退場していただきましょうか。
私はこれからのことを思うと楽しくなって、クスクスと笑いが止まらなかった。
宴が終わった後、歌姫から後日一緒にお茶でもと言われてはいたが……てっきり社交辞令だと思っていたので、お茶会開催の知らせが来たときには驚いた。
けれど、お茶会の会場として私の宮を指定されたことを思うと、ただお茶を飲んでお話をするだけでは終わらないだろう。
父から送られてきた手紙を眺めながらあれこれ考えていると、お見えになりましたと従者が敵の襲来を知らせてきたので、決意を固めてから宮の入り口へと向かった。
「ようこそお越しくださいました」
示し合わせたように一斉にやって来た彼女たちに微笑み、どうぞと客室へと案内する。
歌姫が急に来ちゃってごめんなさいねと言ったり、舞姫が意外と物が少ないわねと言ったりしていたが、どれにもそれなりの返事だけして微笑んだ。
他の上級妃たちはニコニコしていたり、ニヤニヤしていたり……これから私に嫌なことが起こるであろうことを、確信へと変えてくれていた。
「――陛下から賜った名前は、遊姫だったかしら」
お茶を飲みながらどうでも良い世間話や一通りのことに受け答えした後、賢姫がそう切り出してきた。
そうですと答えると、美姫がふわふわとした笑みを浮かべながら、さらに尋ねてくる。
「由来は何ですか? ほら、私達と違って分かりやすいお名前ではなかったから……」
やはり自分の魅力や特技に自信を持っている彼女たちにとって、名前の由来というのは気になるものらしい。
「陛下を楽しませる女性だから……と仰っていました」
どうやって楽しませるのか核心は言わず伝えると、夜姫がクスクスと笑いだした。
「失礼。陛下を楽しませる女性で楽姫ではなく、遊姫なのね。陛下にとって遊具ということなのかと思うと、おかしくて……」
言葉では申し訳なさげにしているが、表情は実にいやらしく楽しそうに微笑んでいる。
他の上級妃たちも笑ってはダメよと言いながら、クスクスと笑っていた。
私としては陛下に付けられた名前など興味ないし、似たり寄ったりな名前の側妃に嘲笑されようともどうでも良いので、そうですねと微笑む。
けれどそんな私の様子に、彼女たちは苛つきを隠せない様子だった。
歌姫や舞姫は今にも何かを言い出しそうだったが、それを賢姫が目配せで制止しているようだった。
「陛下から賜った名前を笑うなんて、陛下にも遊姫様にも失礼よ。申し訳ございません、遊姫様」
賢姫がそう言うとクスクスと笑っていた上級妃たちは口をつぐみ、夜姫も口先だけではあるが、ごめんなさいねと謝っていた。
「遊姫様は琵琶がお上手でしたから、きっとそれで陛下を楽しませる女性と名付けられたのでしょうね」
賢姫はニコニコと微笑みながらそう言って、何かを促すようにチラリと歌姫の方を見る。
それに気付いた歌姫も慌てて、そうでしたわねと便乗しながら琵琶がお好きなのですか? と尋ねてきたので、はいと答えた。
すると他の上級妃たちがぜひ琵琶をもう一度披露してくださいと言ってきたので、彼女たちの目論見に気付きながらも、従者に琵琶を持ってくるように告げた。
――誰も興味がないであろう琵琶の演奏を終えると、上級妃たちはすごい、さすがですと大げさにおだててくる。
「私も琵琶をやったことがあるのです。ぜひ私にも琵琶を演奏させていただけませんか?」
歌姫がそう言ってきたので、構いませんよと琵琶を渡すと、彼女は途端にあぁっ! と大げさな声を上げ、腕を振りながら倒れ込んだ。
振り回された琵琶は柱にぶち当たり真っ二つに割れていて、私はそれをぼんやりと見つめる。
他の上級妃たちは歌姫に大丈夫ですか? お怪我は? と声を掛けているが、その声は今にも笑い出しそうなものを抑え込んでいることが丸わかりだった。
歌姫も申し訳ございません、琵琶が……と言ってはいたが、口元はにやけているのであろう声色だった。
だからこそ、私はニッコリと微笑んだ。
「構いませんよ。幸運なことに、あの琵琶は予備でしたから」
私がそう言うと、上級妃たちはえっ……と驚いた表情になる。
宴で琵琶を披露したことで私や楽器に何かしてくるだろうと予想していたから、宴が終わってすぐ、父に新しい琵琶を送るように頼んでいた。
彼女が割ったのは、その琵琶……私が普段愛用している琵琶ではない。
「歌姫様にもお怪我がなくて、何よりですわ」
そう微笑むと、上級妃たちは悔しそうに俯いていた。
その日はそこから楽しいお茶会を続けられるはずもなく、早々にお開きになって上級妃たちはそれぞれの宮へと帰っていった。
静かになった客室に一人で、ボロボロになった琵琶をぼんやりと眺めながら考え事をする。
――くだらないイタズラ、予見していたし回避できた、目くじらを立てるほどではないのかもしれない。
でも……あぁ……私の中でふつふつと湧き上がってくるものがある。
自分の周りが敵だらけなのは許せる、でも自分に実害を与える人間……私を害する人間だけはどうしても許せない。
やられっぱなしも許せない。
やられたらやり返さないと気がすまない。
上級妃たちのことは身の丈に合わぬ立場を与えられたために、調子に乗ってしまった哀れな女性たちだと思っていたけど……私を害するなら話は別よ?
穏便に後宮から追い出そうと思っていたけど、私の大切な物を壊そうとした彼女たちには……大切な物を失って、惨めに後宮から退場していただきましょうか。
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