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第八章 今日も平和な家族
第五十三話
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教会が完成したら、領民や虫魔物たちと教会の完成を祝うパーティーをした。
アルとしては、すぐに結婚式! ……と行きたいところではあったが、頑張ってくれた領民やテンを労うため、逸る気持ちを抑えてパーティーを開いた。
こじんまりとした教会に入ってまず目につくのは、教会奥の中央に鎮座した蟲神の像だろう。
直に蟲神を見たことがあるハシャラが協力して、まずは似顔絵を描き出してから、手先の器用な領民が像を作り上げた。
完成した像を見たハシャラは「蟲神様にそっくりです!」と絶賛していた。
そしてそんな像の背後には、美しいステンドグラスがあった。
アリやミミズ、ハチなどの虫の姿と共に、聖女のような女性が祈りを捧げている……世にも珍しいステンドグラスだ。
こればかりは領民だけの力では難しく、外部に依頼したのだが……デザイン画を渡した時、本当にこれを作るのか? と怪訝な表情をされた。
ステンドグラスのデザインになった当の本人であるハシャラは、気恥ずかしそうに俯いていた。
アルは「そっくりだ」と絶賛していた。
教会の中にはその他にも長椅子がいくつか置かれており、腰を落ち着けて蟲神に祈りを捧げられるような空間になっている。
皆で教会の中を見て回り、その後は教会の外で簡単な飲食をしたりして盛り上がる中、ハシャラは一人で蟲神の像の前に立った。
そして蟲神に語りかけるように、穏やかな表情で口を開く。
「……蟲神様のおかげで、ケンゾンは教会を建てる余裕も生まれました。本当にありがとうございます。これからも、どうか見守っていてください」
そうして目をつぶり、手を組み合わせて顔の前に持ってきて、祈りを捧げる。
『私はいつでもハシャラを見守っているよ』
すると、蟲神の優しい声が……前方から聞こえたような気がした。
ハシャラが顔を上げて蟲神の像を見やるが、それはあくまでも像で……どこにも蟲神の姿はなかった。
けれど確かに見守られていると、そう感じることができて、嬉しそうに像に微笑み返した。
――そして教会の完成から一ヶ月が経った頃、ついにハシャラとアルの結婚式が開かれた。
「ど、どこかおかしくないですか……? だ、大丈夫でしょうか……?」
教会にある個室で、美しいウェディングドレスを身にまとったハシャラは、落ち着かない様子でウロウロソワソワとしながら、不安を漏らしていた。
ハシャラは分かりやすく緊張していたのだ。
「落ち着いてください、姫様」
そんなハシャラに、ナラが冷静ないつもの調子で声を掛ける。
「そうですね……落ち着かなくては……」
ナラに声をかけられたハシャラは、落ち着かなければと口にしながらも、全く落ち着く様子はなかった。
ナラはそんなハシャラをみて、小さくため息を吐いたかと思うと「姫様」と改めて声をかけた。
呼ばれたハシャラがナラの方を見る。
「……とても……お綺麗ですよ」
するとナラは穏やかな、母親のような笑みを浮かべながらそう告げる。
ハシャラは目を見開き驚いた表情を浮かべていたが、すぐにつられるように笑みを浮かべて答える。
「ありがとうございます、ナラ。……では、行きましょうか」
やっと落ち着いたハシャラはナラにそう伝えて、個室を出て教会の方に向かって歩き出した。
ゆっくりとした歩みで、今までのことを振り返りながら……ゆっくりと、歩く。
そして教会まで来ると、蟲神の像の前に神父代理と……白いタキシードに身を包んだアルが立っていた。
アルはウェディングドレス姿のハシャラを見ると、一瞬驚きの表情を浮かべていたが、すぐに頬を赤く染めながら穏やかな笑みを浮かべていた。
それを見たハシャラも、同じように笑みを浮かべながらゆっくりとアルの方へと向かっていく。
そしてアルの隣まで来ると、二人は手を取り合って神父代理に向き直った。
神父代理が厳かに口を開く。
「アルアサダよ。あなたは妻となるハシャラを永遠に愛し、共にケンゾンを支えることを、蟲神様に誓いますか?」
その問いに、アルはちらりとハシャラの方を見てニコッと微笑んでから、まっすぐに答える。
「誓います」
その笑顔と、答えを聞いたハシャラは頬を赤く染めて俯く。
次に神父代理は、ハシャラの方に向けて口を開いた。
「ハシャラよ。あなたは夫となるアルアサダを永遠に愛し、共にケンゾンを支えることを、蟲神様に誓いますか?」
ハシャラはゆっくりと顔を上げ、ちらりとアルの方を見て、微笑み合ってから答える。
「……誓います」
すると神父代理が手を広げ、大きく宣言する。
「これより、アルアサダとハシャラが夫婦となることを、蟲神様に宣言いたします!」
くるりと後ろを振り返り、参列者の方を見る二人を……参列者たちが温かい拍手で祝福する。
ハシャラもアルも、両親とは縁を切っている状態なので、参列者の中に親の姿はない。
けれど代わりにミミズ・ミツ・クモ・ハチ・アリ・カマキリの魔物・女王・ナラたち、虫魔物の家族が前列の方に座って、微笑んだり涙ぐんだりしていた。
後方には領民とテンたちがいて、開かれた教会の扉の外にも教会に入り切らなかった領民たちがいて、大きな拍手を送ってくれていた。
ハシャラは家族とケンゾンの皆を愛おしそうに見つめ、アルにだけ聞こえる声量で語りかける。
「これからも、よろしくお願い致しますね。アル様」
「あぁ、こちらこそ」
アルも同じような表情で参列者を見つめ、お互いに幸せそうな笑みを浮かべながら、拍手を胸いっぱいに受け止めていた。
アルとしては、すぐに結婚式! ……と行きたいところではあったが、頑張ってくれた領民やテンを労うため、逸る気持ちを抑えてパーティーを開いた。
こじんまりとした教会に入ってまず目につくのは、教会奥の中央に鎮座した蟲神の像だろう。
直に蟲神を見たことがあるハシャラが協力して、まずは似顔絵を描き出してから、手先の器用な領民が像を作り上げた。
完成した像を見たハシャラは「蟲神様にそっくりです!」と絶賛していた。
そしてそんな像の背後には、美しいステンドグラスがあった。
アリやミミズ、ハチなどの虫の姿と共に、聖女のような女性が祈りを捧げている……世にも珍しいステンドグラスだ。
こればかりは領民だけの力では難しく、外部に依頼したのだが……デザイン画を渡した時、本当にこれを作るのか? と怪訝な表情をされた。
ステンドグラスのデザインになった当の本人であるハシャラは、気恥ずかしそうに俯いていた。
アルは「そっくりだ」と絶賛していた。
教会の中にはその他にも長椅子がいくつか置かれており、腰を落ち着けて蟲神に祈りを捧げられるような空間になっている。
皆で教会の中を見て回り、その後は教会の外で簡単な飲食をしたりして盛り上がる中、ハシャラは一人で蟲神の像の前に立った。
そして蟲神に語りかけるように、穏やかな表情で口を開く。
「……蟲神様のおかげで、ケンゾンは教会を建てる余裕も生まれました。本当にありがとうございます。これからも、どうか見守っていてください」
そうして目をつぶり、手を組み合わせて顔の前に持ってきて、祈りを捧げる。
『私はいつでもハシャラを見守っているよ』
すると、蟲神の優しい声が……前方から聞こえたような気がした。
ハシャラが顔を上げて蟲神の像を見やるが、それはあくまでも像で……どこにも蟲神の姿はなかった。
けれど確かに見守られていると、そう感じることができて、嬉しそうに像に微笑み返した。
――そして教会の完成から一ヶ月が経った頃、ついにハシャラとアルの結婚式が開かれた。
「ど、どこかおかしくないですか……? だ、大丈夫でしょうか……?」
教会にある個室で、美しいウェディングドレスを身にまとったハシャラは、落ち着かない様子でウロウロソワソワとしながら、不安を漏らしていた。
ハシャラは分かりやすく緊張していたのだ。
「落ち着いてください、姫様」
そんなハシャラに、ナラが冷静ないつもの調子で声を掛ける。
「そうですね……落ち着かなくては……」
ナラに声をかけられたハシャラは、落ち着かなければと口にしながらも、全く落ち着く様子はなかった。
ナラはそんなハシャラをみて、小さくため息を吐いたかと思うと「姫様」と改めて声をかけた。
呼ばれたハシャラがナラの方を見る。
「……とても……お綺麗ですよ」
するとナラは穏やかな、母親のような笑みを浮かべながらそう告げる。
ハシャラは目を見開き驚いた表情を浮かべていたが、すぐにつられるように笑みを浮かべて答える。
「ありがとうございます、ナラ。……では、行きましょうか」
やっと落ち着いたハシャラはナラにそう伝えて、個室を出て教会の方に向かって歩き出した。
ゆっくりとした歩みで、今までのことを振り返りながら……ゆっくりと、歩く。
そして教会まで来ると、蟲神の像の前に神父代理と……白いタキシードに身を包んだアルが立っていた。
アルはウェディングドレス姿のハシャラを見ると、一瞬驚きの表情を浮かべていたが、すぐに頬を赤く染めながら穏やかな笑みを浮かべていた。
それを見たハシャラも、同じように笑みを浮かべながらゆっくりとアルの方へと向かっていく。
そしてアルの隣まで来ると、二人は手を取り合って神父代理に向き直った。
神父代理が厳かに口を開く。
「アルアサダよ。あなたは妻となるハシャラを永遠に愛し、共にケンゾンを支えることを、蟲神様に誓いますか?」
その問いに、アルはちらりとハシャラの方を見てニコッと微笑んでから、まっすぐに答える。
「誓います」
その笑顔と、答えを聞いたハシャラは頬を赤く染めて俯く。
次に神父代理は、ハシャラの方に向けて口を開いた。
「ハシャラよ。あなたは夫となるアルアサダを永遠に愛し、共にケンゾンを支えることを、蟲神様に誓いますか?」
ハシャラはゆっくりと顔を上げ、ちらりとアルの方を見て、微笑み合ってから答える。
「……誓います」
すると神父代理が手を広げ、大きく宣言する。
「これより、アルアサダとハシャラが夫婦となることを、蟲神様に宣言いたします!」
くるりと後ろを振り返り、参列者の方を見る二人を……参列者たちが温かい拍手で祝福する。
ハシャラもアルも、両親とは縁を切っている状態なので、参列者の中に親の姿はない。
けれど代わりにミミズ・ミツ・クモ・ハチ・アリ・カマキリの魔物・女王・ナラたち、虫魔物の家族が前列の方に座って、微笑んだり涙ぐんだりしていた。
後方には領民とテンたちがいて、開かれた教会の扉の外にも教会に入り切らなかった領民たちがいて、大きな拍手を送ってくれていた。
ハシャラは家族とケンゾンの皆を愛おしそうに見つめ、アルにだけ聞こえる声量で語りかける。
「これからも、よろしくお願い致しますね。アル様」
「あぁ、こちらこそ」
アルも同じような表情で参列者を見つめ、お互いに幸せそうな笑みを浮かべながら、拍手を胸いっぱいに受け止めていた。
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