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第六章 私達のパーティー
第四十四話
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祭りを堪能したハシャラたちは、そろそろ屋敷に戻ろうかという話になり、祭りの代表者である領民たちに挨拶をしに向かった。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
ハシャラが満面の笑みでそう告げると、領民たちも満足そうな笑みを浮かべていた。
「楽しんでいただけて何よりです。我々も楽しかったです」
「俺も楽しかったー!」
テンは両手を天にかざしながら、伸びをするようにやりきった笑みを浮かべていた。
そして領民たちも、満足げな笑みと感想を述べながら、ちらほらと帰る準備を始めた。
「祭りの片付けは、明日にするか」
「そうだな。今日は楽しかったーだけで終わろう!」
その中には、こんな話をする者もいた。
「祭りのためにつくった屋台の木材は、細かくして各家庭の薪にしよう」
「そうだな。ただ子供たちと一緒につくった飾りや木彫りの置物は無くしたくないから、来年のために倉庫で取っておこう」
「来年か……そうだな。楽しみだな」
そんなやり取りを聞きながら、ハシャラは祭りが終わったばかりだというのに、すでに来年の祭りが楽しみになっていた。
「来年も楽しみです……」
だから独り言のように、そう呟いていた。
会話をしていた領民たちには聞こえなかったらしい。
「楽しみだな……」
けれどアルにだけは聞こえていたらしく、独り言のような小声で返してくれていた。
祭りが終わり、明かりが消された祭り会場を眺めながら、そんなやり取りをした。
そして名残惜しそうに、ハシャラは村を後にして屋敷へと戻った。
「今日は楽しかったです。アル様も、ありがとうございました」
屋敷に戻ってすぐ、玄関ホールでハシャラがアルにそんな言葉を投げかけた。
それにアルは驚いた様子だったが、すぐに苦笑を浮かべて答える。
「俺は何もしていないよ。全ては領民たちの力さ」
アルの言葉を聞いたハシャラは、俯きながらさらに言葉を続ける。
「もちろん、領民のおかげもありますが……その、一緒にダンスを踊ってくださったので……」
俯くハシャラの頬が赤い。
どうやら今更ながら、アルを無理やりダンスに誘ったことを少しだけ恥ずかしく思っているらしかった。
そんなハシャラを見て、アルは目をパチパチと瞬かせたかと思うと、すぐに堪えきれないという様子で笑い出した。
それにハシャラはむぅ……と何も言えず、ただ顔を赤くして眉尻を下げて俯いていた。
「俺も楽しかったからいいさ」
それを見たアルは、笑って満足したのか眉尻を下げながら微笑んで、ハシャラの頭を撫でる。
頭を撫でられたことで、ハシャラの顔は湯気が出そうなほど、さらに赤く熱くなった。
そんなハシャラを見て、アルはまた楽しそうにクックックと笑っていた。
しばらくそうしていたが、このままでは終わりがないと感じたのか、アルが先に口を開いた。
「じゃあ、そろそろ休もうか。おやすみ、ハシャラ」
アルの言葉を聞いたハシャラは、まだ顔は赤いものの慌てて顔を上げて、返事をする。
「は、はい。おやすみなさいませ、アル様」
そうして二人は玄関ホールから、各々の部屋へと戻っていった。
祭りにかなりの時間いたので、もう時間はすっかり夜だ。
出店の料理をかなり食べたので、夕食の必要もなさそうだった。
「今日はもう湯浴みをして、お休みになりますか?」
「はい、そうします」
自室へと戻る道中、ナラに尋ねられたハシャラは同意する。
そして部屋に戻ると、すぐに湯浴みをして……寝間着に着替えて、寝支度をして、ベッドへと入った。
「おやすみなさいませ、姫様」
「おやすみなさい、ナラ」
眠る前のいつものやり取りをして、ナラが明かりを持って部屋を出ていった。
部屋は窓からさす月明かりしかなく、一気に薄暗くなる。
「今日は、本当に楽しかったですね……」
薄暗い自室、ベッドに横たわるハシャラは、心が楽しさでいっぱいに満たされていて……たまらず、口から心の声が漏れ出ていた。
誰に言うでもない独り言。
そして誰に見せるでもなく、ハシャラはふーっと息を吐きながら、満足げな笑みを浮かべていた。
頭と心の中は、今日の収穫祭のことでいっぱいだった。
目をつぶれば、すぐに領民とテンたちの笑顔と出店での美味しい食べ物、明かりの灯された祭りの光景が思い浮かぶ。
そして楽しかったアルとのダンス。
知らないダンスでうまく踊れず、ステップも何もあったものではなかったけれども……今まで踊ったダンスの中で、間違いなく一番楽しかった。
そして思い出す……アルと笑いあったことを。
ハシャラは一人で顔を赤く熱くさせて、誰も見ていないと分かっているのに、布団を顔まで被って隠した。
自分からダンスを誘ったことを恥ずかしく思いながらも、アルの楽しそうな笑顔に……思い出すだけでも、つられて口角が上がってしまう自分がいた。
ゆっくりと布団から顔を出して、枕に頭を置いて天井を眺める。
口角は上がったままだし、眉尻も下がっているが……目元は明かりを灯されたように、愛しいものを見るように輝いていた。
そしてゆっくりと目を閉じると、やはり祭りの楽しげな思い出が浮かぶ。
そんな状態で眠れるだろうかと不安だったが、思っていたよりも身体は疲れていたらしく……不安をよそに、ハシャラはすぐに眠りについた。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
ハシャラが満面の笑みでそう告げると、領民たちも満足そうな笑みを浮かべていた。
「楽しんでいただけて何よりです。我々も楽しかったです」
「俺も楽しかったー!」
テンは両手を天にかざしながら、伸びをするようにやりきった笑みを浮かべていた。
そして領民たちも、満足げな笑みと感想を述べながら、ちらほらと帰る準備を始めた。
「祭りの片付けは、明日にするか」
「そうだな。今日は楽しかったーだけで終わろう!」
その中には、こんな話をする者もいた。
「祭りのためにつくった屋台の木材は、細かくして各家庭の薪にしよう」
「そうだな。ただ子供たちと一緒につくった飾りや木彫りの置物は無くしたくないから、来年のために倉庫で取っておこう」
「来年か……そうだな。楽しみだな」
そんなやり取りを聞きながら、ハシャラは祭りが終わったばかりだというのに、すでに来年の祭りが楽しみになっていた。
「来年も楽しみです……」
だから独り言のように、そう呟いていた。
会話をしていた領民たちには聞こえなかったらしい。
「楽しみだな……」
けれどアルにだけは聞こえていたらしく、独り言のような小声で返してくれていた。
祭りが終わり、明かりが消された祭り会場を眺めながら、そんなやり取りをした。
そして名残惜しそうに、ハシャラは村を後にして屋敷へと戻った。
「今日は楽しかったです。アル様も、ありがとうございました」
屋敷に戻ってすぐ、玄関ホールでハシャラがアルにそんな言葉を投げかけた。
それにアルは驚いた様子だったが、すぐに苦笑を浮かべて答える。
「俺は何もしていないよ。全ては領民たちの力さ」
アルの言葉を聞いたハシャラは、俯きながらさらに言葉を続ける。
「もちろん、領民のおかげもありますが……その、一緒にダンスを踊ってくださったので……」
俯くハシャラの頬が赤い。
どうやら今更ながら、アルを無理やりダンスに誘ったことを少しだけ恥ずかしく思っているらしかった。
そんなハシャラを見て、アルは目をパチパチと瞬かせたかと思うと、すぐに堪えきれないという様子で笑い出した。
それにハシャラはむぅ……と何も言えず、ただ顔を赤くして眉尻を下げて俯いていた。
「俺も楽しかったからいいさ」
それを見たアルは、笑って満足したのか眉尻を下げながら微笑んで、ハシャラの頭を撫でる。
頭を撫でられたことで、ハシャラの顔は湯気が出そうなほど、さらに赤く熱くなった。
そんなハシャラを見て、アルはまた楽しそうにクックックと笑っていた。
しばらくそうしていたが、このままでは終わりがないと感じたのか、アルが先に口を開いた。
「じゃあ、そろそろ休もうか。おやすみ、ハシャラ」
アルの言葉を聞いたハシャラは、まだ顔は赤いものの慌てて顔を上げて、返事をする。
「は、はい。おやすみなさいませ、アル様」
そうして二人は玄関ホールから、各々の部屋へと戻っていった。
祭りにかなりの時間いたので、もう時間はすっかり夜だ。
出店の料理をかなり食べたので、夕食の必要もなさそうだった。
「今日はもう湯浴みをして、お休みになりますか?」
「はい、そうします」
自室へと戻る道中、ナラに尋ねられたハシャラは同意する。
そして部屋に戻ると、すぐに湯浴みをして……寝間着に着替えて、寝支度をして、ベッドへと入った。
「おやすみなさいませ、姫様」
「おやすみなさい、ナラ」
眠る前のいつものやり取りをして、ナラが明かりを持って部屋を出ていった。
部屋は窓からさす月明かりしかなく、一気に薄暗くなる。
「今日は、本当に楽しかったですね……」
薄暗い自室、ベッドに横たわるハシャラは、心が楽しさでいっぱいに満たされていて……たまらず、口から心の声が漏れ出ていた。
誰に言うでもない独り言。
そして誰に見せるでもなく、ハシャラはふーっと息を吐きながら、満足げな笑みを浮かべていた。
頭と心の中は、今日の収穫祭のことでいっぱいだった。
目をつぶれば、すぐに領民とテンたちの笑顔と出店での美味しい食べ物、明かりの灯された祭りの光景が思い浮かぶ。
そして楽しかったアルとのダンス。
知らないダンスでうまく踊れず、ステップも何もあったものではなかったけれども……今まで踊ったダンスの中で、間違いなく一番楽しかった。
そして思い出す……アルと笑いあったことを。
ハシャラは一人で顔を赤く熱くさせて、誰も見ていないと分かっているのに、布団を顔まで被って隠した。
自分からダンスを誘ったことを恥ずかしく思いながらも、アルの楽しそうな笑顔に……思い出すだけでも、つられて口角が上がってしまう自分がいた。
ゆっくりと布団から顔を出して、枕に頭を置いて天井を眺める。
口角は上がったままだし、眉尻も下がっているが……目元は明かりを灯されたように、愛しいものを見るように輝いていた。
そしてゆっくりと目を閉じると、やはり祭りの楽しげな思い出が浮かぶ。
そんな状態で眠れるだろうかと不安だったが、思っていたよりも身体は疲れていたらしく……不安をよそに、ハシャラはすぐに眠りについた。
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