45 / 56
第六章 私達のパーティー
第四十四話
しおりを挟む
祭りを堪能したハシャラたちは、そろそろ屋敷に戻ろうかという話になり、祭りの代表者である領民たちに挨拶をしに向かった。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
ハシャラが満面の笑みでそう告げると、領民たちも満足そうな笑みを浮かべていた。
「楽しんでいただけて何よりです。我々も楽しかったです」
「俺も楽しかったー!」
テンは両手を天にかざしながら、伸びをするようにやりきった笑みを浮かべていた。
そして領民たちも、満足げな笑みと感想を述べながら、ちらほらと帰る準備を始めた。
「祭りの片付けは、明日にするか」
「そうだな。今日は楽しかったーだけで終わろう!」
その中には、こんな話をする者もいた。
「祭りのためにつくった屋台の木材は、細かくして各家庭の薪にしよう」
「そうだな。ただ子供たちと一緒につくった飾りや木彫りの置物は無くしたくないから、来年のために倉庫で取っておこう」
「来年か……そうだな。楽しみだな」
そんなやり取りを聞きながら、ハシャラは祭りが終わったばかりだというのに、すでに来年の祭りが楽しみになっていた。
「来年も楽しみです……」
だから独り言のように、そう呟いていた。
会話をしていた領民たちには聞こえなかったらしい。
「楽しみだな……」
けれどアルにだけは聞こえていたらしく、独り言のような小声で返してくれていた。
祭りが終わり、明かりが消された祭り会場を眺めながら、そんなやり取りをした。
そして名残惜しそうに、ハシャラは村を後にして屋敷へと戻った。
「今日は楽しかったです。アル様も、ありがとうございました」
屋敷に戻ってすぐ、玄関ホールでハシャラがアルにそんな言葉を投げかけた。
それにアルは驚いた様子だったが、すぐに苦笑を浮かべて答える。
「俺は何もしていないよ。全ては領民たちの力さ」
アルの言葉を聞いたハシャラは、俯きながらさらに言葉を続ける。
「もちろん、領民のおかげもありますが……その、一緒にダンスを踊ってくださったので……」
俯くハシャラの頬が赤い。
どうやら今更ながら、アルを無理やりダンスに誘ったことを少しだけ恥ずかしく思っているらしかった。
そんなハシャラを見て、アルは目をパチパチと瞬かせたかと思うと、すぐに堪えきれないという様子で笑い出した。
それにハシャラはむぅ……と何も言えず、ただ顔を赤くして眉尻を下げて俯いていた。
「俺も楽しかったからいいさ」
それを見たアルは、笑って満足したのか眉尻を下げながら微笑んで、ハシャラの頭を撫でる。
頭を撫でられたことで、ハシャラの顔は湯気が出そうなほど、さらに赤く熱くなった。
そんなハシャラを見て、アルはまた楽しそうにクックックと笑っていた。
しばらくそうしていたが、このままでは終わりがないと感じたのか、アルが先に口を開いた。
「じゃあ、そろそろ休もうか。おやすみ、ハシャラ」
アルの言葉を聞いたハシャラは、まだ顔は赤いものの慌てて顔を上げて、返事をする。
「は、はい。おやすみなさいませ、アル様」
そうして二人は玄関ホールから、各々の部屋へと戻っていった。
祭りにかなりの時間いたので、もう時間はすっかり夜だ。
出店の料理をかなり食べたので、夕食の必要もなさそうだった。
「今日はもう湯浴みをして、お休みになりますか?」
「はい、そうします」
自室へと戻る道中、ナラに尋ねられたハシャラは同意する。
そして部屋に戻ると、すぐに湯浴みをして……寝間着に着替えて、寝支度をして、ベッドへと入った。
「おやすみなさいませ、姫様」
「おやすみなさい、ナラ」
眠る前のいつものやり取りをして、ナラが明かりを持って部屋を出ていった。
部屋は窓からさす月明かりしかなく、一気に薄暗くなる。
「今日は、本当に楽しかったですね……」
薄暗い自室、ベッドに横たわるハシャラは、心が楽しさでいっぱいに満たされていて……たまらず、口から心の声が漏れ出ていた。
誰に言うでもない独り言。
そして誰に見せるでもなく、ハシャラはふーっと息を吐きながら、満足げな笑みを浮かべていた。
頭と心の中は、今日の収穫祭のことでいっぱいだった。
目をつぶれば、すぐに領民とテンたちの笑顔と出店での美味しい食べ物、明かりの灯された祭りの光景が思い浮かぶ。
そして楽しかったアルとのダンス。
知らないダンスでうまく踊れず、ステップも何もあったものではなかったけれども……今まで踊ったダンスの中で、間違いなく一番楽しかった。
そして思い出す……アルと笑いあったことを。
ハシャラは一人で顔を赤く熱くさせて、誰も見ていないと分かっているのに、布団を顔まで被って隠した。
自分からダンスを誘ったことを恥ずかしく思いながらも、アルの楽しそうな笑顔に……思い出すだけでも、つられて口角が上がってしまう自分がいた。
ゆっくりと布団から顔を出して、枕に頭を置いて天井を眺める。
口角は上がったままだし、眉尻も下がっているが……目元は明かりを灯されたように、愛しいものを見るように輝いていた。
そしてゆっくりと目を閉じると、やはり祭りの楽しげな思い出が浮かぶ。
そんな状態で眠れるだろうかと不安だったが、思っていたよりも身体は疲れていたらしく……不安をよそに、ハシャラはすぐに眠りについた。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
ハシャラが満面の笑みでそう告げると、領民たちも満足そうな笑みを浮かべていた。
「楽しんでいただけて何よりです。我々も楽しかったです」
「俺も楽しかったー!」
テンは両手を天にかざしながら、伸びをするようにやりきった笑みを浮かべていた。
そして領民たちも、満足げな笑みと感想を述べながら、ちらほらと帰る準備を始めた。
「祭りの片付けは、明日にするか」
「そうだな。今日は楽しかったーだけで終わろう!」
その中には、こんな話をする者もいた。
「祭りのためにつくった屋台の木材は、細かくして各家庭の薪にしよう」
「そうだな。ただ子供たちと一緒につくった飾りや木彫りの置物は無くしたくないから、来年のために倉庫で取っておこう」
「来年か……そうだな。楽しみだな」
そんなやり取りを聞きながら、ハシャラは祭りが終わったばかりだというのに、すでに来年の祭りが楽しみになっていた。
「来年も楽しみです……」
だから独り言のように、そう呟いていた。
会話をしていた領民たちには聞こえなかったらしい。
「楽しみだな……」
けれどアルにだけは聞こえていたらしく、独り言のような小声で返してくれていた。
祭りが終わり、明かりが消された祭り会場を眺めながら、そんなやり取りをした。
そして名残惜しそうに、ハシャラは村を後にして屋敷へと戻った。
「今日は楽しかったです。アル様も、ありがとうございました」
屋敷に戻ってすぐ、玄関ホールでハシャラがアルにそんな言葉を投げかけた。
それにアルは驚いた様子だったが、すぐに苦笑を浮かべて答える。
「俺は何もしていないよ。全ては領民たちの力さ」
アルの言葉を聞いたハシャラは、俯きながらさらに言葉を続ける。
「もちろん、領民のおかげもありますが……その、一緒にダンスを踊ってくださったので……」
俯くハシャラの頬が赤い。
どうやら今更ながら、アルを無理やりダンスに誘ったことを少しだけ恥ずかしく思っているらしかった。
そんなハシャラを見て、アルは目をパチパチと瞬かせたかと思うと、すぐに堪えきれないという様子で笑い出した。
それにハシャラはむぅ……と何も言えず、ただ顔を赤くして眉尻を下げて俯いていた。
「俺も楽しかったからいいさ」
それを見たアルは、笑って満足したのか眉尻を下げながら微笑んで、ハシャラの頭を撫でる。
頭を撫でられたことで、ハシャラの顔は湯気が出そうなほど、さらに赤く熱くなった。
そんなハシャラを見て、アルはまた楽しそうにクックックと笑っていた。
しばらくそうしていたが、このままでは終わりがないと感じたのか、アルが先に口を開いた。
「じゃあ、そろそろ休もうか。おやすみ、ハシャラ」
アルの言葉を聞いたハシャラは、まだ顔は赤いものの慌てて顔を上げて、返事をする。
「は、はい。おやすみなさいませ、アル様」
そうして二人は玄関ホールから、各々の部屋へと戻っていった。
祭りにかなりの時間いたので、もう時間はすっかり夜だ。
出店の料理をかなり食べたので、夕食の必要もなさそうだった。
「今日はもう湯浴みをして、お休みになりますか?」
「はい、そうします」
自室へと戻る道中、ナラに尋ねられたハシャラは同意する。
そして部屋に戻ると、すぐに湯浴みをして……寝間着に着替えて、寝支度をして、ベッドへと入った。
「おやすみなさいませ、姫様」
「おやすみなさい、ナラ」
眠る前のいつものやり取りをして、ナラが明かりを持って部屋を出ていった。
部屋は窓からさす月明かりしかなく、一気に薄暗くなる。
「今日は、本当に楽しかったですね……」
薄暗い自室、ベッドに横たわるハシャラは、心が楽しさでいっぱいに満たされていて……たまらず、口から心の声が漏れ出ていた。
誰に言うでもない独り言。
そして誰に見せるでもなく、ハシャラはふーっと息を吐きながら、満足げな笑みを浮かべていた。
頭と心の中は、今日の収穫祭のことでいっぱいだった。
目をつぶれば、すぐに領民とテンたちの笑顔と出店での美味しい食べ物、明かりの灯された祭りの光景が思い浮かぶ。
そして楽しかったアルとのダンス。
知らないダンスでうまく踊れず、ステップも何もあったものではなかったけれども……今まで踊ったダンスの中で、間違いなく一番楽しかった。
そして思い出す……アルと笑いあったことを。
ハシャラは一人で顔を赤く熱くさせて、誰も見ていないと分かっているのに、布団を顔まで被って隠した。
自分からダンスを誘ったことを恥ずかしく思いながらも、アルの楽しそうな笑顔に……思い出すだけでも、つられて口角が上がってしまう自分がいた。
ゆっくりと布団から顔を出して、枕に頭を置いて天井を眺める。
口角は上がったままだし、眉尻も下がっているが……目元は明かりを灯されたように、愛しいものを見るように輝いていた。
そしてゆっくりと目を閉じると、やはり祭りの楽しげな思い出が浮かぶ。
そんな状態で眠れるだろうかと不安だったが、思っていたよりも身体は疲れていたらしく……不安をよそに、ハシャラはすぐに眠りについた。
10
更新の励みになりますので
お気に入り登録・しおり・感想・エールを
ぜひよろしくお願いいたします(*´ω`*)
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる