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第六章 私達のパーティー
第四十三話
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そうして領民たちが準備を進めて、ハシャラがそれを眺めてという日々をいくらか過ごしたある日、ハシャラのもとに領民たちから手紙が届いた。
内容を要約すると『明日の夕方、村で収穫祭を開くのでぜひご参加ください』というものだった。
ハシャラは手紙を受け取って朝から夕方になるまで、ずっとソワソワワクワクしていた。
それはもう……普段騒がしいクモに「姫様、少しは落ち着きなさいん」と言われるほどだった。
そして待ちに待った夕方がやってきた。
日が沈む頃、ハシャラは足早にアルのいる執務室を訪れる。
コンコンっとノックして、アルが「どうぞ」と答えるのとほぼ同時に扉を開いた。
「アル様、夕方になりました。早速お祭りに行きませんか?」
「う、うむ。そうだな」
ハシャラの勢いに押され気味になりながらも、アルが同意の返事をすると、ハシャラはにっこりと笑みを見せる。
そしてアルとハシャラは、護衛のハチと侍女のナラを連れて村へとやってきた。
準備を度々見に来ていたが、最後の仕上げの方は「当日のお楽しみ!」と言われて見られなかったので、完成形を見るのはこのときが初めてだった。
村を見た瞬間、ハシャラは大きく目を見開いた。
普段は夜になると暗くなる村には、屋台に灯された明かり・木彫りの置物の中からのぞく明かり・木を組み合わせて作られたタワー状の焚き火が、辺りを明るく照らしていた。
ハシャラはその道を、明かりに灯されながらゆっくりと歩いて辺りを見回す。
道の両サイドには数軒の屋台が建ち並び、屋台からは一様に食べ物の良い香りが漂っている。
出店していない領民たちも数多くいて、その人たちは出店の食べ物を食べ歩きしているようだった。
屋台で出ている料理は、収穫祭という名をしているだけあって、ケンゾンで収穫した野菜や牛乳が使われているものが多かった。
牛乳にはちみつとレモンの絞り汁を入れた飲み物、茹でた芋を潰して餅状にしたものを焼いた食べ物、たっぷりの野菜を煮込んだスープ。
どれも美味しそうで、ハシャラはそれぞれのお店で四つずつ購入していた。
買ったものをアル・ナラ・ハチに分けて、ハシャラは自らもそれらを口に運んで、満足げな笑みを浮かべていた。
普段の料理も美味しいが、普段食べない料理……いわゆる平民の食べる食べ物は、材料はハシャラがいつも食べている野菜と同じはずなのに、いつも以上に美味しく感じられた。
食べ物を販売していない屋台であっても、やはり野菜に関係のあるものが販売されている。
顔のような穴を開けて、野菜の中身をそこから慎重に取り出してつくったらしい置物もあった。
ハシャラは祭りの思い出にと、小さな置物を一つ購入する。
最初は嬉しそうに手に持っていたが、しばらくするとナラが「屋敷に戻るまでお預かりいたします」と言い、寂しそうにするハシャラから置物を受け取った。
少しだけしょんぼりとしたハシャラを、アルが慰めつつ、前方を見るように促す。
するとそこには祭りの終着点……タワー状に組み立てられた焚き火の周りで、領民たちが笑顔でダンスを踊っていた。
そばでは楽器も演奏されていて、出店を楽しんでいたときからずっと微かに聞こえていた、楽しげな音楽が聞こえてくる。
それを見たハシャラは、リズムに合わせて身体を揺らしていたかと思うと、たまらずといった様子でアルの手を引いてそこに混ざりに行く。
「私達も踊りましょう!」
「えっ!? お、おい……」
笑顔で手を引くハシャラに、困惑するアルだったが、手を振りほどくことはしなかった。
そしてダンスの輪の中に入ると、周りを見ながら見様見真似でダンスを踊る。
普段の上品で優雅なダンスとは違い、ポップで陽気なダンスに、ハシャラは「うまく踊れないです」と言いながらも満面の笑みを浮かべていた。
それはアルも同様で、普段踊ったことがない踊りに困惑しながら、何とかハシャラや周囲に合わせていた。
それを見たハシャラは、ふふふっと楽しそうな笑みをこぼしながらアルに話しかける。
「舞踏会のときよりお上手なのではないですか?」
そう言われたアルは、最初は馬鹿にされたのかと『なにくそ』という顔でハシャラを見たが、彼女の顔にそういった悪意のようなものは一切見受けられなかった。
心からの笑みを浮かべているハシャラに、アルは踊りながら見惚れていた。
それを不思議に思ったハシャラが、グリーンの瞳でまっすぐにアルを見つめながら「アル様?」と声をかけると、アルはやっとハッと気がついた様子になる。
そしてアルもフッと笑みをこぼして答える。
「昔、ダンスを習っていたおかげかもな」
その言葉を聞いたハシャラは、楽しげな笑みを浮かべながら同意する。
「私も同じなので分かります。何と言っても……」
そこまで言うと、二人は顔を見合わせて同時に口を開く。
「「ダンスは身体で覚えるですからね(だからな)」」
そう言って、二人は笑い合った。
こんなに笑ったことはないというほど、楽しげに笑っていた。
周りの領民たちも、そんな二人を見て楽しそうにダンスを踊っている。
ハシャラがそれを見て、また嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「……私、ダンスを習っていて良かったです」
「……俺も、同じことを思っていた」
アルも困ったように眉尻を下げながらも、嬉しそうに、楽しげに笑っていた。
正直、先日の舞踏会や大きな街の祭りに比べると、ケンゾンの収穫祭は小規模でささやかなものだった。
けれどハシャラにとっては、いや、アルや領民たちにとっても……今まで参加したどの祭りよりも、楽しい収穫祭だった。
内容を要約すると『明日の夕方、村で収穫祭を開くのでぜひご参加ください』というものだった。
ハシャラは手紙を受け取って朝から夕方になるまで、ずっとソワソワワクワクしていた。
それはもう……普段騒がしいクモに「姫様、少しは落ち着きなさいん」と言われるほどだった。
そして待ちに待った夕方がやってきた。
日が沈む頃、ハシャラは足早にアルのいる執務室を訪れる。
コンコンっとノックして、アルが「どうぞ」と答えるのとほぼ同時に扉を開いた。
「アル様、夕方になりました。早速お祭りに行きませんか?」
「う、うむ。そうだな」
ハシャラの勢いに押され気味になりながらも、アルが同意の返事をすると、ハシャラはにっこりと笑みを見せる。
そしてアルとハシャラは、護衛のハチと侍女のナラを連れて村へとやってきた。
準備を度々見に来ていたが、最後の仕上げの方は「当日のお楽しみ!」と言われて見られなかったので、完成形を見るのはこのときが初めてだった。
村を見た瞬間、ハシャラは大きく目を見開いた。
普段は夜になると暗くなる村には、屋台に灯された明かり・木彫りの置物の中からのぞく明かり・木を組み合わせて作られたタワー状の焚き火が、辺りを明るく照らしていた。
ハシャラはその道を、明かりに灯されながらゆっくりと歩いて辺りを見回す。
道の両サイドには数軒の屋台が建ち並び、屋台からは一様に食べ物の良い香りが漂っている。
出店していない領民たちも数多くいて、その人たちは出店の食べ物を食べ歩きしているようだった。
屋台で出ている料理は、収穫祭という名をしているだけあって、ケンゾンで収穫した野菜や牛乳が使われているものが多かった。
牛乳にはちみつとレモンの絞り汁を入れた飲み物、茹でた芋を潰して餅状にしたものを焼いた食べ物、たっぷりの野菜を煮込んだスープ。
どれも美味しそうで、ハシャラはそれぞれのお店で四つずつ購入していた。
買ったものをアル・ナラ・ハチに分けて、ハシャラは自らもそれらを口に運んで、満足げな笑みを浮かべていた。
普段の料理も美味しいが、普段食べない料理……いわゆる平民の食べる食べ物は、材料はハシャラがいつも食べている野菜と同じはずなのに、いつも以上に美味しく感じられた。
食べ物を販売していない屋台であっても、やはり野菜に関係のあるものが販売されている。
顔のような穴を開けて、野菜の中身をそこから慎重に取り出してつくったらしい置物もあった。
ハシャラは祭りの思い出にと、小さな置物を一つ購入する。
最初は嬉しそうに手に持っていたが、しばらくするとナラが「屋敷に戻るまでお預かりいたします」と言い、寂しそうにするハシャラから置物を受け取った。
少しだけしょんぼりとしたハシャラを、アルが慰めつつ、前方を見るように促す。
するとそこには祭りの終着点……タワー状に組み立てられた焚き火の周りで、領民たちが笑顔でダンスを踊っていた。
そばでは楽器も演奏されていて、出店を楽しんでいたときからずっと微かに聞こえていた、楽しげな音楽が聞こえてくる。
それを見たハシャラは、リズムに合わせて身体を揺らしていたかと思うと、たまらずといった様子でアルの手を引いてそこに混ざりに行く。
「私達も踊りましょう!」
「えっ!? お、おい……」
笑顔で手を引くハシャラに、困惑するアルだったが、手を振りほどくことはしなかった。
そしてダンスの輪の中に入ると、周りを見ながら見様見真似でダンスを踊る。
普段の上品で優雅なダンスとは違い、ポップで陽気なダンスに、ハシャラは「うまく踊れないです」と言いながらも満面の笑みを浮かべていた。
それはアルも同様で、普段踊ったことがない踊りに困惑しながら、何とかハシャラや周囲に合わせていた。
それを見たハシャラは、ふふふっと楽しそうな笑みをこぼしながらアルに話しかける。
「舞踏会のときよりお上手なのではないですか?」
そう言われたアルは、最初は馬鹿にされたのかと『なにくそ』という顔でハシャラを見たが、彼女の顔にそういった悪意のようなものは一切見受けられなかった。
心からの笑みを浮かべているハシャラに、アルは踊りながら見惚れていた。
それを不思議に思ったハシャラが、グリーンの瞳でまっすぐにアルを見つめながら「アル様?」と声をかけると、アルはやっとハッと気がついた様子になる。
そしてアルもフッと笑みをこぼして答える。
「昔、ダンスを習っていたおかげかもな」
その言葉を聞いたハシャラは、楽しげな笑みを浮かべながら同意する。
「私も同じなので分かります。何と言っても……」
そこまで言うと、二人は顔を見合わせて同時に口を開く。
「「ダンスは身体で覚えるですからね(だからな)」」
そう言って、二人は笑い合った。
こんなに笑ったことはないというほど、楽しげに笑っていた。
周りの領民たちも、そんな二人を見て楽しそうにダンスを踊っている。
ハシャラがそれを見て、また嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「……私、ダンスを習っていて良かったです」
「……俺も、同じことを思っていた」
アルも困ったように眉尻を下げながらも、嬉しそうに、楽しげに笑っていた。
正直、先日の舞踏会や大きな街の祭りに比べると、ケンゾンの収穫祭は小規模でささやかなものだった。
けれどハシャラにとっては、いや、アルや領民たちにとっても……今まで参加したどの祭りよりも、楽しい収穫祭だった。
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