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第六章 私達のパーティー
第四十二話
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「おーい。こっちにも木材くれー」
「ここの飾り付け、上手にできてるわね」
「あっ、そこは僕がつくったんだよ。あっちはテンがね」
領民たちがケンゾンの村で慌ただしく、されど楽しげに作業している姿を、ハシャラは微笑ましく眺めていた。
男性の領民とテンたちは村の道の両サイドに、トンテンカンと木材を打ち合わせ、それぞれが小さな屋台を建てていた。
料理に自信のある領民の女性たちは一つの家に集まって、屋台で出す料理の研究をしていた。
そのせいか、家からは良い香りが漂ってきて……ハシャラは思わず、その香りに目を細めて頬を赤らめながら夢中になる。
他の領民たちと子供たちは、家の屋根の縁に旗のような飾りをぶら下げたり、木を削って作った野菜型の置物を置いたりしていた。
ハシャラはそれらを微笑ましく、優しい眼差しで見つめていた。
そんなハシャラのそばを、花の鉢植えを抱えたミツとミミズが通りかかる。
「おや、姫様。また祭りの準備を見に来たんですだか?」
声をかけられたハシャラは、ミミズたちの方に笑顔を向けて答える。
「えぇ。楽しみで……屋敷にいても落ち着かないのです」
子どものように瞳を輝かせ、ワクワクを隠せずにいるハシャラに、ミミズは「そうですだか」と微笑ましげに笑っていた。
「でも姫様は見てるだけだからね。手は出しちゃダメだよ」
たまたま通りかかったテンが、笑顔でそんなことを言う。
ハシャラが「分かっています」と眉尻を下げながら笑って答えると、テンは「楽しみにしててね」と言って去っていった。
言われずとも、正直なところ……ハシャラに協力できることなどないだろうとも思っていたが、それはあえて言わずにおいた。
それでもハシャラは、その光景を目に焼き付けるために、度々村を訪れていた。
そして呟く。
「楽しみですね……」
――もうすぐケンゾンでは、収穫祭が開かれる。
ハシャラとアルが王城主催の舞踏会に招かれたことを知った領民たちが、自分たちも二人のために祭りを開こうと言い出したのがことの始まりだった。
最初はそんなちょっとした提案だったが、その話はあっという間に領民たちの間に広がっていき、そして賛成の声で溢れかえったのである。
領民の一人が「何の祭りにしようか」と言うと、誰かが「収穫が落ち着いたところだったし、収穫祭にしよう」と答えた。
領民の一人が「どんなことをしようか」と言うと、誰かが「収穫した野菜を使った料理を振る舞う屋台を出したり、音楽を奏でたり、ダンスを踊ったりしよう」と答えた。
そうして誰かの言葉に誰かが答えて……気がついたら、祭りの計画書が出来上がっていた。
そしてそれを持って村の代表者たち数名が、ハシャラの屋敷を訪れる。
村人たちの訪問を不思議に思いつつも、ハシャラは領民たちを応接室に通す。
「え? お祭り……ですか?」
祭りについて説明を始めた領民たちの言葉に、ハシャラは最初、驚いて目を見開いてパチパチと瞬くことしかできずにいた。
「はい。今年の豊作を祝い、来年の豊作を願う収穫祭を開催したいと考えています」
こんな提案をするなんて初めてのことなのか、緊張した面持ちで領民が答える。
ハシャラは「なるほど」と、口元に手をやって考え込む。
「準備は俺たちがするから、姫様たちにはそれに参加してほしいんだ」
それに領民に同行していたテンが、口添えをした。
「そうなのですか?」
ハシャラが尋ね返すと、テンはうんうんと頷く。
「皆で作った野菜を持ち寄って、皆で協力して屋台を作って……そうして祭りを作り上げて、それを姫様たちに楽しんでいただきたいのです」
領民の一人が穏やかな笑顔でそう告げると、ハシャラはまた驚いたが、領民の思いを感じて嬉しくなり、自然と笑顔になって答える。
「そういうことでしたら……お任せいたします。素敵なお祭りを楽しみにしていますね」
「「「はい!」」」
ハシャラの答えを聞いた領民たちは元気に返事をして、そして「失礼いたします」と告げて屋敷を去っていった。
領民たちが去った後、ハシャラは上機嫌にソファのクッションを力強く抱きしめる。
話し合いに同席していたアルが、そんなハシャラを見てフッと笑みをこぼす。
「そんなに楽しみなのか?」
「はい! ケンゾンで祭りをするのは初めてのことですからね」
アルはハシャラの勢いに、楽しそうに笑いながら言葉を続ける。
「まさか領民たちから提案してもらえるとは思わなかったな」
「えぇ! それも私には嬉しいのです。自主的に何かを考える余裕が生まれたこと……それだけでも嬉しいのに、まさか私のことまで考えてくれているなんて」
ハシャラはクッションに顔を埋めて、少しだけ目元を潤ませながらそう言う。
アルはそんなハシャラを見て、微笑ましげに笑って、呟くように言う。
「……楽しみだな」
「……はい」
その言葉を聞いて、ハシャラはもう完全にクッションに顔を埋めながら答えた。
まるで幼い頃、誕生日のパーティーを楽しみに待っていたときのようだと、すでに淑女となっているハシャラは我ながら恥ずかしく思いながらも、ワクワクが止まらなかった。
「ここの飾り付け、上手にできてるわね」
「あっ、そこは僕がつくったんだよ。あっちはテンがね」
領民たちがケンゾンの村で慌ただしく、されど楽しげに作業している姿を、ハシャラは微笑ましく眺めていた。
男性の領民とテンたちは村の道の両サイドに、トンテンカンと木材を打ち合わせ、それぞれが小さな屋台を建てていた。
料理に自信のある領民の女性たちは一つの家に集まって、屋台で出す料理の研究をしていた。
そのせいか、家からは良い香りが漂ってきて……ハシャラは思わず、その香りに目を細めて頬を赤らめながら夢中になる。
他の領民たちと子供たちは、家の屋根の縁に旗のような飾りをぶら下げたり、木を削って作った野菜型の置物を置いたりしていた。
ハシャラはそれらを微笑ましく、優しい眼差しで見つめていた。
そんなハシャラのそばを、花の鉢植えを抱えたミツとミミズが通りかかる。
「おや、姫様。また祭りの準備を見に来たんですだか?」
声をかけられたハシャラは、ミミズたちの方に笑顔を向けて答える。
「えぇ。楽しみで……屋敷にいても落ち着かないのです」
子どものように瞳を輝かせ、ワクワクを隠せずにいるハシャラに、ミミズは「そうですだか」と微笑ましげに笑っていた。
「でも姫様は見てるだけだからね。手は出しちゃダメだよ」
たまたま通りかかったテンが、笑顔でそんなことを言う。
ハシャラが「分かっています」と眉尻を下げながら笑って答えると、テンは「楽しみにしててね」と言って去っていった。
言われずとも、正直なところ……ハシャラに協力できることなどないだろうとも思っていたが、それはあえて言わずにおいた。
それでもハシャラは、その光景を目に焼き付けるために、度々村を訪れていた。
そして呟く。
「楽しみですね……」
――もうすぐケンゾンでは、収穫祭が開かれる。
ハシャラとアルが王城主催の舞踏会に招かれたことを知った領民たちが、自分たちも二人のために祭りを開こうと言い出したのがことの始まりだった。
最初はそんなちょっとした提案だったが、その話はあっという間に領民たちの間に広がっていき、そして賛成の声で溢れかえったのである。
領民の一人が「何の祭りにしようか」と言うと、誰かが「収穫が落ち着いたところだったし、収穫祭にしよう」と答えた。
領民の一人が「どんなことをしようか」と言うと、誰かが「収穫した野菜を使った料理を振る舞う屋台を出したり、音楽を奏でたり、ダンスを踊ったりしよう」と答えた。
そうして誰かの言葉に誰かが答えて……気がついたら、祭りの計画書が出来上がっていた。
そしてそれを持って村の代表者たち数名が、ハシャラの屋敷を訪れる。
村人たちの訪問を不思議に思いつつも、ハシャラは領民たちを応接室に通す。
「え? お祭り……ですか?」
祭りについて説明を始めた領民たちの言葉に、ハシャラは最初、驚いて目を見開いてパチパチと瞬くことしかできずにいた。
「はい。今年の豊作を祝い、来年の豊作を願う収穫祭を開催したいと考えています」
こんな提案をするなんて初めてのことなのか、緊張した面持ちで領民が答える。
ハシャラは「なるほど」と、口元に手をやって考え込む。
「準備は俺たちがするから、姫様たちにはそれに参加してほしいんだ」
それに領民に同行していたテンが、口添えをした。
「そうなのですか?」
ハシャラが尋ね返すと、テンはうんうんと頷く。
「皆で作った野菜を持ち寄って、皆で協力して屋台を作って……そうして祭りを作り上げて、それを姫様たちに楽しんでいただきたいのです」
領民の一人が穏やかな笑顔でそう告げると、ハシャラはまた驚いたが、領民の思いを感じて嬉しくなり、自然と笑顔になって答える。
「そういうことでしたら……お任せいたします。素敵なお祭りを楽しみにしていますね」
「「「はい!」」」
ハシャラの答えを聞いた領民たちは元気に返事をして、そして「失礼いたします」と告げて屋敷を去っていった。
領民たちが去った後、ハシャラは上機嫌にソファのクッションを力強く抱きしめる。
話し合いに同席していたアルが、そんなハシャラを見てフッと笑みをこぼす。
「そんなに楽しみなのか?」
「はい! ケンゾンで祭りをするのは初めてのことですからね」
アルはハシャラの勢いに、楽しそうに笑いながら言葉を続ける。
「まさか領民たちから提案してもらえるとは思わなかったな」
「えぇ! それも私には嬉しいのです。自主的に何かを考える余裕が生まれたこと……それだけでも嬉しいのに、まさか私のことまで考えてくれているなんて」
ハシャラはクッションに顔を埋めて、少しだけ目元を潤ませながらそう言う。
アルはそんなハシャラを見て、微笑ましげに笑って、呟くように言う。
「……楽しみだな」
「……はい」
その言葉を聞いて、ハシャラはもう完全にクッションに顔を埋めながら答えた。
まるで幼い頃、誕生日のパーティーを楽しみに待っていたときのようだと、すでに淑女となっているハシャラは我ながら恥ずかしく思いながらも、ワクワクが止まらなかった。
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