蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

文字の大きさ
上 下
43 / 56
第六章 私達のパーティー

第四十二話

しおりを挟む
「おーい。こっちにも木材くれー」

「ここの飾り付け、上手にできてるわね」

「あっ、そこは僕がつくったんだよ。あっちはテンがね」

 領民たちがケンゾンの村で慌ただしく、されど楽しげに作業している姿を、ハシャラは微笑ましく眺めていた。

 男性の領民とテンたちは村の道の両サイドに、トンテンカンと木材を打ち合わせ、それぞれが小さな屋台を建てていた。

 料理に自信のある領民の女性たちは一つの家に集まって、屋台で出す料理の研究をしていた。

 そのせいか、家からは良い香りが漂ってきて……ハシャラは思わず、その香りに目を細めて頬を赤らめながら夢中になる。

 他の領民たちと子供たちは、家の屋根の縁に旗のような飾りをぶら下げたり、木を削って作った野菜型の置物を置いたりしていた。

 ハシャラはそれらを微笑ましく、優しい眼差しで見つめていた。

 そんなハシャラのそばを、花の鉢植えを抱えたミツとミミズが通りかかる。

「おや、姫様。また祭りの準備を見に来たんですだか?」

 声をかけられたハシャラは、ミミズたちの方に笑顔を向けて答える。

「えぇ。楽しみで……屋敷にいても落ち着かないのです」

 子どものように瞳を輝かせ、ワクワクを隠せずにいるハシャラに、ミミズは「そうですだか」と微笑ましげに笑っていた。

「でも姫様は見てるだけだからね。手は出しちゃダメだよ」

 たまたま通りかかったテンが、笑顔でそんなことを言う。

 ハシャラが「分かっています」と眉尻を下げながら笑って答えると、テンは「楽しみにしててね」と言って去っていった。

 言われずとも、正直なところ……ハシャラに協力できることなどないだろうとも思っていたが、それはあえて言わずにおいた。

 それでもハシャラは、その光景を目に焼き付けるために、度々村を訪れていた。

 そして呟く。

「楽しみですね……」

 ――もうすぐケンゾンでは、収穫祭が開かれる。

 ハシャラとアルが王城主催の舞踏会に招かれたことを知った領民たちが、自分たちも二人のために祭りを開こうと言い出したのがことの始まりだった。

 最初はそんなちょっとした提案だったが、その話はあっという間に領民たちの間に広がっていき、そして賛成の声で溢れかえったのである。

 領民の一人が「何の祭りにしようか」と言うと、誰かが「収穫が落ち着いたところだったし、収穫祭にしよう」と答えた。

 領民の一人が「どんなことをしようか」と言うと、誰かが「収穫した野菜を使った料理を振る舞う屋台を出したり、音楽を奏でたり、ダンスを踊ったりしよう」と答えた。

 そうして誰かの言葉に誰かが答えて……気がついたら、祭りの計画書が出来上がっていた。

 そしてそれを持って村の代表者たち数名が、ハシャラの屋敷を訪れる。

 村人たちの訪問を不思議に思いつつも、ハシャラは領民たちを応接室に通す。

「え? お祭り……ですか?」

 祭りについて説明を始めた領民たちの言葉に、ハシャラは最初、驚いて目を見開いてパチパチと瞬くことしかできずにいた。

「はい。今年の豊作を祝い、来年の豊作を願う収穫祭を開催したいと考えています」

 こんな提案をするなんて初めてのことなのか、緊張した面持ちで領民が答える。

 ハシャラは「なるほど」と、口元に手をやって考え込む。

「準備は俺たちがするから、姫様たちにはそれに参加してほしいんだ」

 それに領民に同行していたテンが、口添えをした。

「そうなのですか?」

 ハシャラが尋ね返すと、テンはうんうんと頷く。

「皆で作った野菜を持ち寄って、皆で協力して屋台を作って……そうして祭りを作り上げて、それを姫様たちに楽しんでいただきたいのです」

 領民の一人が穏やかな笑顔でそう告げると、ハシャラはまた驚いたが、領民の思いを感じて嬉しくなり、自然と笑顔になって答える。

「そういうことでしたら……お任せいたします。素敵なお祭りを楽しみにしていますね」

「「「はい!」」」

 ハシャラの答えを聞いた領民たちは元気に返事をして、そして「失礼いたします」と告げて屋敷を去っていった。

 領民たちが去った後、ハシャラは上機嫌にソファのクッションを力強く抱きしめる。

 話し合いに同席していたアルが、そんなハシャラを見てフッと笑みをこぼす。

「そんなに楽しみなのか?」

「はい! ケンゾンで祭りをするのは初めてのことですからね」

 アルはハシャラの勢いに、楽しそうに笑いながら言葉を続ける。

「まさか領民たちから提案してもらえるとは思わなかったな」

「えぇ! それも私には嬉しいのです。自主的に何かを考える余裕が生まれたこと……それだけでも嬉しいのに、まさか私のことまで考えてくれているなんて」

 ハシャラはクッションに顔を埋めて、少しだけ目元を潤ませながらそう言う。

 アルはそんなハシャラを見て、微笑ましげに笑って、呟くように言う。

「……楽しみだな」

「……はい」

 その言葉を聞いて、ハシャラはもう完全にクッションに顔を埋めながら答えた。

 まるで幼い頃、誕生日のパーティーを楽しみに待っていたときのようだと、すでに淑女となっているハシャラは我ながら恥ずかしく思いながらも、ワクワクが止まらなかった。
しおりを挟む

更新の励みになりますので
お気に入り登録・しおり・感想・エールを
ぜひよろしくお願いいたします(*´ω`*)

感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...