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第六章 私達のパーティー
第四十一話
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数日後、ハシャラとアルはケンゾンまで戻ってきた。
ケンゾンの入口につくと、警護のために立っていたハチが「おかえりなさいませ」と言いながら頭を下げる。
馬車で村を通りがかると、働いていた領民とテンたちが「あっ、領主様だ! おかえりなさい」「領主補佐様もいる! おかえりなさい」「おかえりー、姫様」と出迎えてくれた。
馬車の窓から領民とテンたちの笑顔を見て、声を聞くと……ハシャラの中に、帰ってきたという実感が湧いてきた。
遠くの方にはミミズやミツもいて、笑顔で手を振ってくれていた。
「只今戻りました、皆さん」
そう呟きながら、ハシャラは皆に向けて窓から手を振った。
ちらりとアルの方を見やると、彼も嬉しそうに馬車の窓から外を眺めながら手を振っていた。
それも含めて……帰ってきたのだなと感じる。
「おかえりなさいませ、姫様」
屋敷に着くと、屋敷の警護にあたっていたハチたちが並んで立っていて、出迎えてくれた。
「ただいま戻りました。不在の間も警護、ありがとうございました」
馬車を降りながら、ハシャラがそう伝える。
するとハチたちは「もったいないお言葉」と、頭を少し下げながら目を伏せていた。
その光景を見て、何度でも、帰ってきたのだなと……感じずにはいられなかった。
屋敷に入ると、今度は屋敷中のアリたちが出迎えてくれた。
こんなにこの小さな屋敷で働いてくれていたのかと思うほど、大量のアリたちが玄関ホールに立ち並んでいた。
「「「おかえりなさいませ、姫様」」」
一斉に出迎えられて、少しばかり戸惑いながらハシャラが「た、ただいまです」と答える。
するとアリたちが「お腹は空いておりませんか?」「汚れた衣服から着替えますか?」「もう湯浴みしてお休みになりますか?」と次々に声を掛けてきた。
ハシャラが誰から、なんと答えるべきか戸惑っていると、ナラがパンパンッと手を叩いてそれを制止する。
「お疲れの姫様に一度にお声がけをするものではない」
するとアリたちはぴたりと声と動きを止めたが、珍しく口先を尖らせて不服そうな目をしてナラを見やる。
「……ナラは姫様とずっと一緒だったから、そんなことが言えるのだ」
そう言われて、ナラは驚きながらもはぁ……とため息をつくだけで、それ以上は何も言わなかった。
そしてハシャラはアリたちに流されるままに、湯浴み・着替え・食事とアリたちの要望通りにこなしていった。
疲れてはいたが、珍しくワガママのようなことを言ってくれたアリたちが可愛くて、ハシャラは流れに身を任せた。
全てを済ませてアリたちが満足げな様子を浮かべていて、ハシャラは少しだけぐったりとしながら、やっとゆっくりできると談話室までやってきていた。
そこでナラに紅茶を入れてもらって、ゆっくりとソファに腰を落ち着けながら口に運ぶ。
「あら、姫様。やっと解放されたのん?」
するとクモがドアの向こうから、ひょっこりと顔を出した。
どうやらハシャラがアリたちのために身を任せているのを見ていて、それが終わるのを待っていたらしかった。
部屋に入ってくると、とふっとソファに腰を下ろす。
「解放なんて……ただお世話してもらっていただけです」
「旅帰りにすぐすることじゃないと思うけどねん」
苦笑しながらも否定するハシャラに、クモは満面の笑みで答えた。
それにハシャラが何も返せずにいると、クモがキョロキョロしたかと思うと口を開く。
「あれ、アルはん?」
そう言われて、ハシャラは紅茶のカップをテーブルに置いて答える。
「執務室に行かれたわ。王城にいた間に、領地がどうなっていたか把握しておきたいと……」
「もう働いてるのん!?」
ハシャラの返答に、クモは驚きの表情を浮かべる。
「今日くらいはゆっくりなさってはと、お止めしたのだけれど……」
クモの驚きに、ハシャラも呆れ気味に同意する。
「明日は村に行って、領民たちの話も聞きたいとのことです」
「ワーカーホリックねん」
ハシャラはクモの言葉を否定することはできなかった。
今日くらいは休んではと提案した時に見た、やりがいを感じているアルの顔を思い出すと……ハシャラは困ったように笑いながらも、それでこそアルだとも思っていた。
「あっ、言い忘れてたわん」
ハシャラが苦笑していると、クモが何かを思い出したように声を漏らす。
不思議に思いながらハシャラがクモを見つめていると、彼女はふわっと穏やかな笑みを浮かべながら口を開く。
「……おかえりなさい、姫様ん」
そう言われたハシャラは最初驚いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて答える。
「ただいま、クモ」
それだけ言うと満足したのか、クモはソファから立ち上がって背伸びをする。
「あら、どこか行くのですか?」
ハシャラが尋ねると、クモはニコッと微笑みながら答える。
「うん、アルにもおかえりって言いに行くわん」
そう言って、あっという間に部屋から出ていってしまった。
ハシャラはクモの勢いに負けながらも、嬉しそうに笑っているアルの光景を想像して……騒がしい日々に戻ってきたと思いながらも、穏やかに微笑んで紅茶を口に運んだ。
ケンゾンの入口につくと、警護のために立っていたハチが「おかえりなさいませ」と言いながら頭を下げる。
馬車で村を通りがかると、働いていた領民とテンたちが「あっ、領主様だ! おかえりなさい」「領主補佐様もいる! おかえりなさい」「おかえりー、姫様」と出迎えてくれた。
馬車の窓から領民とテンたちの笑顔を見て、声を聞くと……ハシャラの中に、帰ってきたという実感が湧いてきた。
遠くの方にはミミズやミツもいて、笑顔で手を振ってくれていた。
「只今戻りました、皆さん」
そう呟きながら、ハシャラは皆に向けて窓から手を振った。
ちらりとアルの方を見やると、彼も嬉しそうに馬車の窓から外を眺めながら手を振っていた。
それも含めて……帰ってきたのだなと感じる。
「おかえりなさいませ、姫様」
屋敷に着くと、屋敷の警護にあたっていたハチたちが並んで立っていて、出迎えてくれた。
「ただいま戻りました。不在の間も警護、ありがとうございました」
馬車を降りながら、ハシャラがそう伝える。
するとハチたちは「もったいないお言葉」と、頭を少し下げながら目を伏せていた。
その光景を見て、何度でも、帰ってきたのだなと……感じずにはいられなかった。
屋敷に入ると、今度は屋敷中のアリたちが出迎えてくれた。
こんなにこの小さな屋敷で働いてくれていたのかと思うほど、大量のアリたちが玄関ホールに立ち並んでいた。
「「「おかえりなさいませ、姫様」」」
一斉に出迎えられて、少しばかり戸惑いながらハシャラが「た、ただいまです」と答える。
するとアリたちが「お腹は空いておりませんか?」「汚れた衣服から着替えますか?」「もう湯浴みしてお休みになりますか?」と次々に声を掛けてきた。
ハシャラが誰から、なんと答えるべきか戸惑っていると、ナラがパンパンッと手を叩いてそれを制止する。
「お疲れの姫様に一度にお声がけをするものではない」
するとアリたちはぴたりと声と動きを止めたが、珍しく口先を尖らせて不服そうな目をしてナラを見やる。
「……ナラは姫様とずっと一緒だったから、そんなことが言えるのだ」
そう言われて、ナラは驚きながらもはぁ……とため息をつくだけで、それ以上は何も言わなかった。
そしてハシャラはアリたちに流されるままに、湯浴み・着替え・食事とアリたちの要望通りにこなしていった。
疲れてはいたが、珍しくワガママのようなことを言ってくれたアリたちが可愛くて、ハシャラは流れに身を任せた。
全てを済ませてアリたちが満足げな様子を浮かべていて、ハシャラは少しだけぐったりとしながら、やっとゆっくりできると談話室までやってきていた。
そこでナラに紅茶を入れてもらって、ゆっくりとソファに腰を落ち着けながら口に運ぶ。
「あら、姫様。やっと解放されたのん?」
するとクモがドアの向こうから、ひょっこりと顔を出した。
どうやらハシャラがアリたちのために身を任せているのを見ていて、それが終わるのを待っていたらしかった。
部屋に入ってくると、とふっとソファに腰を下ろす。
「解放なんて……ただお世話してもらっていただけです」
「旅帰りにすぐすることじゃないと思うけどねん」
苦笑しながらも否定するハシャラに、クモは満面の笑みで答えた。
それにハシャラが何も返せずにいると、クモがキョロキョロしたかと思うと口を開く。
「あれ、アルはん?」
そう言われて、ハシャラは紅茶のカップをテーブルに置いて答える。
「執務室に行かれたわ。王城にいた間に、領地がどうなっていたか把握しておきたいと……」
「もう働いてるのん!?」
ハシャラの返答に、クモは驚きの表情を浮かべる。
「今日くらいはゆっくりなさってはと、お止めしたのだけれど……」
クモの驚きに、ハシャラも呆れ気味に同意する。
「明日は村に行って、領民たちの話も聞きたいとのことです」
「ワーカーホリックねん」
ハシャラはクモの言葉を否定することはできなかった。
今日くらいは休んではと提案した時に見た、やりがいを感じているアルの顔を思い出すと……ハシャラは困ったように笑いながらも、それでこそアルだとも思っていた。
「あっ、言い忘れてたわん」
ハシャラが苦笑していると、クモが何かを思い出したように声を漏らす。
不思議に思いながらハシャラがクモを見つめていると、彼女はふわっと穏やかな笑みを浮かべながら口を開く。
「……おかえりなさい、姫様ん」
そう言われたハシャラは最初驚いたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて答える。
「ただいま、クモ」
それだけ言うと満足したのか、クモはソファから立ち上がって背伸びをする。
「あら、どこか行くのですか?」
ハシャラが尋ねると、クモはニコッと微笑みながら答える。
「うん、アルにもおかえりって言いに行くわん」
そう言って、あっという間に部屋から出ていってしまった。
ハシャラはクモの勢いに負けながらも、嬉しそうに笑っているアルの光景を想像して……騒がしい日々に戻ってきたと思いながらも、穏やかに微笑んで紅茶を口に運んだ。
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