蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

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第六章 私達のパーティー

第四十話

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「これでハシャラは、俺の正式な婚約者だな」

 壁に寄りかかりながら、上機嫌にシャンパン片手にそう語るアル。

「国王陛下に認められてしまいました……婚約も、婿入りも……そんな今日正式に決まるなんて、私、聞いておりませんでした……」

 ハシャラが壁に項垂れかかりながら、ボソボソと呟くようにそう言う。

「すまんな。今が好機チャンス! と思ってしまってな」

 アルは謝罪を口にしているが、顔はにこやかに微笑んでいて、全く悪びれる様子はなかった。

 ハシャラが知らなかっただけで、ここまでのことは全てアルの計算の内だったのかと、彼に恨めしげな視線を向ける。

 そんなハシャラの視線を受けながらも、アルは笑っている。

「まぁまぁ、そんな顔をするな。ほら、多くの者が見ているぞ」

 そう言われたハシャラは、ゆっくりとした動作で周囲に視線を向ける。

 ハシャラとアルを遠巻きに見つめていた人々が、ハシャラと目が合いそうになると、一斉に何事もなかったかのように顔を背けた。

 ハシャラは貴族令嬢時代にもなかった経験に、ただただため息を漏らしていた。

 そんなハシャラの顔を覗き込むようにしながら、アルは眉尻を下げて尋ねる。

「ハシャラは……そんなに俺の婚約者になるのが嫌か?」

 答えを分かっていながら尋ねていることを、心の内では分かっていた。

 分かっていても、金色に輝く瞳に見つめられて……ハシャラはどうしてもドキッとしてしまっていた。

 そして顔を赤くしながら、不満そうにしながら答える。

「……嫌では、ないです……」

 ハシャラの答えを聞いたアルは満足そうに「そうか」とにこやかに笑っていた。

 この方は……っ!

 ハシャラは不満を口にしようかと思ったが、アルの満足そうな笑みを見ると力が抜けて何も言うことができず、ただ諦めて自分も手にしたシャンパンを口に運んだ。

 そうしていると、パーティーのために招かれた楽団の曲が、ダンスミュージックに変わった。

 中央の辺りで話していた人々はすすすっと移動して場所を開け、逆に婚約者や妻を伴っている人はダンスをするために中央に集まり始めた。

 ハシャラはシャンパンを飲みながら、それをぼんやりと眺めていた。

 すると、アルが楽しげに口を開く。

「俺達も踊りに行くか?」

 しばらく無表情のまま考え込んでいたハシャラは、アルの顔をチラリと見てから、呆れ気味に答える。

「……第二王子が婚約発表の日に踊らなくては、ですからね」

「そういうこと」

 ハシャラの言葉に、アルはニコッと笑みを浮かべて手を差し出す。

 アルの手をハシャラが取ると、二人は道中、シャンパンのグラスをテーブルに置き、自然な動作で中央のダンススペースへと歩いていった。

 そして曲に合わせて、ダンスを踊り始める。

 ゆったりとした曲調に合わせた踊りが、ドレスの裾を、二人の身体を、ゆっくりと揺らす。

 ハシャラは、踊っている最中にも多くの人の視線が集まっているのを肌で感じていた。

 なんだかイラッとしたので、そんな人たちに見せつけるように、あえて満面の笑みを浮かべてダンスを踊るハシャラ。

 そんなハシャラに、ぐいぐいっと引っ張られるようにしながらも、見事なリードを見せるアル。

 けれどアルが、自嘲気味に笑みをこぼすと、小さな声で呟く。

「……ダンスを踊ったのは久しぶりだ。やはり腕が落ちたな」

「あら、そんなことありませんよ。見事な腕前です」

 それにハシャラが、おどけた調子で答える。

 ハシャラの答えを聞いたアルは、曲に合わせながらではあったが、急にターンをさせてきてハシャラを驚かせる。

「ちょっ……アル様っ」

「見事な腕前だろう?」

 アルの言葉を聞いたハシャラは、口は閉じているものの、不満が溢れかえっている視線を彼に向けていた。

 そんなハシャラを見て、アルは楽しそうに笑っていた。

 かと思うと、独り言のように呟き始める。

「……昔は、ダンス教師に『将来のために必要ですから』と言われて、レッスンをみっちり詰め込まれたものだ」

「……私もです」

 ハシャラモ独り言のように答える。

「けれど実際、加護を授かってからは、俺とダンスを踊りたがる者などいない。……あの苦しくも頑張った日々は、何だったのだろうな」

「全くですね」

 ハシャラとアルは、そんなやり取りをしながらダンスを踊っていた。

 婚約したばかりのカップルとは思えない、義務的な……好奇の視線に晒されながら見世物ショーでもしているような、そんな気分になるダンスだった。

 そうしてダンスを終えると、国王陛下に二人揃って「退席させていただきます。今夜は素敵なパーティーでした」と義務的な挨拶をして、ハシャラたちは会場を後にした。

 アルにエスコートしてもらいながら、ハシャラは馬車に乗るために王城の門に向かう。

 その間、二人はなんてことない会話をしていた。

「アル様はいつ頃、ケンゾンにお戻りになりますか?」

「明日の朝にはここを発つから、数日後になるな」

「そんなにタイミングが変わりませんね。それならば明日、私の宿泊している宿まで来ていただいて、そこからは同じ馬車に乗って帰りませんか?」

「なんだ。俺と会えない数日が寂しいか?」

「……そうかもしれません」

 ニヤリとしながらからかってきたアルに、ハシャラは顔を赤くして俯きながら答える。

 するとアルは目を見開いて、驚きの表情を浮かべながらハシャラを見つめる。

 かと思うと、自分も顔を赤くして前に視線を戻した。

「……卑怯だ」

「……なにがですか」

「急に素直になるのは卑怯だ」

「きっと……あのシャンパンのせいですよ……」

「……そうか」

 そんな会話をしていると、あっという間に門まで到着して……ハシャラとアルは「では、また明日」と簡素な挨拶を交わして別れた。

 宿に向かう馬車に乗っている間も、ハシャラの顔は赤くて熱かった。
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