上 下
38 / 56
第六章 私達のパーティー

第三十七話

しおりを挟む
 前もってケンゾンから移動して王都近くの宿に宿泊していたため、来る時には数日かかって苦労したが、舞踏会の会場である王城までは馬車で数時間で行くことができた。

 パーティードレスに身を包み、王城の前まで到着すると、途端に緊張してきて身体が固くなるのを感じる。

 そんなハシャラにナラが声をかける。

「我らがついておりますので、ご安心ください」

 そう言われて、まだ緊張を残しつつも後ろに控えてくれているナラに、ニコッとぎこちない笑みを返した。

 今回の舞踏会には護衛のハチと、侍女のナラがついてきてくれている。

 クモも「面白そうだから行きたいわん」と言っていたが、招待状がない者は最低限の従者以外連れていけないのだと説明すると、渋々納得していた。

 事情を説明して領民たちのことはテンとミミズとミツに、屋敷のことはアリたちに頼んでおいた。

 けれどテンとミミズは『こっちのことは気にせず、楽しんできて』と言い、アリたちからは「屋敷に残るのは虫魔物だけですから、ご心配には及びませんよ」と言われた。

 ハシャラは自分がいなくても思っていたよりも大丈夫そうな彼女たちに、少しだけ寂しさを感じていた。

 そしてケンゾンに残るハチたちには「どうかケンゾンの平和を守ってほしい」と頼み、彼女たちから「お任せください」との返事をもらっていた。

 ハシャラは不安が完全になくなったわけではないけれど、比較的安心してケンゾンを出ることができた。

 ケンゾンの皆の顔を思い出し、背後にいてくれる頼もしい二人を伴って、ハシャラは気合を入れて王城へと足を踏み入れた。

 そしてアルが屋敷を出る前に言っていた通りに、ハシャラはまっすぐに王城の庭園へと向かった。

 薄暗くてよく見えないがキレイな薔薇が妖しく咲き誇り、見事な噴水が魅力的な庭園に到着すると、入口近くでアルの姿が見えた。

 いつものシンプルだが上質な服装も素敵だったが、この夜のアルは王子らしくキラキラと輝く衣装に身を包み、髪の毛もゆるいオールバックにまとめられていた。

 そんなアルが、目を伏せながら庭園の入口に立っている。

 それだけで、肖像画にしてもおかしくないほど絵になっていた。

 ハシャラはいつもと違った雰囲気のアルにドキドキしながらも、勇気を出して声をかける。

「……あ、アル様!」

 ハシャラが声を掛けてアルの方へと小走りで駆け寄ると、アルは「やぁ、久しぶり」といつもの笑顔を見せたかと思うと、ハシャラを見て驚きの表情を浮かべる。

 しばらく、アルはハシャラに見惚れていた。

 普段よりも少しだけしっかりめに施された化粧、美しく結い上げられた髪、大人っぽく上品かつ華やかにまとめられたドレス。

 ハシャラの雰囲気も、アルと同じようにいつもとは違っていた。

 頬を染めながら固まっているアルを、ハシャラは不思議そうに小首をかしげながら声をかける。

「アル様……?」

「あっ……あぁ、すまない」 

 声を掛けられたアルは慌てて返事をして、謎の謝罪も追加した。

 そして赤くなった顔を手で隠しながらも、ちらりとハシャラの方を見ると、ぐっと勇気を振り絞ってから手をおろし、ハシャラの手を取って跪いた。

 そしてハシャラの手の甲にキスを落とす。

「……!?」

 ハシャラが突然のことに驚いて、顔を真っ赤にしながら声も出せずにいると、穏やかな笑みを浮かべたアルが口を開く。

「とても……キレイだ。ハシャラ」

 その笑顔を見たハシャラはドキドキしながら、頬を赤く染めながらではあったが、同じように穏やかな笑みを浮かべて答える。

「ありがとう……ございます。アル様も、とても素敵です」

 そう言って、お互いに見つめ合った。

 さぁっと風が吹いて、二人とも舞踏会のことなど頭からすっかり忘れてしまったかのように、ただ静かにお互いを見つめていた。

「こほんっ……お二人共、そろそろ会場に向かいませんと」

 そんな二人だけの時間を、ナラが咳払いをしながら中断させる。

 二人はお互いにビクッとしたかと思うと、取り合っていた手をバッと離して、顔を赤くしながら慌ててモジモジとしだす。

 そんな二人を、ナラは呆れ気味に眺めていた。

 ハチは少しだけ不機嫌そうな表情をしていたが、それを言葉にすることはしなかった。

 やっと落ち着いた二人は、まだ赤い顔を見合わせて……小さく笑いあった。

「改めて……会場までエスコートさせていただく。よろしくな」

 そしてアルがそう言いながら、背筋を伸ばして片手を胸に当て、片手をハシャラの方に向けて伸ばす。

 アルの手を取ったハシャラは、ニコッと微笑んで答える。

「えぇ。よろしくお願いいたします」

 改めて手を取り合った二人は、輝くような上品な所作で舞踏会の会場へと移動していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

配信の片隅で無双していた謎の大剣豪、最終奥義レベルを連発する美少女だと話題に

菊池 快晴
ファンタジー
配信の片隅で無双していた謎の大剣豪が美少女で、うっかり最凶剣術を披露しすぎたところ、どうやらヤバすぎると話題に 謎の大剣豪こと宮本椿姫は、叔父の死をきっかけに岡山の集落から都内に引っ越しをしてきた。 宮本流を世間に広める為、己の研鑽の為にダンジョンで籠っていると、いつのまにか掲示板で話題となる。 「配信の片隅で無双している大剣豪がいるんだが」 宮本椿姫は相棒と共に配信を始め、徐々に知名度があがり、その剣技を世に知らしめていく。 これは、謎の大剣豪こと宮本椿姫が、ダンジョンを通じて世界に衝撃を与えていく――ちょっと百合の雰囲気もあるお話です。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

ループn回目の妹は兄に成りすまし、貴族だらけの学園へ通うことになりました

gari
ファンタジー
────すべては未来を変えるため。  転生者である平民のルミエラは、一家離散→巻き戻りを繰り返していた。  心が折れかけのn回目の今回、新たな展開を迎える。それは、双子の兄ルミエールに成りすまして学園に通うことだった。  開き直って、これまでと違い学園生活を楽しもうと学園の研究会『奉仕活動研究会』への入会を決めたルミエラだが、この件がきっかけで次々と貴族たちの面倒ごとに巻き込まれていくことになる。  子爵家令嬢の友人との再会。初めて出会う、苦労人な侯爵家子息や気さくな伯爵家子息との交流。間接的に一家離散エンドに絡む第二王子殿下からの寵愛?など。  次々と襲いかかるフラグをなぎ倒し、平穏とはかけ離れた三か月間の学園生活を無事に乗り切り、今度こそバッドエンドを回避できるのか。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...