蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

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第六章 私達のパーティー

第三十七話

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 前もってケンゾンから移動して王都近くの宿に宿泊していたため、来る時には数日かかって苦労したが、舞踏会の会場である王城までは馬車で数時間で行くことができた。

 パーティードレスに身を包み、王城の前まで到着すると、途端に緊張してきて身体が固くなるのを感じる。

 そんなハシャラにナラが声をかける。

「我らがついておりますので、ご安心ください」

 そう言われて、まだ緊張を残しつつも後ろに控えてくれているナラに、ニコッとぎこちない笑みを返した。

 今回の舞踏会には護衛のハチと、侍女のナラがついてきてくれている。

 クモも「面白そうだから行きたいわん」と言っていたが、招待状がない者は最低限の従者以外連れていけないのだと説明すると、渋々納得していた。

 事情を説明して領民たちのことはテンとミミズとミツに、屋敷のことはアリたちに頼んでおいた。

 けれどテンとミミズは『こっちのことは気にせず、楽しんできて』と言い、アリたちからは「屋敷に残るのは虫魔物だけですから、ご心配には及びませんよ」と言われた。

 ハシャラは自分がいなくても思っていたよりも大丈夫そうな彼女たちに、少しだけ寂しさを感じていた。

 そしてケンゾンに残るハチたちには「どうかケンゾンの平和を守ってほしい」と頼み、彼女たちから「お任せください」との返事をもらっていた。

 ハシャラは不安が完全になくなったわけではないけれど、比較的安心してケンゾンを出ることができた。

 ケンゾンの皆の顔を思い出し、背後にいてくれる頼もしい二人を伴って、ハシャラは気合を入れて王城へと足を踏み入れた。

 そしてアルが屋敷を出る前に言っていた通りに、ハシャラはまっすぐに王城の庭園へと向かった。

 薄暗くてよく見えないがキレイな薔薇が妖しく咲き誇り、見事な噴水が魅力的な庭園に到着すると、入口近くでアルの姿が見えた。

 いつものシンプルだが上質な服装も素敵だったが、この夜のアルは王子らしくキラキラと輝く衣装に身を包み、髪の毛もゆるいオールバックにまとめられていた。

 そんなアルが、目を伏せながら庭園の入口に立っている。

 それだけで、肖像画にしてもおかしくないほど絵になっていた。

 ハシャラはいつもと違った雰囲気のアルにドキドキしながらも、勇気を出して声をかける。

「……あ、アル様!」

 ハシャラが声を掛けてアルの方へと小走りで駆け寄ると、アルは「やぁ、久しぶり」といつもの笑顔を見せたかと思うと、ハシャラを見て驚きの表情を浮かべる。

 しばらく、アルはハシャラに見惚れていた。

 普段よりも少しだけしっかりめに施された化粧、美しく結い上げられた髪、大人っぽく上品かつ華やかにまとめられたドレス。

 ハシャラの雰囲気も、アルと同じようにいつもとは違っていた。

 頬を染めながら固まっているアルを、ハシャラは不思議そうに小首をかしげながら声をかける。

「アル様……?」

「あっ……あぁ、すまない」 

 声を掛けられたアルは慌てて返事をして、謎の謝罪も追加した。

 そして赤くなった顔を手で隠しながらも、ちらりとハシャラの方を見ると、ぐっと勇気を振り絞ってから手をおろし、ハシャラの手を取って跪いた。

 そしてハシャラの手の甲にキスを落とす。

「……!?」

 ハシャラが突然のことに驚いて、顔を真っ赤にしながら声も出せずにいると、穏やかな笑みを浮かべたアルが口を開く。

「とても……キレイだ。ハシャラ」

 その笑顔を見たハシャラはドキドキしながら、頬を赤く染めながらではあったが、同じように穏やかな笑みを浮かべて答える。

「ありがとう……ございます。アル様も、とても素敵です」

 そう言って、お互いに見つめ合った。

 さぁっと風が吹いて、二人とも舞踏会のことなど頭からすっかり忘れてしまったかのように、ただ静かにお互いを見つめていた。

「こほんっ……お二人共、そろそろ会場に向かいませんと」

 そんな二人だけの時間を、ナラが咳払いをしながら中断させる。

 二人はお互いにビクッとしたかと思うと、取り合っていた手をバッと離して、顔を赤くしながら慌ててモジモジとしだす。

 そんな二人を、ナラは呆れ気味に眺めていた。

 ハチは少しだけ不機嫌そうな表情をしていたが、それを言葉にすることはしなかった。

 やっと落ち着いた二人は、まだ赤い顔を見合わせて……小さく笑いあった。

「改めて……会場までエスコートさせていただく。よろしくな」

 そしてアルがそう言いながら、背筋を伸ばして片手を胸に当て、片手をハシャラの方に向けて伸ばす。

 アルの手を取ったハシャラは、ニコッと微笑んで答える。

「えぇ。よろしくお願いいたします」

 改めて手を取り合った二人は、輝くような上品な所作で舞踏会の会場へと移動していった。
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