蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

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第六章 私達のパーティー

第三十六話

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「はぁ……どうしましょうか……」

 ハシャラは談話室でソファに腰を落ち着けながら、を片手に、頭を悩ませていた。

「良いじゃないか。一緒に参加しよう」

 浮かない表情で悩むハシャラとは対照的に、アルは楽しげな笑みを浮かべながら、ハシャラの座るソファの後ろ側からそう告げる。

 ハシャラはそんなアルを見つめながら、なぜそんなに楽しそうなのか心底不思議だった。

 上機嫌に、自分にも届いた手紙を眺めるアル。

「はぁ……」

 ハシャラはもう一つ大きなため息を吐いてから、改めて手にした手紙に視線を落とす。

 手紙の内容を要約すると、王城主催の舞踏会への参加を促す招待状だった。

 各地から領主が集まる舞踏会で、最近発展の目覚ましいケンゾンの領主であるハシャラにも、ぜひとも参加してほしいとのことだった。

 王城からの招待状では、気軽に断るわけにも行かず……かと言って、蟲神の加護を授かっている自分が行けば、いらぬ視線に晒されることは容易に想像できた。

 今から面倒事に頭を悩ませるハシャラと違って、アルは上機嫌に「俺は早めに王城に戻って、パーティー服を見繕っておかなければな」と独り言を呟く。

 アルに届いた手紙は、王城主催の舞踏会に第二王子が不在では外聞が悪いので、一時的に戻ってきてほしいという旨のものだった。

 その手紙を読んだ時、アルは最初「外聞が悪いね……王族様は大変だな」と鼻で笑っていたのに、今はこの上機嫌。

 ハシャラは理解に苦しんでいた。

「……アル様は、なぜそんなに楽しそうなのですか?」

「ん? ハシャラを正式に婚約者候補として、王城内外に周知させたいと思ってな」

「え……!?」

 上機嫌に語るアルの言葉に、ハシャラは心底驚いた。

 蟲神の加護持ちとして好奇の視線に晒されるだけでなく、第二王子の婚約者候補として値踏みするような視線にも晒されることになるなど初耳だった。

 想像しただけで、どっと疲れが押し寄せてくる。

 そんなハシャラを見て、アルは苦笑しながら語る。

「すまんな。苦労をかけるが、これでも一応王族なのでな。第二王子がいつまでも婚約者不在ではんだ」

「それは……そうでしょうけれど……」

 アルにそう言われてしまっては、ハシャラは納得することしかできなかった。

 ハシャラと同じように、アルも珍しい加護を授かっていて好奇の視線に晒されているとはいえ、立場は第二王子……立派な王族だ。

 普段はケンゾンの領主補佐として親しく話したりしているけれど、本来であれば今のハシャラの立場では言葉を交わすことすら叶わない、雲の上の人なのだと改めて実感する。

 それと同時に、胸がズキッと痛むのを感じた。

 私なんかが、婚約者候補としてアル様の隣に立っても良いのでしょうか……。

 そんなハシャラの不安を察したのか、アルはふっと穏やかな笑みを浮かべて、ワシャワシャとハシャラの頭を撫でる。

「ちょっ……髪が乱れます! アル様!」

 ハシャラが抗議すると、アルは二カッと笑いながら口を開く。

「俺の婚約者は、ハシャラ以外は考えられん。ぜひよろしく頼むよ」

 ハシャラが驚きつつも、頬を赤く染める。

「そして俺は、いずれハシャラの婿になるんだ」

 キリッとした表情をしながら、そう言うアル。

 ハシャラはいつものアルの言動に、少しだけ気負っていた何かを下ろすことができたようだった。

 ……アルがハシャラに求婚してきたのは、蟲神の加護があって、獅子神の加護の力の影響を受けないからというのがはじまりだった。

 ま、まぁ……虫魔物を家族と言って気遣う姿に惚れた……とも言われましたが……。

 ハシャラはアルに求婚されたときのことを思い出して、一人でまた顔を赤く染めていた。

 けれど今、先程のアルの言葉からは、それだけが理由ではないと感じることができた。

 時間を掛けて付き合ってきたからこそ、一目惚れや好条件などだけでは片付けられないものがあると思えた。

 それが、ハシャラには嬉しかった。

 虫魔物とアルと自分とで、穏やかにケンゾンで過ごしてきた光景を思い出すと、ほっこりと心が温かくなるのを感じる。

 その日々が、蟲神の加護のおかげではあるけれど、それだけではないと……アルはハシャラだから選んでくれたのだと……そう思えた。

 じ、自意識過剰でしょうか……。

 そんな自虐的なことも思ってしまうけれども、ハシャラはそう思うと力をもらえる気がした。

「……分かりました。では、舞踏会に参加いたします」

 ハシャラの言葉を聞いたアルは、明るい表情を浮かべてハシャラの手を握る。

「ありがとう。ハシャラ」

「エスコート……よろしくお願い致しますね」

「もちろんだ。任せてくれ」

 そうして話はまとまり、王城からの手紙には参加の旨を伝える返事を出した。

 そして舞踏会の一週間ほど前、パーティー衣装の準備もあるからと、アルが屋敷に来てから初めて王城へと戻っていった。

 馬車に乗ってケンゾンを出ていくアルを見送りながら、ハシャラは心にぽっかりと穴が空いたような寂しさを感じていた。

 ただ、寂しがってばかりもいられなかった。

 ハシャラもパーティードレスを準備するために、アリたち協力のもと採寸したりデザイン画のチェックをしたり……それはそれは忙しい日々を過ごした。

 そしてあっという間に、舞踏会の日がやってきた。
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