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第五章 それぞれの過去
第三十一話
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「――それでみんなに過去を聞いて回っていたのですが、ナラたちは多くは語ってくれず、他の者とあまり変わりありませんよと言われてしまいました」
「確かにこの子らの今までの生活は食料調達・妾と新しい子らの世話・巣の増築ばかりじゃからな、語ることも多くはなかったのじゃろう」
「けれど女王様のことは高貴なお方だと、魔力量の多い力のあるお方だと教えてくれました。それでお会いしてみたいと思っていたのです!」
「おや、嬉しいことを言ってくれるのう」
ハシャラが今までのことを、ナラたちとの時間を、思いのままに熱く語っていると、女王は楽しそうにコロコロと笑いながら、時に相槌を打ちながら聞いていた。
女王と話しているときのハシャラは、まるで子供が今日あったことを親に語っているときのような無邪気さがあった。
最初はあんなにも恐れ多いと緊張していたのに、その緊張感は話し出してしばらくする頃にはなくなっていた。
ハシャラは不思議な、けれどどこか心地よさを感じながら話していた。
あらかた話し終わった頃、ナラが新しい紅茶を二人に淹れてくれた。
「ありがとうございます、ナラ。女王様、ナラの紅茶はとても美味しいのですよ」
ハシャラがナラにお礼を伝えながら、女王にそう伝える。
アリたちの淹れてくれる紅茶ももちろん美味しいのだが、ナラの淹れてくれる紅茶は別格だった。
一度「茶葉が違うのですか?」「何か特別な淹れ方を?」と尋ねてみたことがあったが、ナラは「他の者と変わりませんよ」と微笑んでいた。
「そうなのか。それは楽しみじゃのう」
ハシャラの言葉を聞いた女王は、楽しそうに微笑みながら紅茶を口へと運ぶ。
コクリっと飲み込んでからカップをテーブルの上に置いて、ハシャラに向けて優しく微笑む女王。
「確かに。これは格別に美味いのう」
女王にそう言ってもらえたハシャラは、嬉しそうにニコッと微笑み返していた。
そんなやり取りをしていると、コンコンっと扉をノックする音がした。
ハシャラが「どうぞ」と声をかけると、開かれた扉の向こうにアルが立っていた。
「お話中、失礼。お嬢様方、もう日も暮れてきましたが、これからのご予定はお決まりですか?」
アルにそう言われて、最初はぽかんっとしていたハシャラだったが、言葉の意味に気付いて窓の外を見やると、外はどっぷりと真っ暗になっていた。
「あぁあああぁ、私ったら。申し訳ありません。ずいぶん、話し込んでしまったみたいで……」
ハシャラが慌てて謝罪すると、女王はコロコロと楽しげに笑っていた。
「よいよい。ハシャラさえ良ければ、今宵はこの屋敷に泊めてくれぬか?」
その言葉を聞いたハシャラは驚きながらも、淡く頬を染めてパッと笑顔を見せる。
長く話し込んでいる間に呼び方も『蟲の姫』から『ハシャラ』に変わっていて、女王に名前を呼ばれることを、ハシャラは密かに嬉しく思っていた。
「もちろん! そうしていただけると嬉しいです! ナラ、すぐにお部屋の準備を……」
「すでに整っております。姫様」
「……! さすがです!」
ハシャラの指示にすぐに応えるナラに驚きつつも、日中、パタパタと動き回っていたアリたちのことを思い出して、ナラとアリたちに向けて称賛を送る。
アリとナラたちはペコっと頭を下げつつ、満足げな表情をしているように見えた。
「それではひとまずお部屋にご案内してから、落ち着いた頃にお食事にいたしましょうか」
「そうさせてもらうかの。では、また後での」
ハシャラがそう提案すると女王は頷いて立ち上がり、従者を伴って応接室を出て、アリの案内に続いて部屋へと向かっていった。
女王が応接室から出ると、外で待機していたアリたちが一斉にバッと頭を下げて、女王がそれに手をひらりとしながら通り過ぎるとやっと顔を上げ、いつもの業務に戻っていった。
女王が出ていったのを確認したハシャラは、パタリっとソファに倒れ込んでから、ソファに置いてあったクッションを抱きしめて静かに喜びを噛み締めていた。
初めて会うとは思えない安心感、全てを受け入れてくれる包容力……女王の懐の深さに、ハシャラは母の面影を重ねていた。
見た目も話し方も違うのですが、まるでお母様と話しているような安心感です……。
ハシャラがそう思いながら、本人には言えない思いをクッションに込めて、ぎゅっと抱きしめる。
「……何をしているんだ?」
すると、応接室の扉近くにいたアルが声をかける。
アルのことをすっかり忘れていたハシャラは、バッと起き上がってクッションを元あった位置に戻して慌てて答える。
「な、なんでもありません。アル様も、お食事の時間までゆっくりとお待ち下さい」
「あ、あぁ……」
アルは不思議そうにしながら、納得して部屋を出ていった。
ハシャラもふぅ……っと一息ついてから、食事の時間まで自室で大人しくしておくことにした。
「確かにこの子らの今までの生活は食料調達・妾と新しい子らの世話・巣の増築ばかりじゃからな、語ることも多くはなかったのじゃろう」
「けれど女王様のことは高貴なお方だと、魔力量の多い力のあるお方だと教えてくれました。それでお会いしてみたいと思っていたのです!」
「おや、嬉しいことを言ってくれるのう」
ハシャラが今までのことを、ナラたちとの時間を、思いのままに熱く語っていると、女王は楽しそうにコロコロと笑いながら、時に相槌を打ちながら聞いていた。
女王と話しているときのハシャラは、まるで子供が今日あったことを親に語っているときのような無邪気さがあった。
最初はあんなにも恐れ多いと緊張していたのに、その緊張感は話し出してしばらくする頃にはなくなっていた。
ハシャラは不思議な、けれどどこか心地よさを感じながら話していた。
あらかた話し終わった頃、ナラが新しい紅茶を二人に淹れてくれた。
「ありがとうございます、ナラ。女王様、ナラの紅茶はとても美味しいのですよ」
ハシャラがナラにお礼を伝えながら、女王にそう伝える。
アリたちの淹れてくれる紅茶ももちろん美味しいのだが、ナラの淹れてくれる紅茶は別格だった。
一度「茶葉が違うのですか?」「何か特別な淹れ方を?」と尋ねてみたことがあったが、ナラは「他の者と変わりませんよ」と微笑んでいた。
「そうなのか。それは楽しみじゃのう」
ハシャラの言葉を聞いた女王は、楽しそうに微笑みながら紅茶を口へと運ぶ。
コクリっと飲み込んでからカップをテーブルの上に置いて、ハシャラに向けて優しく微笑む女王。
「確かに。これは格別に美味いのう」
女王にそう言ってもらえたハシャラは、嬉しそうにニコッと微笑み返していた。
そんなやり取りをしていると、コンコンっと扉をノックする音がした。
ハシャラが「どうぞ」と声をかけると、開かれた扉の向こうにアルが立っていた。
「お話中、失礼。お嬢様方、もう日も暮れてきましたが、これからのご予定はお決まりですか?」
アルにそう言われて、最初はぽかんっとしていたハシャラだったが、言葉の意味に気付いて窓の外を見やると、外はどっぷりと真っ暗になっていた。
「あぁあああぁ、私ったら。申し訳ありません。ずいぶん、話し込んでしまったみたいで……」
ハシャラが慌てて謝罪すると、女王はコロコロと楽しげに笑っていた。
「よいよい。ハシャラさえ良ければ、今宵はこの屋敷に泊めてくれぬか?」
その言葉を聞いたハシャラは驚きながらも、淡く頬を染めてパッと笑顔を見せる。
長く話し込んでいる間に呼び方も『蟲の姫』から『ハシャラ』に変わっていて、女王に名前を呼ばれることを、ハシャラは密かに嬉しく思っていた。
「もちろん! そうしていただけると嬉しいです! ナラ、すぐにお部屋の準備を……」
「すでに整っております。姫様」
「……! さすがです!」
ハシャラの指示にすぐに応えるナラに驚きつつも、日中、パタパタと動き回っていたアリたちのことを思い出して、ナラとアリたちに向けて称賛を送る。
アリとナラたちはペコっと頭を下げつつ、満足げな表情をしているように見えた。
「それではひとまずお部屋にご案内してから、落ち着いた頃にお食事にいたしましょうか」
「そうさせてもらうかの。では、また後での」
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女王が応接室から出ると、外で待機していたアリたちが一斉にバッと頭を下げて、女王がそれに手をひらりとしながら通り過ぎるとやっと顔を上げ、いつもの業務に戻っていった。
女王が出ていったのを確認したハシャラは、パタリっとソファに倒れ込んでから、ソファに置いてあったクッションを抱きしめて静かに喜びを噛み締めていた。
初めて会うとは思えない安心感、全てを受け入れてくれる包容力……女王の懐の深さに、ハシャラは母の面影を重ねていた。
見た目も話し方も違うのですが、まるでお母様と話しているような安心感です……。
ハシャラがそう思いながら、本人には言えない思いをクッションに込めて、ぎゅっと抱きしめる。
「……何をしているんだ?」
すると、応接室の扉近くにいたアルが声をかける。
アルのことをすっかり忘れていたハシャラは、バッと起き上がってクッションを元あった位置に戻して慌てて答える。
「な、なんでもありません。アル様も、お食事の時間までゆっくりとお待ち下さい」
「あ、あぁ……」
アルは不思議そうにしながら、納得して部屋を出ていった。
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