蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

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第五章 それぞれの過去

第二十九話

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 ハシャラたちが屋敷に戻ると、ナラが「おかえりなさいませ」といつも通りに出迎えてくれた。

 かと思いきや、半日ぶりのハシャラに、ナラはキラキラと輝く瞳で「お疲れではないですか」「お腹は空いていないですか」とハシャラの周りについて回っていた。

 ハシャラは珍しく興奮気味なナラに少し困惑しながらも、嬉しさから彼女の気遣いを払いのけることはできず、苦笑を浮かべながら「大丈夫ですよ」と答えた。

 ハシャラに対してはそんな風なナラだったが、アルには帰ってきた直後にギロリっと睨んでいた。

 それに気付きながらも、アルは素知らぬ顔をしていた。

 そんな調子でいつもの談話室まで行くと、先にいてソファに座っていたクモが出迎える。

「あら、おかえりなさいん」

「ただいま戻りました」

「ただいま。なんだ、クモはここにいたのか」

 ハシャラとアルがそれぞれに挨拶を返しながら、ソファと椅子にそれぞれ腰をおろした。

 クモを見つめながら、彼女はどんな過去を持っているのだろうかと考え込むハシャラ。

「二人でデートだったのん?」

「まぁな」

 考え込んでいたために、クモとアルのそんな会話には気付かなかった。

 ハシャラはまっすぐにクモを見つめて、今日何度目かの質問を投げかけた。

「クモは、ここに来るまでどんな生活を送っていたのですか?」

 ハシャラにそう尋ねられたクモは、キョトンっとした顔をしながら尋ね返す。

「急にどうしたのん?」

「みんなのことをもっと知りたくて、過去の話を聞いて回ってるのです」

 そう答えると、クモは興味があるのかないのか分からない調子で「ふーん?」と返していた。

「それで、どうなのだ? お前の過去は」

 アルがさらにそう尋ねると、クモは上の方を見ながら少し考え込んでいる様子だった。

 ただ考え込んでいる様子に重さはなく『どうしよっかな』程度に見受けられた。

 かと思うと、クモがハシャラたちの顔をじっと見つめる。

 ハシャラとアルが不思議に思いながらその視線をまっすぐに見つめ返していると、くすっとクモが笑ってから答える。

「……な・い・しょ・よん」

 その答えにハシャラとアルが驚きの表情を浮かべていると、クモはその顔を見てまたクスクスと楽しそうに笑っていた。

「は、話したくないのですか?」

 ハシャラが「それなら無理強いはしません」と付け加えつつ尋ねると、クモは怪しげな笑みを浮かべながら答える。

「話したくないわけじゃないけどん……女はミステリアスな方が輝くでしょん」

「み、みすてりあす……ですか?」

 ハシャラが尋ね返すと、クモは「そうよん」と楽しそうに笑っていた。

「……まぁ、クモらしい答えなんじゃないか」

 アルがやや呆れ気味に笑いながらそう言っていて、クモは「そうでしょん」とやっぱり楽しそうに笑いながら答える。

 アルとハシャラの困惑した表情を見て、クモは終始ニコニコと楽しそうに笑っていた。

 そんなクモを見て、ハシャラはふっ……と、困惑しながらも笑みをこぼして呟く。

「そうですね。クモらしいです」

 クモはやっぱり楽しそうに微笑むだけで、それ以上答えることはしなかった。

 それ以上クモからの返答はもらえないと判断したハシャラは、聞く人を変えてみることにした。

「では……ナラは、今までどんな生活を送っていたのですか?」

 部屋の扉近くに控えていたナラに話の矢印を向けると、ナラが「私ですか?」と少し驚いたように尋ね返してきたので、ハシャラがこくんっと頷く。

 するとナラは何か考え込んだかと思うと、目を伏せながら答える。

「……ミツやハチにすでに話を聞いているのであれば、彼女たちとお話できることはほとんど変わりありません」

「生き物を狩ったり、女王様や子供たちの世話をしたり、巣を広げたりして暮らしていた……ということですか?」

「はい。その通りでございます」

 ハシャラがミツやハチの答えを繰り返すように尋ね返すと、ナラは端的にYESと答えた。

「ナラたちの場合、お世話の先が私に変わっただけで、他はあまり変わりないように感じますね」

 ハシャラが自嘲気味にそう話すと、ナラはくすっと微笑みながら否定する。

「そんなことはないですよ。今は領地の物があるので食料集めがありませんし、屋敷を守ることはしていても広げてはいないですからね」

 ナラにそう答えられて、ハシャラは「いつもありがとうございます……」と感謝を伝えた。

 するとナラは「お気になさらず。好きでしていることですので」と、また目を伏せながら答える。

 そしてハシャラは、ミツたちにしたのと同じ質問をナラにも投げかけてみることにした。

「では、女王様や仲間のもとに戻りたいとは思いますか?」

「思いませんね。我々は女王陛下から姫様への祝福としてプレゼントされたものでございます。なので、前の巣に帰ることは考えたことがありません」

 ナラはハシャラの問いに即答した。

 なんとなく分かっていたことではあったが、ナラたちの忠誠心には感服するばかりなハシャラだった。

 そしてちょっとした好奇心から、質問を続ける。

「女王様というのは、どういう方なの?」

 ハシャラがそう尋ねると、ナラは少しばかり沈黙して考え込んでから答える。

「……とても、高貴なお方です。力の弱い我々と違って、魔力量も多く……そうですね……説明が難しいお方かもしれません」

 言葉を濁しているナラが珍しくて、ハシャラは驚きつつも、さらに女王様への興味を深めていた。

「いつか、会えるといいですね」

 ハシャラがそう呟くと、アルが困惑気味に返す。

「……今の説明を聞いて、会いたいと思うのかい」

 ハシャラがぽかんとしながら「はい」と答えると、アルは「変わってるよ」と苦笑していた。

 ナラはそんなハシャラを見て、くすっと微笑みながら呟く。

「……きっと、その内にお会いになる日が来ますよ」

「楽しみです!」

 そんなナラの呟きを聞いたハシャラは、笑顔でそう返した。
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