蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

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第四章 自然の恐怖

第二十話

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「蟲神様と話した!? そんなことが……!?」

 身支度をしてから朝食を食べている際、アルに夢のことを話すと信じられないとばかりに驚愕していた。

 夢とは言え加護を授ける動物神と話すのは、やはり王族であるアルにしてみても初めてのことのようだ。

 やはり、よほど珍しいことだったのですね……。

「蟲神様が仰るには、もうすぐ虫の大群がケンゾンにやってくるから、対策のために強力な虫魔物を呼び出しておいた方が良いとのことでした」

「なるほど……」

 事情を説明すると、アルは納得しながら考え込んでいた。

 ハシャラも、どうしたものかと考え込む。

 虫魔物を呼び出すのは良いのだけれど、どんな虫魔物を呼び出せば良いのか分からないというのが問題だった。 

 かと言ってアバウトに呼び出してしまうと、虫魔物の大群がやってきて、虫の襲来とは別の騒ぎが起きかねない。

 それに虫をというのにも、蟲神様の加護の恩恵を得ているものとしては抵抗があった。

 蟲神様も『彼らにも事情がある』と言っていましたし……できることなら、自然に近い形で何とかしたいですね。

 けれどそれが難しく、二人してうーん……と考え込んでいると、食堂の入口付近で待機していたナラが、すっと控えめに手を上げながら口を開く。

「……カマキリの魔物ではどうでしょうか? 噂で各地を旅する大喰らいのカマキリがいると聞いたことがございます。その者ならば、虫が大群で来ても食べてもらえるのでは?」

 ナラの「ちょうどかの者が隣の領地に来ていると聞き及びまして……」との提案を聞いて、アルとハシャラは「それは良い案だ(ですね)」と明るい表情を見せる。

 口に出していないのに虫魔物に食べてもらうという良い案をもらった二人は、悩みから開放されて、急ぎながらも味わいながら食事を再開した。

 そして食後、さっそく屋敷の前まで出てきたハシャラたちはカマキリの魔物を呼び出す。

 ハシャラは目をつぶり手を組み合わせ、召喚の呪文を唱え始める。

「蟲神様の加護を受けし者よりお願い申し上げる。旅するカマキリの魔物よ。どうか私の下まで参られよ」

 そう唱えて、ハシャラはバッと瞑ったままの目を手で覆う。

 虫の姿で来ても問題ないように、自ら対策することを覚えたハシャラ。

 これで安心です……!

 そう思いながらカマキリがやってくるのを待つが……一向にやってくる気配がない。

「……?」

 ハシャラがちらりと手をどけて目を開けてみても、カマキリらしき姿はない。

 不思議に思っていると、ナラが代わりに口を開く。

「……カマキリの魔物は飛行能力がそこまで発達していないので、到着まで時間がかかるのかもしれませんね。ひとまず屋敷に入って、カマキリの魔物の到着を待ちましょうか」

 ナラにそう言われて、ハシャラはがっくりと肩を落とす。

「そうなのですね……。虫の大群が押し寄せてくるまでに来てくださると良いのですが……」

 そう呟きながら、ハシャラたちは屋敷の中へと入っていった。

 談話室に入ると「おはよん」と、いつも起きるのが皆よりも遅いクモがソファに座って紅茶を飲んでいた。

「おはようございます」
「おはよう」

 ハシャラとアルが挨拶を返すと、クモはふふふ……と不敵な笑みを浮かべていた。

 不思議に思っていると、クモが楽しそうに口を開く。

「話は聞いたわん。虫の大群がケンゾンにやってくるんですってねん。私は少食だから食べる方のお手伝いはあまりできないけれど、糸を使って捕獲のお手伝いはするわよん」

 食堂にいたアリたちから話を聞いたというクモは、ニッコリと微笑みながらそう言う。

 それを聞いたハシャラは、クモに手伝ってもらうことは頭からすっぽり抜けていた自分自身に驚き、思うように言葉を返すことができずにいた。

 そんなハシャラの代わりに、アルが口を開く。

「それは助かるな。ぜひ頼むよ」

「はーい。任せてん」

 頼りになる味方が増えて、やっと頭の整理がついたハシャラは安心感でいっぱいだった。

 けれどそんな安心感とは裏腹に、なかなか訪れないカマキリの魔物にヤキモキもしていた。

 結局、カマキリの魔物は訪れないまま、その日は終わった。

 翌日の昼頃。

 アリが「お客様がお越しです」と、談話室にいたハシャラに声をかける。

 やっと来てくれたと、ハシャラが顔を明るくしながら「応接室にお通しして」と答えると、アリが「かしこまりました」と告げて部屋を出ていった。

 応接室でドキドキしながら客の訪れを待っていると、扉をノックする音がして、アリが「お連れしました。どうぞ」と客人を応接室に招き入れる。

 応接室に入ってきたのは、ボロボロのコートを羽織りリュックサックを背負った、まさに旅人という装いをした若い青年だった。

「遅くなってしまって申し訳ありません。カマキリの魔物、ただいま参上いたしました」

 カマキリの魔物は、人の良さそうな声色と表情でそう自己紹介する。

 思っていたよりも弱々しそうな印象に、一抹の不安を感じながらも「ハ、ハシャラです。よろしくお願いします……」と挨拶を返した。

「それで、俺にどんなご用でしょうか? 姫様」

 そう尋ねられたハシャラは、失礼なことや不安なことを考えていた頭の余計な部分をこほんっと咳で追い払い、真剣な表情で説明を始めた。

「もうすぐこの領地に虫の大群が押し寄せると、蟲神様のお告げがありました。その虫たちを捕獲して食べ、領地を守ってほしいのです」

「なるほど。食べてよいのならばお安い御用です。精一杯、務めさせていただきます」

「よろしくお願いします」

 ここに至るまで少しばかり時間はかかったが、カマキリの魔物との話し合い自体はあっさりと終わった。

 これで準備は万端です。

 あとは実際に虫の大群がやってくる日を待つだけですね。

 決意を固めつつ、虫の大群がケンゾンに押し寄せてくるシーンを想像したハシャラは、大量の虫がうごめく姿に背筋がゾワゾワとした。
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