蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

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第三章 王子様襲来

第十四話

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「貴様……ッ! 人間の王族だからといって調子に乗るな!」
「我らが姫様をするだけでなく、求婚するなど……なんと不遜な……ッ!」

 まだ呆然としているハシャラをよそに、ナラとハチがアルアサダに対して敵意と怒りをむき出しにする。

 顔の半分に、本来の姿である虫の姿が現れるほどに。

 そんなナラとハチを見ても、アルアサダは笑顔を崩すことなく「まぁ、話を聞いてくれ」と宥める。

 まだ敵意は向けているが、虫の本性は隠したナラが「姫様、さぞ不快な思いをされたことでしょう。お気を確かに」とハシャラを気遣う。

 そう言われて、ハシャラはハッとして、やっと意識を取り戻すことができた。

 そんなやり取りをクックック……と楽しそうに笑いながら眺めていたアルアサダは、笑いを堪えながら話し始める。

「俺は獅子神様の加護を授かっていてな。威圧という魔法が使える。ただ厄介なことに威圧は常時発動の魔法でな。周りにいる人間が、本能的な恐怖から怯えてしまうのだ」

「え? 威圧……ですか? 緊張はしておりますが、恐怖心は特に感じませんけれど……」

 アルアサダの説明を聞いて、ハシャラが不思議そうに尋ねる。

「そうなのだ! なぜだろうな」

 ハシャラの言葉を聞いて、アルアサダも不思議そうにしていたところ、後ろに控えていたナラが口を開く。

「姫様は蟲神様の加護を授かっておりますので『恐怖』を感じることはございません。まぁ、虫に対しては恐怖心よりも苦手意識が強く、怯えてしまうようですが」

 そう説明されて、ハシャラもアルアサダも納得した。

 納得した上で、アルアサダが説明を続ける。

「まぁ、この威圧のせいで加護を授かって以来、婚約者にも怯えられるようになってな。先日、ついに婚約破棄することになった」

「そ、それは……残念でございましたね」

 なんと慰めればよいのか分からず、ハシャラが戸惑い気味に言葉を送ると、アルアサダはあっけらかんと笑っていた。

「なに、気にするな。所詮は国のための政略結婚だったからな。感傷も何もない」

 それはそれで相手に失礼なのでは……。

 ハシャラがそう思いつつも、言葉にできずに曖昧に微笑んでいると、アルアサダが言葉を続ける。

「まぁ、そんな理由で新しい婚約者を探していたのだが、威圧に耐えてくれる女性などいなくてな……難航していたのだ」

 威圧とはそんなに恐ろしい物なのかと、体感することができないハシャラは、不思議に思いつつも生唾を飲み込んだ。

「だが、領主殿ならば……威圧に耐えるどころか感じないのだから、これ以上の適任者はいないだろう」

「は、はぁ……い、いえ! 私には領地のことで手一杯で、とてもアルアサダ殿下の婚約者など務まりません……!」

 一瞬、納得しそうになったハシャラだったが、すぐにハッと気がついて否定する。

「王子の婚約者だからといって気負うことはない。次期国王には兄上がなるし、獅子神様の加護も蟲神様ほどではないが稀有な加護でな。威圧魔法と相まって、社交も遠慮している」

 アルアサダは前向きに、あくまでも明るく説明を続ける。

 ハシャラは困惑しながらも、確かに第二王子が獅子神様の加護を授かったとお触れが世間に出回った際、聞き馴染みのない加護に一時ざわついたことを思い出していた。

 ハシャラであんなにも気味が悪いと嘲笑と侮蔑の視線を向けられたのだから、第二王子であるアルアサダには、もっと嫌な言葉が集まったことだろうと思うと同情した。

 そんな状況で、さらに威圧の魔法で他を遠ざけてしまうとなると……。

「……前向きに検討してくれないだろうか?」

 目の前にいるアルアサダは、ハシャラの同情心を知ってか知らずか、彼女をキラキラと金に輝く瞳でまっすぐに見つめながら答えを急ぐ。

 ただ、ハシャラは思うように答えられずに考え込む。

 ハシャラにもそれなりに結婚に対しての希望というか、夢があったからだ。

 絶縁されたとはいえ、ハシャラは以前の両親と自分のような……愛のある夫婦になり、子供ができたら良い親子関係を築きたいと考えていた。

 だからこそ、聞かずにはいられなかった。

「……わ、私への求婚も、政略的なものでしょうか……?」

 恐る恐る尋ねると、アルアサダは予想外の質問だったのか目を見開いて驚いていたが、すぐにニッコリと微笑んで答えた。

「いや、虫魔物……のために心砕く君に惚れた」

 あっけらかんと答えるアルアサダは、急に真剣な表情になったかと思うとさらに「俺は本気だ」と付け加えた。

 その言葉を聞いたハシャラは、ボッと顔を赤くしたかと思うと、わたわたと困惑し始めた。

「こいつ……殺しますか?」

 ナラは真剣な表情で、ハチは剣に手をかけながらハシャラに尋ねる。

「だ、大丈夫……です……。おち、落ち着いて……ください……」

 ハシャラが一番大丈夫じゃなさそうに、落ち着きなくわたわたとしながら宥めた。

「で、返事を聞かせてもらえないだろうか?」

 アルアサダが前のめりになりながら、さらにハシャラの答えを要求する。

 そんな彼に、ハシャラは懸命に答える。

「か、考えさせてください……」

 湯気が出そうなほど熱くなった顔に手を当てながら、ハシャラにはそう答えるだけで精一杯だった。

「良い返事を待っている。では要件は済んだし、今日のところはこれで失礼させてもらう。今日は訪問を受け入れてもらい、感謝する」

 そう言って、アルアサダは立ち上がる。

「た、大したお構いもできませんで……」

 ハシャラが慌ててお見送りの準備をしようとつられて立ち上がると、アルアサダがそれを手で制止する。

「気にするな。では、

 意味ありげな笑みを浮かべながら、アルアサダは嵐のように去っていった。

 応接室に取り残されたハシャラの顔は、しばらく赤く熱いままだった。
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