蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

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第二章 協力してくれませんか?

第十二話

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 クモのおかげで魔物の襲撃がなくなり、その代わりにちらほらと増えた人間の賊の対応をハチたちがしてくれるおかげで、ハシャラの領地には久しぶりに平穏が訪れていた。

 ハシャラは定期的に村を訪れては、悩みはないか・作物の育ちはどうか・他領地との販売はどうなっているかと、領民との対話を大切にしていた。

 領民たちはすっかりテンたちと打ち解けて上手くやっていると、畑も酪農も販売もうまくいっていると、満足そうな笑みを浮かべていて、ハシャラも嬉しくなる。

 テンたち自身も「人間の仕事をやったのは初めてだけど、意外と楽しいよ」と笑って働いていて、彼らにお願いして良かったと感じていた。

 クモは基本的に屋敷内でゴロゴロとして、たまに「ヒマだからついて行くわん」とハシャラについて村に行く以外は大人しく過ごしていた。

 ハシャラは虫の魔物たちと、領民との平和な時間を満喫していた。

 そうしているとあっという間に時間は流れ、ミミズとミツに品種改良を頼んでから一年が経過した。

 コンコンっと談話室の扉をノックする音がして、ハシャラが「どうぞ」と答えるとミミズとミツが並んで部屋に入ってきた。

「失礼しますだ、姫様。依頼されていた品種改良が完了したんで、ご報告に上がりましただ」

 真剣な眼差しと楽しげに笑うミミズがそう報告してきて、ハシャラはぱぁっと顔を明るくした。

「まぁ、もうそんな頃でしたか。それで、出来栄えはどうですか?」

 ハシャラがそう尋ねると、ミミズはふっふっふ……と珍しく怪しげな笑みを浮かべたかと思うと、バッとミツの方に手を向ける。

「気になるだろうと思いまして、完成品を持ってきましただ!」

 見てみると、小さなミツの手元にカゴに入った数種類の野菜が入れられていた。

 トマト、きゅうり、とうもろこしなど……色とりどりの季節の野菜が入ったそのカゴが、ハシャラにはキラキラと光り輝いて見えた。

「早速、食べてみてください。こちらの二種は生で食べられますだ。こちらは蒸してきてもらえますだか?」

 ミミズがテキパキとそばに控えていたナラに指示を出すと、ナラが「かしこまりました」と野菜のカゴを受け取って厨房まで向かった。

 その間に、ハシャラはミミズから報告を受けることにした。

「それで、今までの野菜とどう変わったのでしょうか?」

 ハシャラがソファに座るように促しながら尋ねると、ミミズとミツがペコっと頭を下げながら、ハシャラの向かいにあるソファに腰をおろした。

「まず、食べていただければ分かりますだが、味が格段に上がりましただ」

「まぁ、それは食べるのが楽しみですね」

 ハシャラが手を合わせて笑顔を浮かべると、ミミズとミツもニコッと嬉しそうな表情をしていた。

「あと病気などにも強くしたので、今まで廃棄していた野菜の数が減って、出荷できる数が大幅に上がりますだ」

 どんなに土を良くして堆肥を与えて環境を整えたとしても、野菜が病気になることは度々あって、そうなると野菜の収穫率が下がったり見た目が悪くなったりしていた。

 すると食べることはおろか出荷することもできなかったので、廃棄となっていたのだが……それが減るとなると、かなりの出荷数が見込めるようになるだろう。

 他領地で出せない味の良さと出荷数の多さを売り出せば、今までよりも多くの領地へ出荷することができるかもしれませんね。

 手間はかかりますが、領民とテンとで手分けをすれば……今まで以上の出荷数が見込めます。

 販売担当の領民に、相談してみましょう。

「……素晴らしいです。二人とも、長い間ありがとうございました」

 少し俯き気味にあれこれ考えた後、ハシャラはパッと顔を上げてミミズとミツにお礼を伝える。

 ミミズは「なんのなんの」と楽しそうに笑っていて、ミツは照れて頬を赤く染めながら微笑んでいた。

 そんなやり取りをしていると、扉をノックする音がして「どうぞ」と答えると、ナラが台車を押しながら部屋に入ってきた。

「お待たせいたしました。素材の味を確認できるようにトマトときゅうりはカットしただけ、とうもろこしは蒸しただけでございます」

 台車から野菜の盛り付けられた皿をコトっとテーブルに置いて、ナラはすすっと壁際に下がっていく。

 そんな彼女を「ナラも一緒に食べましょう。試食は多い方が良いですから」と引き止めると、ナラは困ったような嬉しそうな表情を浮かべながら「かしこまりました」と答える。

 そして部屋の隅に置いてあった簡素な椅子を持ってきて、テーブルのそばに置いて腰を下ろした。

「では、いただきます!」

 それを確認したハシャラは、そう言って手を合わせる。

 フォークを手に取り、カットされた野菜に刺して口に運んで、ひと噛みする。

 それだけで旨味が口いっぱいに広がり、みずみずしさも相まって目を見開くほどの美味しさだった。

 こっ、こんなにも変わるものなのですか……!?

「おっ、美味しいです……!」

 ハシャラがそう言うと、ミミズとミツが嬉しそうに手を打ち合わせていた。

 ナラにも食べて見るように促すと、おずおずとナラも同じように野菜を口に運び、あまりの美味しさに珍しく頬を淡く染めて「美味しいです……」と満足げにしていた。

「これなら今までより値段を上げることもできるでしょうし、出荷量も増えるのであれば売れること間違いなしです!」

 ハシャラが興奮気味にそう言うと、ナラが「そうですね」と同意してくれた。

 ミミズはにしし……と満足気に笑っている。

「一応、ここで育ててる全種類の野菜の品種改良は済んでいるんで、次の種まきから早速使えますだ」

「全種類ですか……!?」

 てっきり今の季節の野菜だけかと思ったら、品種改良が予想以上に進んでいることにハシャラは驚いた。

 するとミミズは照れくさそうに笑って答える。

「へぇ。戦闘はからっきしですだが、魔力量は多くて畑作との相性も良いもんですから、これくらいはできますだ。ミツも手伝ってくれましたしね」

「す、すごいです……」

 感心していると、ミミズもミツも「いやぁ……」と照れくさそうに微笑んでいた。

 ハシャラは感心しながらまた野菜を口に運ぼうとしてハッとして、こほんっと咳払いをしてから真面目な話をはじめた。

「で、ではまず販売担当者を呼んで試食をしてもらいましょう。その上で、できるだけ早く他領地の商人に値段交渉と販売交渉に行ってもらいます。その試食分はありますか?」

「はい。十分にありますだ」

 ミミズが真剣な表情で答えると、ハシャラはコクンっと頷いてナラの方をちらりと見る。

「販売担当者を呼んでまいります」

 ナラには何も言わずとも伝わったらしく、すぐにそう告げて部屋を出ていった。

 そこからの流れは早かった。

 販売担当者にも試食してもらったところ、うまい! といたく感動していて、これなら値上げも視野に入れられますと、ハシャラと同じことを言っていた。

 そしていくつかの試食用の野菜を持たせて他領地に交渉に向かってもらうと、多少鮮度が落ちてもうまいままだということで、大好評だったとのことだった。

 数カ所の領地からうちで販売したいとの声をもらったが、値段交渉をしつつ、その中でも一番高価で量もそこそこに買い取る三箇所の領地との販売契約が完了した。

 あまり数を売りすぎて、領民の食事量が下がるなんてことになったら元も子もないので、あくまでも厳選して選んだ。

 ハシャラの領地の野菜は瞬く間に人気になり、他領地でもちょっとした有名商品になっていた。

 そのことが、高貴な方の耳にまで届くとも知らずに……ハシャラたちは品種改良の成功をみんなで喜んだ。
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