蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

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第二章 協力してくれませんか?

第九話

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 テンたちが領地の仲間になってから、領地はあっという間に発展した。

 まずは人手が増えたことでかねてから検討していた畑の増設・酪農の導入を始める。

 畑の増設はミミズの力によってすぐできたので、領民の腹を満たすだけでなく、他領地へ売れるほどに多くの野菜を作れるようになった。

 そして最初の内はと、ハシャラがお金を出して牛を購入して、テンたちに頼んで建ててもらった牛小屋で飼い始めることで酪農も始まる。

 最初の内は数頭だけではあるけれども、領地にとっては大きな進展だ。

 牛は日中は放牧して草を多く食べさせて、夜はぐっすり眠らせるという健康的な生活を送らせて、しばらくすると牛乳も絞れるようになった。

 はじめて牛乳を飲んだ領民たちは味の濃密さに驚いていたけれど、しばらくすると飲み慣れたのかうまい、うまいと進んで飲むようになった。

 領地でできた牛乳を初めて飲んだハシャラは、感動のあまり無言で震えていた。

 牛の糞はミミズの魔力によって発酵が進められ、すぐに使える状態にしてもらったおかげで、すぐに畑に導入された。

 堆肥を使うとさらに作物が良く育つようになり、味も上がった。

 今までは魔物の住む森から食料を調達していたハシャラの食事も、領地内でできた野菜で賄われるようになった。

 そのおかげで、野菜の質が良くなっていくことを身を持って体感することができた。

 領地内でできた野菜を食べ、牛乳を飲んで、仕事はテンたちと分け合って……領民たちの健康面も飛躍的に良くなった。

 しばらくは平和に、穏やかな日々を過ごすことができていた。

「え? 収穫物が他領地でなかなか売れない?」

「はい……」

 けれどある日、収穫物の売買を主に行っている領民から相談を持ちかけられたハシャラは、彼を屋敷へと招いて話し合いをしていた。

「どうしてですか? 野菜の質も上がって、牛乳もそれなりの量が出荷できているはずですが……」

 ハシャラは純粋な疑問からそう尋ねると、領民は気まずそうに答える。

「確かに質は上がっていますし、牛乳は順調に売れています。ただ野菜の方が……すでに他領地からも同じものを仕入れているから、そんなに量を買い取れないと言われまして……」

「なるほど……困りましたね」

 せっかく畑を増設したというのに、他領地で売れなくては意味がない。

 ただ野菜に関して、これ以上できることはあるのでしょうか……。

 ハシャラがうーん……と悩んでいると、隣で話を聞いていたミミズが口を開いた。

「……んだらば、品種改良でもしますか?」

「品種改良……?」

 聞き慣れない言葉にハシャラがぽかんっとして尋ね返すと、ミミズが「んだ」と頷いて答える。

「狙った野菜同士を交配させて、美味しいものをより美味しくしたり、病気に強いものをつくったりすることですだ。これでさらに質と収穫量を上げられますだ」

「へぇ……そんな技術があるのですね。すぐに効果があるのですか?」

「滅多にすることではねぇですからね。人間がやると何十年とかかりますだが、オラの魔力を使えば一年くらいで結果が出ますだ」

 ハシャラはその答えを聞いて、少し考え込む。

 今までの領地の急成長を思うと、一年という時間がとても長く感じられたからだ。

 けれど悩んでいても現状が変わるわけではないし、とにかくやってみるしかないとすぐに決心した。

「では、ミミズはその品種改良をお願いします。野菜に関しては、今まで売っていた領地とは別のところにも売りに出せないか交渉してみてください」

 ハシャラがそう結論付けると、ミミズが「あい、分かりましただ」と答え、売買担当の領民は「分かりました。では失礼いたします」と答えて部屋を出ていった。

 ハシャラはふぅ……と一息ついて、ナラの入れてくれた紅茶を口に運ぶ。

「姫様。品種改良するにあたって、お願いがありますだ」

 するとミミズが真剣な面持ちでそう言ってきて、ハシャラは緊張しながら答える。

「なんですか……?」

「ミツバチの魔物を呼んでほしいんですだ。品種改良にどうしても必要でして……」

 何事かと思ったら、新しく魔物を呼んでほしいということで、思ったよりも平和的なお願いでハシャラはホッと胸をなでおろす。

「分かりました。何人くらいお呼びすれば良いですか?」

「一人いれば十分ですだ。いやぁ、助かりますだ」

 ミミズがホッとしたようにそう言った。

 ハシャラはミミズに頼りすぎていることを申し訳なく思いながらも、心からミミズに感謝していた。

「……いつもありがとうございます」

「へ? なんですだか? 急に……」

「何でもないですよ。ただ日頃の感謝を伝えたかっただけです」

 ミミズは急な感謝に戸惑いながらも、悪い気はしていないのか照れくさそうに頬を掻いていた。

 そんなミミズの姿を見て、ハシャラはくすっと笑いながら立ち上がった。

「じゃあ、早速ミツバチの魔物を呼び出しましょうか!」

「はいですだ」

 ハシャラとミミズは紅茶を飲み干してから、屋敷の外に出る。

 そして早速ミツバチの魔物を呼び出すために、目をつむり手を組み合わせて呪文の詠唱を始める。

「蟲神様の加護を受けし者よりお願い申し上げる。ミツバチの魔物よ。どうか私の下まで参られよ」

 しばらくすると魔物の森の方角から小さな羽音がぶうん……と近づいてきて、小さなミツバチがハシャラの前に現れた。

 普通のミツバチかと、ミミズがちらっとみてから視線を逸らすと、その小さなハチから声が聞こえてきた。

「お、お呼び出し、ありがとうございます……。み、ミツバチの魔物、ただいま参りました……」

 あまりにも普通サイズのため気付かれなかったが、少女のような可愛い声をしたこの子がミツバチの魔物らしかった。

 目を閉じているから姿は見えないけれど、あまりにも可愛らしい声にハシャラは少しほっこりとした気持ちになる。

「来てくださってありがとうございます。ミツバチの魔物さん」

 ハシャラは目を閉じたまま、ニコリとほほえみながら挨拶をする。

「……な、なぜ目を閉じているのでしょうか?」

 するとミツバチの魔物が当然の質問を投げかけた。

 ハシャラはしどろもどろになりながら答える。

「その……私は虫の見た目が……苦手でして……。できればミツバチの魔物さんも、ミミズのように人間の姿に化けていただけませんか?」

 そう告げると、ミツバチの魔物が「かしこまりました」と答えて人間の姿に化ける。

 少ししてからハシャラが恐る恐る目を開けると、目の前には長い前髪で目元を隠した、金髪ボブヘアの可愛らしい少女がいた。

「あ、あの……上手く、化けられているでしょうか……?」

「完璧です」

 不安そうに尋ねてくるミツバチの魔物に、ハシャラは即答した。

「早速ではありますが、今回お呼び立てしたのは作物の品種改良を手伝ってほしいからなのです。私には知識がないので、どうかこのミミズと協力して手伝っていただけませんか?」

「か、かしこまりました。が、頑張らせていただきます。ミミズさん、よろしくお願いします……」

「おう。よろしくだ」

 そんなやり取りをすると、ミミズが「じゃぁ、早速行こうか」とミツバチの魔物に伝えて、二人は村の方へと向かっていった。

 ハシャラはそんな二人を心の中で応援しながら見送った。
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