蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

文字の大きさ
上 下
8 / 56
第二章 協力してくれませんか?

第八話

しおりを挟む
 一人の領民がそんなハシャラを見つめていたかと思うと、口を開いた。

「お、俺は、領主様を信じる!」

 他の領民は一斉に声のした方を向き、少し考え込んだかと思うと、同じようにハシャラを見つめてから口々に答える。

「わ、私も信じます!」
「わしも」
「領主様とミミズさんのおかげで、前よりも良くなったからな。今度も大丈夫だろう!」
「ぜひお願いします! 領主様!」

 そんな信頼の言葉に、ハシャラは目元を潤ませる。

 こんな自分を信じてくれている……それだけで、ハシャラにはとてつもない喜びだった。

「みなさん……ありがとうございます」

 涙を拭って笑顔で答えると、領民たちも笑顔を返してくれる。

 そんな関係が、そんな関係になれたことがハシャラには嬉しかった。

「では早速、テントウムシの魔物たちを呼び出しましょうか!」

 ハシャラがそう言うと、領民たちが「はい!」と返事をして、前回のミミズ出現のときのことを思い出してハシャラから距離をとった。

 それを確認したハシャラは、早速目をつむり、手を組み合わせて召喚の呪文を唱え始める。

「蟲神様の加護を受けし者よりお願い申し上げる。テントウムシの魔物たちよ。どうか私の下まで参られよ」

 呪文を唱え終えて、しばらくは静かだった。

 しかし少しすると、ぶぅーん……と羽音が聞こえてきた。

 それが一つではなく、複数……大量にこちらに向かって近づいてきているのを感じて、ハシャラは目を開けて確認しようとする。

「姫様。失礼いたします」

 そんな時、後ろに控えていたナラがハシャラの目元を手で覆う。

「ナ、ナラ? どうしたのですか?」

 ハシャラが不思議に思って尋ねると、ナラは淡々と答える。

「姫様は虫が苦手でいらっしゃるので、これからの光景に耐えられないと思いまして」

 これからの光景……そう言われて、ハシャラは最初ぽかんとしていたけれど、自分が虫魔物を呼び出していることを思い出してハッとした。

 そして大量の巨大なテントウムシが飛んでくる光景を想像して、ゾゾゾっ……と背筋が震えるのを感じた。

「た、たしかに。また気絶してしまうところでしたね。ありがとうございます、ナラ。ただ自分で目を覆うので、手を離してもらって大丈夫ですよ」

「かしこまりました」

 そう告げるとナラが手を離してくれたので、ハシャラは目を力強く瞑ったまま、素早く手を目元に持っていって覆った。

 しばらくすると、ハシャラたちの上空に空を覆い隠さんばかりの巨大なテントウムシが集まっていて、周囲に凄まじい羽音を響かせていた。

 あまりの音量に領民は耳を塞ぎ、耳を塞げないハシャラは大声で叫ぶ。

「テントウムシの魔物のみなさん! 集まっていただきありがとうございます! 恐れ入りますが、人間の姿に化けて地上に降りてきていただけないでしょうか!」

 そう言うと羽音が一斉になくなり、上空で人間の姿に化けたテントウムシの魔物たちが、スタッと地面に着地した。

 テントウムシの魔物たちは人間の姿に化けると、どこにでもいそうな普通の若者になっていた。

 男性の方が少し多いが、女性の姿の者もいた。

 男性はシャツにズボン、女性はワンピース姿で……皆一様に、赤髪に黒いメッシュの入っている髪型なことだけが特徴的だった。

「も、もう大丈夫でしょうか……?」

「はい、もう大丈夫です。姫様」

 ハシャラが皆が人間の姿になっているか確認すると、ナラが後ろで静かに答えてくれ、恐る恐る手をどけて目を開く。

 目の前に大勢の若者がいることに驚いていると、テントウムシの魔物の代表らしき一名がニコッと笑いながらハシャラに近づき、ぎゅっと手を握る。

「呼んでくれてありがとう! テントウムシの魔物、みんな引き連れてきたよ!」

「こ、こちらこそ。ありがとうございます」

 あまりにもフランクな口調で、驚きながらもお礼を返した。

 虫魔物にもいろいろな方がいるのですね……。

 困惑しながらもハッとして、早速本題に入ることにした。

「皆様をお呼びしたのは、この領地の農業を手伝ってほしいからです。そのために移住もしてほしいと考えています。どうか前向きに考えていただけないでしょうか」

 ハシャラがそう告げると、まだ手を握ったままのテントウムシの魔物が手をブンブンと上下させながら答える。

「うんうん、いいよー。お手伝いも移住もOK。家は自分たちで建てれば良いかな?」

 あまりにもサクッと答えられて、逆にハシャラが戸惑っていると、代わりにと言わんばかりに後ろにいたミミズが答える。

「おう、そうしてけれ」

「OK。じゃ、早速、家の準備から始めるかな。おーい、みんなー!」

 ハシャラがぽかんっとしている間に話が進み、テントウムシの魔物は握っていた手を離して、タタッと仲間たちの方へと戻っていった。

 そして人数が多いこともあって、あっという間に家を建て始め、数日後には全ての家が完成していた。

 村にもともとあった家の間や村の端にまで、簡素ではあるものの多くの家が立ち並ぶ。

 隙間だらけで少なかった村が、半分以上が魔物とはいえ、住人が増えて賑やかになっていくことをハシャラは嬉しそうに眺めていた。

「改めまして、俺らはテントウムシの魔物。長いからテンって呼んでよ。個人名はないから、みんなテンでいいよ。これからよろしくね!」

「よ、よろしく。テンさんたち」

「テンって呼び捨てでいいよ!」

 家が完成した翌日、二パッとした笑顔でリーダーらしきテンがそう言って挨拶をした。

 挨拶を受けた領民は戸惑いながらも挨拶を返していて、テンの勢いに負ける形で握手を交わしていた。

 そんな姿を見ていたハシャラは上手くやっていけるだろうかと一抹の不安を感じながらも、テンの明るさを見ると、何とかなるだろうと思わされると楽観的になる自分もいた。

 今までは家の建設に忙しくて村の仕事を手伝うことはできなかったが、今日からは畑の仕事を手伝うということだった。

 これで領民の負担が減るだけでなく、畑増設や酪農導入に踏み切れると、ホッと胸をなでおろしていた。
しおりを挟む

更新の励みになりますので
お気に入り登録・しおり・感想・エールを
ぜひよろしくお願いいたします(*´ω`*)

感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】最強の生産王は何がなんでもほのぼのしたいっっっ!

Erily
ファンタジー
エイシャル=ベルベラットは優秀な両親をもつ貴族の令息。 父は暗黒騎士で国の騎士団の騎士長、母は死神の使いという職業。 エイシャルはどちらに転んでも超優秀なハズだった。 しかし、18歳の成人の日に開いたステータス画面の職業は、生産者…。 父と母の落胆は凄まじく、エイシャルは部屋から出るなと言われ2年間引きこもった。 そして、18歳になった弟のダルマスの職業が天雷の剣士である事が分かった。 両親は狂喜乱舞し、ダルマスを継承者に立てると、エイシャルは体良く辺境の屋敷に追い出された。 最悪な展開かと思いきや… エイシャルは、ある事がきっかけで生産スキルの力を発揮し、ほのぼの生活を謳歌していく。 そんな、超ほのぼのしたオハナシ。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...