蟲神様の加護を授って新しい家族ができて幸せですが、やっぱり虫は苦手です!

ちゃっぷ

文字の大きさ
上 下
7 / 56
第二章 協力してくれませんか?

第七話

しおりを挟む
 ミミズが仲間に加わってからは、まずは畑作を良くしようとミミズと領民が協力しながら畑作業をする毎日を送っていた。

 腰を痛めない身体の動かし方から、良質な作物をつくるためのポイントまで細かく指導し、領民も真剣に耳を傾けていて、領民とミミズの関係は良好だった。

 ハシャラも定期的に村に顔を出しては差し入れをしたり、足りない農具はないか、悩みはないかを聞いたりしていた。

 ミミズに新しい農具があった方が良いと言われたら、屋敷内にある不要な家具を売っては費用を用意して、農具を買い足すようになった。

 ただ、それだけでは解決しない問題もある。

 畑のために堆肥もあった方が良い、農作業は力仕事だから領民たちにもっと栄養をつけさせた方が良い、畑を増やして収穫量を増やしたほうが良いということだった。

 新しい農具を導入したことで領民たちの肉体への負担は少し軽くなったけれども、作物の質が良くないこと、領民の栄養不足や食事量の少なさは補いきれていない。

 さらに現在は領民の腹を満たすだけで精一杯だけれど、今後も領地経営にお金がかかることを考えると、他の領地に収穫物を売ってお金にすることも考えなければならない。

 まず、堆肥と栄養面に関しては、酪農を導入してはどうかという結論に至った。

 特に牛。

 牛がいれば糞を使って堆肥を作ることができるし、牛から絞った牛乳を飲み、廃牛にするときには牛肉で栄養面をカバーすることもできる。

 畑を増やすことに関しては、ミミズがいれば問題ないということだった。

 ただ問題はまだある。

「……人手がたりませんわ」

 ミミズと談話室で今後の領地経営について相談していたけれど、ハシャラは限界だと言わんばかりに頭を抱えてうなだれてしまう。

「確かに、人手は足りませんなぁ。これから畑・酪農を増やしていくとなると、とてもじゃないけんど、今の領民だけでは回らないですだ」

 ミミズもハシャラの意見に同意した。

 この領地では、仕事がない・貧しいことを理由に若者が出稼ぎに出てしまい、そのまま外で結婚して帰ってこないということが多かった。

 なので領地に残っているのは少ない若者と子供を除くと、ほとんどが中年~高齢の者だけになっていた。

 中年・高齢層がまだまだ元気で、畑仕事をしてくれているのがせめてもの幸いではあるが……それでも圧倒的に人手が足りない。

「屋敷内の仕事を最低限にしてもらって、蟻の魔物たちにも畑を手伝いに行ってもらってますが、それで現状なんとかなっている状態ですからね。これ以上はとても……」

「姫様がお望みとあれば、我らは昼夜問わず働く所存」

「そ、そんな! いけません! あなたたちにも休息は必要なのですから」

 ナラが恐ろしいことを言い出して、ハシャラは慌ててその提案を却下した。

 ミミズは「うーん……」と頭を悩ませていたかと思うと「あっ!」と何かを思いついた様子で手をぽんっと打つ。

 ハシャラが「何か思いついたのですか!?」と勢いよく尋ねると、ミミズが明るい表情で口を開いた。

「人手が足りないなら、増やせばいいんですだ」

 当たり前かつ不可能なことを言われて、ハシャラはがっくりと肩を落とす。

「それは……できれば良いのですが、現状、私の領地に移り住んでくれる人などいないです」

 ミミズはそんなハシャラをニコニコと見つめながら、さらに言葉を続けた。

「そう。人間はいませんだ。だから姫様の加護で虫魔物を呼んで、ここに住んで、協力してもらえば良いんですだ」

 そう言われて、ハシャラはうーん……と頭を悩ませる。

「……考えたことはあるのですが、畑や酪農を手伝ってほしいと加護を使って虫魔物を呼び出したり、虫魔物に定住してほしいと頼むのは迷惑ではないでしょうか……」

 あまりにも自分勝手ではないかと、ハシャラはなんとも言えない表情をしていた。

 そんなハシャラを見て、ミミズはケラケラと笑いながら答える。

「何をおっしゃるだ。オラたち虫魔物は、姫様のお役に立てることを喜びこそすれ、迷惑に思うことなんてないですだ。気にせず、呼び出してくだせぇ」

「ミミズの言う通りです。我らは姫様のしもべですから」

 ナラにまでそう言われて、ハシャラは照れくさそうにしながらも虫魔物本人に後押ししてもらったことで、虫魔物を呼び出す決心をした。

「呼び出すのなら、どんな虫魔物が良いでしょうか?」

 ミミズのときとは違って、基本的に力仕事をしてもらうだけなので呼び出す魔物に悩んでいると、少し考え込んでからミミズが答える。

「テントウムシの奴らなんてどうですだか。数が多いし、畑にいる害虫を食ってくれるんで、食料の心配もないですだ」

「なるほど。では早速村に行って、領民たちにテントウムシの魔物と一緒に住むことになっても良いか相談してみましょうか」

 善は急げとばかりに、ハシャラはミミズ・ナラたちを引き連れて村へと向かった。

「おや、領主様。こんにちは」
「こんにちはー」
「ミミズさんも一緒ですか。こりゃ、どうも」

 休憩中だったらしい領民たちが、ハシャラたちを見つけると口々に挨拶を始める。

 最初は警戒心バリバリだった彼らも、ハシャラが度々村を訪れ、身銭を切って農具を用意してくれていることを知って、良い信頼関係が生まれていた。

「皆さん、こんにちは。今日はご相談があって参りました。お時間、よろしいですか?」

「はぁ……もちろん、構いませんが……。おい、みんな! 領主様からお話があるぞ!」

 ハシャラがにっこりと挨拶をしながら話を持ちかけると、領民は不思議そうな顔をしながらも他の領民たちを集める。

 なんだなんだと領民たちが集まってきて、ハシャラの言葉を待つ領民たち。

 ハシャラは一度深呼吸をして、もう一度大きく息を吸ってから口を開く。

「実は今後のために畑を増やし、酪農を始めたいのですが如何せん人手不足。そこでテントウムシの魔物に移住して手伝ってもらおうと考えているのですが、いかがでしょうか?」

 ハシャラがそう尋ねると、領民たちはざわざわと相談を始める。

 ミミズで虫の魔物に危険がないこと、自分たちを助けてくれることは十分に理解しているけれど、自分たちと一緒に住むとなるとやはり不安になるらしかった。

 ハシャラはそんな領民たちの気持ちを理解しているからこそ、特に口を挟まず、彼らの返事を待った。
しおりを挟む

更新の励みになりますので
お気に入り登録・しおり・感想・エールを
ぜひよろしくお願いいたします(*´ω`*)

感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...