幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される

ちゃっぷ

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第六章 気付く恋心

第二十三話

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 急にイラホン様に抱きしめられて、どうしたのか、どうすれば良いのか分からずに戸惑っていると、耳元でイラホン様に囁かされる。

「……俺には言えないことを、あいつには言うの?」

 一瞬、何のことを言われたのか分からなかった。

 たださっきまでの会話を振り返ってみると、あいつとはカーフィンのことで、言えないことというのは私の悩みのことなのだろうと思い至った。

 そうすると顔はまだ熱いけれど、頭は少しだけ落ち着いた気がする。

「イ、イラホン様のことを、イラホン様本人にご相談するわけにはいかないから……」

「俺のこと?」

 私の返答はたどたどしいもので、すぐにイラホン様に尋ね返されてしまった。

 もうここまで来たら、イラホン様本人に私の汚い心をさらけ出してしまった方が良いのかもしれないと思い始めてきていた。

 でも……嫌われたくない。

 そう思って、言うべきか言わないべきかまた悩んでいると、イラホン様がより強くギュッと抱きしめてきた。

「……俺じゃアルサの役に立てない?」

 そう言われて、もう言うしかないなと思った。

 誰よりも役に立ちたいと思っている私に、自分は役に立っていないかと問われてしまっては……そんなことないと、否定しないわけにはいかない。

 イラホン様は誰よりも優しくて、甘くて……私に色々なことを教えてくれて、幸せにしてくれる方なのだから。

「……カ、カティ様とイラホン様が親しげにお話されているのを見て、心臓が痛くて心がざわついて……なんだか不安になってしまったのです!」

 私は心の内にあるものを、恥を忍んで正直に語った。

 すると、イラホン様が一瞬固まったのを感じる。

 嫌われただろうか……。

「……それは、嫉妬してくれたってこと?」

 でもイラホン様の声は、嬉しそうで予想外だった。

 そしてその返事も……予想外だった。

「……嫉妬?」

 私は一瞬訳が分からなくて、とても気の抜けた返事をしてしまった。

 嫉妬……とはなんだろうか。

 言葉の意味は分かっているけれど、それが自分と結びつかなくて戸惑う。

 そんな私に、イラホン様は頬をスリンと寄せて嬉しそうな声でこう言った。

「……アルサも俺のこと、好きでいてくれてるって思っても良いのかな」

 ……好き?

 イラホン様には感謝しているし、一緒にいると落ち着く……どんどん幸せを知れているし、嬉しいことも体験させてもらっている。

 戸惑うこともあるけれど、それに対して嫌悪感を抱いたことはない。

 ……それが好き?

「もちろん。私はイラホン様のことが……」

 大好きですよ……そう言おうと思ったのに、言葉が思うように出てこない。

 顔がいつも以上に熱い……胸がドキドキと高鳴ってうるさい。

 私はイラホン様のことが好き……のはずなのに、思うように言葉が出てこなくて戸惑う。

 自分で自分が分からない。

「恋だね~アルサちゃん」

 戸惑っていると、イラホン様の後ろからバハロン様がひょこっと顔を出してそう言った。

 こい……恋……?

 私が……イラホン様に恋をしている……?

 昔、使用人が教えてくれた。

 相手のことが大好きで、でもそれが思うように言葉にできなくて……相手の顔を見るだけ・声を聞くだけでドキドキして、自分だけのものになってほしいと思うのが恋だと。

 お嬢様もいつかそんな恋をしてくださいと言われたけれど、家族から虐げられて外の世界を知らない自分には無縁な話だと思っていた。

 そんな私が恋を……?

 よくよく考えてみれば、妻にしたいと言われたということは、自分だけのものになってほしいということだったのだろうか。

 カーフィンと話す私を不満そうに見ていたのは嫉妬……?

 それはつまり……イラホン様は、私に恋をしていると自惚れても良いのだろうか。

 そう思うと、ボンッと爆発するように顔が赤く熱くなる。

 戯れだと思っていたイラホン様のハグが、恋による行動かと思うと……唐突に違った意味を持ちはじめて、余計にどうすれば良いのかわからなくなる。

 アワアワと慌てるが、イラホン様は離すつもりがないらしく全く身動きが取れない。

 バハロン様はそんな様子を見て、楽しそうに笑っている。

 さらに奥に目をやると、涙目でこちらを睨んでいるカティ様。

 カティ様はイラホン様に恋をしていて、あれは嫉妬による行動なのかとふっと納得した。

 そしてさっきの私も、カティ様と同じ状態だったのかと気がつく。

 そこに思い至ると……カーフィンの様子がおかしかったことにも、その原因が自分にあることにもやっと気がつくことが出来た。
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