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第二章 やたらと甘い神様の溺愛

第七話

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 お風呂から上がるとマラクが着替え……寝間着を用意してくれていて、申し訳ないと思いながらも選択肢のない私は、大人しくそれに袖を通すことにした。

 肌触りの良い……白いふわふわとしたその服は、自分が今まで着たどの服よりも上質であることがすぐに分かって、私は自分が着ていいものではない気がして恐縮してしまった。

 そんな私にマラクはにっこりと微笑みかけ、カーディガンを私の肩に掛けながら優しく語りかける。

「旦那様にお声をかけてから、寝室へ向かいましょうか」

 旦那様という言い方に、顔が熱くなるのを感じる。

 けれどよくよく考えてみると、この姿のままイラホン様の前に出るの!? と、また違った恥ずかしさが押し寄せてきた。

 けれどイラホン様のご厚意でお風呂に入らせていただいたのに、挨拶もなしというのは失礼だろう。

 それに先にどうぞと言っていたということは、この後、イラホン様も入浴されるだろうから……できるだけ早く、お声がけした方が良いわよね。

「そ、そうね」

 私はぐるぐると頭で色々な考えが飛び交っている状態ではあるものの、促されるまま食堂に戻る。

 食堂に入ると、イラホン様が退屈そうにテーブルに肘をつきながら椅子に座っているのが見えた。

 けれど私達が戻ったのに気付くと、ぱぁっと嬉しそうな表情に一変して、椅子から立ち上がっていた。

 そしてイラホン様の視線が私の服装に移る。

「うん、寝間着姿もかわいいよ! アルサ」

 寝間着姿を見られるのも恥ずかしかったが……この姿をかわいいと、そんな嬉しそうな顔で言われるのもとても恥ずかしくて、私は赤面するしかなかった。

 熱くなる頬をおさえつつ、できるだけ赤面している顔を見られないように少しだけうつむく。

 ただでさえお風呂で全身が温かくなっていたのに、これでさらに体温が上がった気がする。

「ありがとうございます……」

 私はお風呂のお礼と褒め言葉のお礼を、絞り出すように懸命に伝えた。

 ちらっとイラホン様の方を見てみると、ニコニコと嬉しそうな満足そうな表情をしていた。

「アルサはどんな服装でも似合うね」

 そしてさらに褒め言葉を続ける。

 もう恥ずかしすぎて……頬だけではなく顔の全てを覆って、赤くなっている顔を懸命に隠す。

 ……まともにイラホン様の顔が見られない!

 でも恥ずかしいとは思うけど、イヤな気持ちはなかった。

 イラホン様の笑顔は裏表がなくて、今まで私が見てきたどの表情とも違うからだろうか。

 家族の私を見下し蔑む歪んだ笑顔とも、使用人が私を憐れみ気遣うぎこちない笑顔とも違う……もっと純粋で、温かいものを感じる。

 もっとイラホン様の笑顔が見てみたいなと指の隙間から、またちらっと覗いてみようとする。

 けれど気付いたら私のそばにイラホン様がいて、手首を優しく掴まれ、私の手は何の抵抗もできずに顔から引き剥がされていた。

 私が驚きのあまり固まっていると、イラホン様と目があって……彼は私が見たかった笑顔を浮かべていた。

「もうすぐおやすみの時間でしょ。その前に、かわいいアルサの顔をちゃんと俺に見せて?」

 少しだけ赤らんだ頬、慈愛に満ちてキラキラと輝く淡い水色の瞳、優しく上がった口角……絵画のようで、それはそれは美しい微笑みだった。

 けれどそこで、私の頭は限界を迎えた。

 ボンッと何かが破裂するように感じて、顔だけではなく頭まで熱くなるような……それでいて頭から血の気が引くような、そんな不思議な感覚を味わいながら私の意識は薄れていく。

 自分で立っていることもできなくなり、身体がふらっとよろめいて後方へと倒れていくのを感じる。

 視界が、光景がスローになる。

「アルサ……ッ!」

 最後に見えたのは少しずつ離れていくイラホン様の顔……先程の微笑みとは正反対の、血の気を失って焦った様子の顔だった。

 そんな顔をしないでください。

 私は、イラホン様の笑顔が見たいんです。

 けれど視界は真っ暗になって……かろうじて地面に倒れ込む前に、イラホン様が私の身体に腕を回して支えてくれたことだけは分かった。

 その瞬間、ふわっと優しい香りがして、私を支えるイラホン様の身体からじんわりと体温を感じる。

「アルサ! 大丈夫か!?」

 イラホン様の心配そうな声が聞こえる。

 大丈夫です、少し休めば元気になりますから……そう答えたかったが、もう口を動かす力がない。
 
 意識が消える寸前、ぼんやりとしながら、おやすみなさいと言えなかったなぁ……なんて、至極どうでも良いことを考えていたような気がする。
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